ゲームプランのないチームは負けるべくして負ける。3月25日、イランに1-2で敗れたあのゲームをひとことで表現すればこうなる。
サッカー・ドイツワールドカップアジア最終予選。アウェイでのイラン戦は予選前半戦の超ヤマ場だった。グループからは2チームが残れる。ふつうに考えれば日本とイランだ。だったら日本は順当な結果が出るように、ふつうに戦えばいい。ところが我らがブルーズはふつうじゃなかった。
いったいどういう意味か?
敗戦に直接つながった原因は大きく分けると2つだ。ひとつは総論、ひとつは各論である。
総論でいえば、まず最大の失敗はゲームプランのなさだ。前述の通り、グループからは2チームが残れるんだから、最大のライバルとは意味のないケンカをする必要はない。ならばジーコはあの試合に、いったいどんなゲームプランで臨んだのか?
相手は最強、しかもアウェイ。引き分けで充分なのだ。
0-1でリードされていた日本が、同点に追いついたのは後半21分。残りは20分ちょっとしかない。くり返しになるが相手は最強、かつ場所はアウェイだ。もし「勝つつもり」で試合を迎えたんだとしても、あの局面(時間帯や状況)ではプランを修正する必要がある。
ホーム&アウェイのリーグ戦なんだから、「まともなプロ」なら同点に追いついて残り20分という状況を瞬時に判断し、まず自動的に引き分けをイメージする。
アホな比較だが、以前、優勝を狙って臨んだ東京・渋谷区のサッカー協会主催の大会2回戦で、似たような局面に遭遇した。後半に自チームが同点にした瞬間、私はベンチに大声でどなった。
「残り時間はあと何分だ?」
サッカー選手が考えることは同じだ。アマの私ですら考えることを、なぜプロのあの人たちがやれないのか? まったく不思議でしようがない。
イランはホームなんだから当然、勝ちにくる。同点にされて前がかり(攻撃に人数をかけて前に出てくること)になるだろう。だったら守備6~7割、攻撃3~4割の比率でリスクを避け、これ以上失点しないことを最優先にする。イランが攻め切れず、あせればあせるほど思うツボだ。
相手は点がほしくて前にかかってくるんだから、イラン陣内には当然スペースができる。いいところで日本がボールを取れれば、おもしろいようにカウンターが決まるはずだ。つまり同点にした時点で、まずしっかり守り、あわよくばカウンターで加点する戦い方に切り替えるのだ。
あのアジアカップで日本は、「そうする必要もない局面」でまでそんな戦い方をしてたじゃないか? なぜ同じことができないんだ?
私はリアルタイムで試合を見ていて、同点になった時点で当然、前述のような試合運びにモードチェンジするもんだとばかり思っていた。だって残り時間はあと20分だぜ? キツいアウェイ・ゲームで「勝ち点1」を取れるんだよ。
人数をかけて守っていれば、決勝点になった局面のようにゴール前で相手をどフリーにしちゃうなんて可能性も低かったろう。同様に、あんなふうに右サイドからきっちりカリミに折り返しを入れられるのも防げたかもしれない。「たらは北海道」って笑い話はあるが、実際、すべてはゲームプランの問題に帰結していく。
中村によれば、同点になった時点でジーコに戦い方を確認したらしい。するとジーコの答えは「攻めろ」だったという。
アホですか?
これだからブラジル人は困るんだよ。彼らの「血」は勝つことしか考えてないんだ。ブラジル人とかユーゴあたりの人は、試合中、カーッと頭に血がのぼって視野狭窄になる。もし監督がイタリア人なら、同点にした時点で迷うことなく守備的にしていただろう。
もうひとつのポイントは各論になる。あれだけ2トップが「殺し切られ」て、勝てるわけないじゃないか。日本は4-4-0のシステムで戦ってたのと同じだ。トップに入るボールもサイドからのクロス以外はひどいのが多かった。
玉田に対しては、日本のMF、DFはバックラインの裏へロングボールを放り込んでばかりいた。玉田のスピードを生かそうと考えたのかもしれないが、彼にはそんなボールの受け方をするつもりがない。すると当然、ボールが出た瞬間に「よーい、ドン」でマーカーとボールを追うことになる。
バックラインの裏にボールが出てるんだから、(当たり前だが)ボールに近いのは玉田よりマーカーのほうだ。「よーい、ドン」で同時にスタートしたら、敵を背負って守るハンデはあるにしろ相手の守備者が有利だ。結局、結果的にすべて敵にパスするのと同じ形になっていた。
もしボールの出し手と受け手の間で「裏に出す」「裏でもらう」って意思統一があったなら、玉田はマイボールになった瞬間に裏に向かってスタートを切るだろう。すると彼が走り出した「あと」にボールが出る。
こうすればオフサイドぎりぎりでマーカーの背後に飛び出し、先にボールキープできる可能性が生まれる。だが試合の間中ずっと、彼らはそんな工夫をする様子すらなかった。
イラン戦は鈴木のようなポストプレーヤーがいないこともあり、グラウンダーの速いボールがFWの足元に通り、FWがダイレクトではたいてそれをいったんサイドに展開し、みたいな形がまったくなかった。
フィニッシュに行く形は、「長い浮きダマの放り込み」、もしくは「右サイドから」のどっちかしかなかった。攻めが2パターンしかないんだから、そりゃ相手は守りやすいわな。
一方の高原はといえば、これはもう終わってる。私に2度と高原のあのぶざまな姿を見せないでくれよ頼むから。彼は足元にきたボールすらきっちりトラップして止められない。あれじゃあ、攻めになるはずがないじゃないか。
