新しく買った本 5月
①『アグネスさんとわたし』 ジュリー・フレット 横山和江訳岩波書店 2022.12
主人公キャセレナはカナダ先住民のひとつ、クリー族の少女です。お母さんとふたり海辺の町から田舎へ引っ越してきす。スノードロップの咲く野原の向こうに住むアグネスさんというおばあさんとの出会いを通して、大好きだった絵をまた描き始めるキャセレナの心の変化を季節の移り変わりとともに描いた静かなたたずまいの絵本。コラージュの絵本です。
アグネスさんは豊かな自然の中でものを作る人。そんなアグネスさんとの出会いを通して、キャセレナの心にも少しずつ絵を描きたいという思いが戻ってきます。年の差を越えたふたりの友情が心に残ります。クリー族のすてきな言葉にも出会えます。
10月の満月はクリー族の言葉で「鳥のわたりの月(ピミハウピーシム)」というそうです。
『わたしたちだけのときは』もジュリー・フレットの絵本です。
②『せんろはつづく にほんいっしゅう』 鈴木まもる 金の星社 2021.9
日本を12ブロックに分けて、どんな電車がどんなふうに走っているか、絵とおはなしで興味深く紹介した絵本。網の目のようにたくさんの電車が走る東京から出発し、時計回りの逆で日本一周します。日本中、線路が縦横無尽に続いていることに驚きと感動をもらえます。スピードを上げて走る新幹線はもちろん、どの電車もかっこよく、見ているだけで楽しくなります。特に海の底の青函トンネルや関門トンネルを走る新幹線は見開き一杯に描かれ感動的です。電車の型や名前、路線名、駅名、さらに駅弁の情報まで興味深い情報がいっぱいの旅の絵本です。案内役は『せんろはつづく』1作目から登場している6人の子どもたち。楽しそうに動き回る子どもたちと一緒に日本一周の旅を楽しめます。
③『鳥は恐竜だった 鳥の巣から見た進化の物語』 鈴木まもる アリス館 2022.7
ティラノサウルスの大きな顔が描かれる表紙は印象的です。裏表紙にはさまざまな形の鳥の巣が描かれています。鳥の巣研究家として活躍する鈴木まもるさんの興味深い、鳥の巣から見た進化の物語です。
東南アジアに住むキムネコウヨウジャクの鳥の巣は人間のお母さんのおなかの中で赤ちゃんが育っていく形と似ています。キムネコウヨウジャクはどうしてこんな形の巣をつくったのか、それが恐竜から鳥への進化を考えるきっかけになったと鈴木さんは言います。鳥がどうして空を飛ぶようになったのか、なぜ恐竜は絶滅し、鳥たちは生き残ったのか、どうして恐竜から鳥へと進化したのか、今ある多様な形の鳥の巣を通して考えていきます。
絵も文章も素晴らしく、たくさんの感動をもらえます。世界中には9000種以上の鳥がいるそうですが、この絵本で描かれた鳥はいったいどのくらいの数になるのか気になるくらい、たくさんの色さまざまな鳥たちに出会えます。
鳥の巣の絵本を描き続けてきた鈴木まもるさんの集大成と言える本です。
④『ヒナゲシの野原で 戦火をくぐりぬけたある家族の物語」 マイケル・モーパーゴ/マイケル・フォアマン 佐藤見果夢訳 評論社 2021.8
100年前の第一次世界大戦の激戦地だったフランダース(ベルギーの北西部)は1914年
12月、イギリス兵とドイツ兵が奇跡のようなクリスマス休戦を実現した場所の一つでもあるのですが、今も赤いヒナゲシの花が何百万本も咲き誇り、あちこちに墓地や戦没者記念碑があり、不発弾が今なお残るところです。
