①『スーザンのかくれんぼ』偕成社
ルイス・スロボドキン 山主敏子訳
1961年の絵本。日本では1970年に出版になり、2006年に新装復刻になりました。
クモの嫌いなスーザンに、クモを見せようとする兄たちから隠れようと必死で隠れ場所を探すスーザンの物語。
どこに隠れてもだれかに見つかってしまいますが、やっといい場所を見つけます。いろいろとアドバイスしてくれる大人たちとの交流も楽しく、みんながスーザンを探し回るところも愉快です。「あたし、ここにいるわ」と飛び出していったスーザンのどこか誇らしげな表情も楽しいです。
白黒のページと交互に出てくる、緑と黄色のやさしい色使いのカラーのページがとても美しいです。
『たくさんのお月さま』や『百まいのドレス』の挿絵もスロボドキンです。
②『はしれさんてつ、きぼうをのせて』 WAVE出版
国松俊英/間瀬なおかた
、最近、新聞で三陸鉄道がやっと全線開通したという記事を読んだ方も多いと思います。夏はお座敷列車、冬はこたつ列車で知られる三陸鉄道・北リアス線ですが、3年前の東日本大震災で大きな被害を受けました。でも震災からわずか5日目には久慈駅と陸前野田駅間で、さらに9日目には宮古駅と田老駅間で運転を再開します。
どうしてそんなことができたのか。列車を走らせることでなんとか前に進もうとした「さんてつ」社長の望月さんと職員の方たちの、大きな決断と大変な努力の物語です。「カルボナード島越駅」「カンパネルラ田野畑駅」など、宮沢賢治の作品に登場する地名や人名も駅名になっているのを知ることができます。
絵は乗り物をたくさん描いている間瀬さんです。白い車体に赤と青の線が際立つ「さんてつ」が力強く、しかも美しく描かれて心に残ります。
③『マッチ箱日記』 BL出版
ポール・フライシュマン/バグラム・イバトゥーリン 島式子・島玲子訳
中高生向きの『種をまく人』『風をつむぐ少年』の作者ポール・フライシュマンの2013年の絵本です。早くも昨年の8月には日本でも出版になりました。いまアメリカで本屋と骨董屋を営む、イタリア生まれの曾祖父とひ孫の交流を描いた物語。
子どもの時に移民としてアメリカにやってきた曾祖父は字を読むことも書くこともできませんでした。でもオリーブの種やお父さんの写真、ヒマワリの種や日付の入った新聞記事の切れ端などを大事に小さなマッチ箱に残していきます。それは曾祖父の生きた証しだったのです。
ひ孫の女の子はマッチ箱の中のものを見せてもらいながら、曾祖父の語るその話にじっと耳を傾けます。曾祖父の貧しく苦しい人生が豊かに感動的に語られます。
モノトーンで描かれる曾祖父の回想部分と現在の二人を描くカラーの部分がリアリティーを持って描かれていて印象深いです。高学年におすすめの絵本です。
④『パディントンの大切な家族』 福音館書店
マイケル・ボンド 田中琢治・松岡享子訳
おなじみの「くまのパディントン」のシリーズ10作目です。ブラウン夫妻がパディントン駅で見つけたので、その駅名からパディントンと名前がついたくまのパディントンの愉快な物語です。
なぜかパディントンのゆくところ、厄介なことが起こり、大変な騒ぎになります。今回もグル―バーさんを助けようとお金儲けを考えたパディントンは騙されて掃除機を買わされたり、グル―バーさんと裁判所に傍聴に行くとなぜかブラウンという人と間違われて証人台に立たされたりします。ペルーの老グマホームにいるはずのルーシーおばさんがイギリスにやってくる話も興味深かったです。パディントンはもしかしておばさんと一緒にペルーに帰ってしまうのではと心配するブラウン一家の人たちでしたが、パディントンはそんなこと、考えてもいなかったようです。
お話はまだ続くのでしょうか。まだ読んでいない人は1冊目からどうぞ読んでみてください。
⑤『物語ること、生きること』 講談社 上橋菜穂子
「守り人」シリーズ全10巻、『獣の奏者』全4巻の作者であり、大学で文化人類学を教える大学の先生でもある上橋さんがどうして子どもの本の書き手になったのか、子どもの頃のことや読んだ本のことなどについて興味深く語った本です。サトクリフの『第9軍団のワシ』との出会い、ボストンさんに手紙を書いてお会いできたこと、最初の作品が出版されるまでのいきさつなど、とても興味深いです。
3月24日、国際アンデルセン賞作家賞に選ばれました。日本では2人目、20年ぶりの受賞です。