足元だよ、足元? まだ私のトラップのほうがうまいんじゃないか? と、目を疑うようなありさまだった。途中で柳沢が入ってボールタッチするのを見て、大人と子供くらいの技術の差があるのが歴然としていた。
純粋に技術だけで見れば、日本人FWのトップは柳沢だ。けど、柳沢には積極性がない。かたや高原は積極性の固まりだが、あまりにも技術がなさすぎる。2人を足して2で割れば一人前なんだが、そういうバランスの取れたFWが日本にはなかなか出てこない。
イラン守備陣は日本の2トップの背中に複数人数で張り付き、ゴール方向に決してふり向かせない守備の仕方をしていた。もしあそこで鈴木がいたら、バックチャージでファウルをもらうことができたろう。
フリーキックになればこっちには中村って飛び道具がある。しかも位置はペナルティエリア付近の「おいしい場所」だ。鈴木がいれば向こうが厳しくくればくるほどこっちの思うツボになる。だがフィールドにいたのは鈴木ではなく、味方のパスをむなしくはじいてばかりいるデクノボウの高原だった。
また特別に「対イラン仕様」の布陣を組むなら、(あんまり現実的じゃないが)中田と中村のポジションを逆にすることだって考えられた。イランは(イランから見て)右サイドが攻めの軸になるのがわかってるんだよ。あの選手の構成とシステムを見ればさ。
なら、対人プレイに強く守備もできる中田を左に置いて三浦と組ませ、イランの攻撃に対応させるやり方もあった。一方、中村は守備の負担を軽くして右サイド(というより右前からセンターにかけて)にポジショニングさせ、彼を攻撃の軸にするって発想だ。こうすると4-4-2というより、4-3-1-2のようなシステムになる。「1」が中村だ。いや厳密にいえば4-2-1-1-2か。
これなら中村はゴールに近いソーンでプレイできる。実際の試合では、中村は自分のサイドから攻めてくるイランの攻撃陣に対し、「守備者」として対応するのに追われていた。そのためにマイボールになっても消える時間が多かった。
私は個人的には中村をあんまりいい選手だと思ってない。だが彼を使い、生かすとすればそれなりのやり方がある。もし私が監督で彼を使うのが前提なんだったら、前述のシステムも考えたろう。
代表でブランクのあった中田をイラン戦で急に入れれば、全体の連携は急造になる。どうせ付け刃なんだったら、中田を左に置いて守備にも使い、そのぶん中村を右から中央にかけて攻めに使おう。私ならそんな考え方をする。どっちみち連携が取れてないなら、効果的なオプションを選んだ方がいいに決まってる。
「守る中村」と「攻める中村」なら、チームにとってどっちが貢献度高いと思います? だれに聞いたって答えはあきらかだろう。
それから細かい局面で見れば、1点目の失点は交通事故みたいなもんだ。ん? ちょっと採点が甘いか。
厳密に言えば、あの強いボールに対して敵のアタッカーが開いたために、日本の選手3人が固まって思い切り右に引っ張られた。で、中央が開いてしまい、たまたままん中にこぼれたボールをフリーで決められている。シビアに分析すると、センターのスペースを埋めきれてなかったのが失点の原因だ。
とはいえ、偶然ボールがこぼれた位置が「どうぞ決めてください」てなタイミングと場所だったのも事実である。まあ、あれはしかたないと言えばしかたない。
問題は2失点目だ。折り返しが入った局面で見れば2対1なんだよ。日本の守備者のほうが1人多いんだ。1人余ってカバーはいるんだから、もっとボールホルダーのカリミと距離を詰め、最悪、折り返しをカラダに当ててはじきたいところだった。
だが右サイドでカリミがボールをもったとき、対面にいた中沢がちょっとバランスをくずして瞬間、動きが止まった。そのためにカリミは密着マークを受けることなく、余裕をもってボールを処理できた。カリミにあれだけゆとりをもたせちゃ、ピンポイントのボールを入れるよ。だって、カリミだぜ?
ゴール前のマーキングもおそまつだった。加地はボールに意識が行って、ヘッドを決められたときは完全に「後追い」の形だった。あんなにフリーにしちゃったらシュート練習と同じだよ。
あのヘディングって、楽々、ゴールの右スミを狙ってるんだよ。つまりコースを狙う余裕がたっぷりあったわけだ。あれじゃあ、やられて当然だよねえ……。
まとめると、1失点目はなかば交通事故だ。2失点目は完全なマーキングのミス。どっちもくずされて取られた点じゃない。自滅である。
これまた細かい各論をいえば、なんで小野と小笠原を替えるんだ? 小野のコンディションが悪かったのか? あの試合の中盤でいちばんデキがよく、「日本の芯」になってたのは小野だよ、ジーコさん?
唯一、救いは右サイドからの攻めが、もう安心して見られるって確信をもてたことだ。加地はさんざん叩かれてきたが、いまや完全に自分のフォルムを維持できている。大きなポイントである。
いろいろ細かい指摘をしたが、原稿の後半以降はすべて各論にすぎない。すべては冒頭に書いた通り、「ゲームプランのなさ加減」が招いた敗戦だ。
もっとサッカーをよく知ってる監督にやってもらったほうがいいんじゃないの? そんなふうにすら思える「勝ち点0」だった。あーあ。やってらんないよ、まったく。
さあ、次だよ、次。バーレーン戦でぶっちぎろうぜ。
●この記事がおもしろかった人はクリックしてちょ♪
人気blogランキングに投票!