主人公のマルテンスはここに祖父と母と3人で暮らす男の子です。マルテンスがまだ赤ちゃんの頃(今から11年前)、マルテンスの父も不発弾の犠牲になります。祖父が孫に語る家族の長い感動の物語です。それは家の玄関に飾ってある額に入った「ヒナゲシの詩」にまつわる物語。第一次世界大戦の時、祖父の母親がまだ8歳だった時、イギリスの野戦病院の軍医だった人が書いた詩の書き損じをもらったことから始まります。その後、その詩が不思議な出会いをもたらし、代々、家族のお守りのように大事にされていく様子が感動的に語られます。
マルテンスの父親が亡くなる直前(クリスマスの日の朝のこと)、父親はヒナゲシ畑で不思議な光景を目にします。軍服姿のイギリス兵とドイツ兵が歩み寄って握手を交わしている姿です。その後、畑に出かけた父親は不発弾で命を落とします。ヒナゲシの詩と戦争の悲惨さ、そして平和を思う父親の最後の姿をマルテンスにしっかり伝える祖父の姿が心に残ります。
「あとがき」には、ジョン・マクレーのこの詩が世界中に知られるようになったいきさつや、その後、イギリスでヒナゲシの花が戦没者追悼のシンボルとして広まっていく様子が詳しく語られています。
⑤『ナチュラリスト 生命を愛でる人』 福岡伸一 新潮文庫 2021
少年時代の福岡さんが何に夢中になっていたか、図書館で偶然見つけた『原色図鑑 世界の蝶』との出会いやヒュー・ロフティングの『ドリトル先生航海記』との出会い、それをこよなく愛し、ずっとドリトル先生のようなナチュラリストを目指していく姿が興味深く語られています。ドリトル先生の物語の舞台を探すイギリスへの旅も興味深いです。繰り返し作品を読み返し、深い読みにも驚きます。
ドリトル先生シリーズ12巻のすぐれた作品論です。また2014年には福岡さん自ら『ドリトル先生航海記』を翻訳(新潮社)していることも知ることができます。同じ時期、「プー」の話の新訳に挑戦していた阿川佐和子さんとの往復書簡も興味深いです。
福岡さんの『新ドリトル先生物語 ドリトル先生 ガラパゴスを救う』(朝日新聞出版 2022.7)と一緒に楽しみたい本です。
①『アグネスさんとわたし』 ジュリー・フレット 横山和江訳岩波書店 2022.12
主人公キャセレナはカナダ先住民のひとつ、クリー族の少女です。お母さんとふたり海辺の町から田舎へ引っ越してきす。スノードロップの咲く野原の向こうに住むアグネスさんというおばあさんとの出会いを通して、大好きだった絵をまた描き始めるキャセレナの心の変化を季節の移り変わりとともに描いた静かなたたずまいの絵本。コラージュの絵本です。
アグネスさんは豊かな自然の中でものを作る人。そんなアグネスさんとの出会いを通して、キャセレナの心にも少しずつ絵を描きたいという思いが戻ってきます。年の差を越えたふたりの友情が心に残ります。クリー族のすてきな言葉にも出会えます。
10月の満月はクリー族の言葉で「鳥のわたりの月(ピミハウピーシム)」というそうです。
『わたしたちだけのときは』もジュリー・フレットの絵本です。
②『せんろはつづく にほんいっしゅう』 鈴木まもる 金の星社 2021.9
日本を12ブロックに分けて、どんな電車がどんなふうに走っているか、絵とおはなしで興味深く紹介した絵本。網の目のようにたくさんの電車が走る東京から出発し、時計回りの逆で日本一周します。日本中、線路が縦横無尽に続いていることに驚きと感動をもらえます。スピードを上げて走る新幹線はもちろん、どの電車もかっこよく、見ているだけで楽しくなります。特に海の底の青函トンネルや関門トンネルを走る新幹線は見開き一杯に描かれ感動的です。電車の型や名前、路線名、駅名、さらに駅弁の情報まで興味深い情報がいっぱいの旅の絵本です。案内役は『せんろはつづく』1作目から登場している6人の子どもたち。楽しそうに動き回る子どもたちと一緒に日本一周の旅を楽しめます。
③『鳥は恐竜だった 鳥の巣から見た進化の物語』 鈴木まもる アリス館 2022.7
ティラノサウルスの大きな顔が描かれる表紙は印象的です。裏表紙にはさまざまな形の鳥の巣が描かれています。鳥の巣研究家として活躍する鈴木まもるさんの興味深い、鳥の巣から見た進化の物語です。
東南アジアに住むキムネコウヨウジャクの鳥の巣は人間のお母さんのおなかの中で赤ちゃんが育っていく形と似ています。キムネコウヨウジャクはどうしてこんな形の巣をつくったのか、それが恐竜から鳥への進化を考えるきっかけになったと鈴木さんは言います。鳥がどうして空を飛ぶようになったのか、なぜ恐竜は絶滅し、鳥たちは生き残ったのか、どうして恐竜から鳥へと進化したのか、今ある多様な形の鳥の巣を通して考えていきます。
絵も文章も素晴らしく、たくさんの感動をもらえます。世界中には9000種以上の鳥がいるそうですが、この絵本で描かれた鳥はいったいどのくらいの数になるのか気になるくらい、たくさんの色さまざまな鳥たちに出会えます。
鳥の巣の絵本を描き続けてきた鈴木まもるさんの集大成と言える本です。
④『ヒナゲシの野原で 戦火をくぐりぬけたある家族の物語」 マイケル・モーパーゴ/マイケル・フォアマン 佐藤見果夢訳 評論社 2021.8
100年前の第一次世界大戦の激戦地だったフランダース(ベルギーの北西部)は1914年
12月、イギリス兵とドイツ兵が奇跡のようなクリスマス休戦を実現した場所の一つでもあるのですが、今も赤いヒナゲシの花が何百万本も咲き誇り、あちこちに墓地や戦没者記念碑があり、不発弾が今なお残るところです。
主人公のマルテンスはここに祖父と母と3人で暮らす男の子です。マルテンスがまだ赤ちゃんの頃(今から11年前)、マルテンスの父も不発弾の犠牲になります。祖父が孫に語る家族の長い感動の物語です。それは家の玄関に飾ってある額に入った「ヒナゲシの詩」にまつわる物語。第一次世界大戦の時、祖父の母親がまだ8歳だった時、イギリスの野戦病院の軍医だった人が書いた詩の書き損じをもらったことから始まります。その後、その詩が不思議な出会いをもたらし、代々、家族のお守りのように大事にされていく様子が感動的に語られます。
マルテンスの父親が亡くなる直前(クリスマスの日の朝のこと)、父親はヒナゲシ畑で不思議な光景を目にします。軍服姿のイギリス兵とドイツ兵が歩み寄って握手を交わしている姿です。その後、畑に出かけた父親は不発弾で命を落とします。ヒナゲシの詩と戦争の悲惨さ、そして平和を思う父親の最後の姿をマルテンスにしっかり伝える祖父の姿が心に残ります。
「あとがき」には、ジョン・マクレーのこの詩が世界中に知られるようになったいきさつや、その後、イギリスでヒナゲシの花が戦没者追悼のシンボルとして広まっていく様子が詳しく語られています。
⑤『ナチュラリスト 生命を愛でる人』 福岡伸一 新潮文庫 2021
少年時代の福岡さんが何に夢中になっていたか、図書館で偶然見つけた『原色図鑑 世界の蝶』との出会いやヒュー・ロフティングの『ドリトル先生航海記』との出会い、それをこよなく愛し、ずっとドリトル先生のようなナチュラリストを目指していく姿が興味深く語られています。ドリトル先生の物語の舞台を探すイギリスへの旅も興味深いです。繰り返し作品を読み返し、深い読みにも驚きます。
ドリトル先生シリーズ12巻のすぐれた作品論です。また2014年には福岡さん自ら『ドリトル先生航海記』を翻訳(新潮社)していることも知ることができます。同じ時期、「プー」の話の新訳に挑戦していた阿川佐和子さんとの往復書簡も興味深いです。
福岡さんの『新ドリトル先生物語 ドリトル先生 ガラパゴスを救う』(朝日新聞出版 2022.7)と一緒に楽しみたい本です。