『東北の地から届いた ハートフルなさき編み love for TOHOKU』
野田治美+Tsubomi著、文化出版局編、文化出版局、2013年
宮城県東松島市。日本三景のひとつ、松島の奥に位置し、航空自衛隊のアクロバット飛行隊・ブルーインパルスが在籍する松島基地がある場所としても知られています。
おととしの東日本大震災による地震と津波は、この街にも容赦なく襲いかかり、大きな被害をもたらしました。1000人を越える方々の命が奪われ、10000軒以上の家屋が倒壊したのです。
その東松島市で、仮設住宅などに住む女性たちによって結成された編み物チームがあります。どんな環境でも生命力あふれた顔を出す花のように頑張っていこう、とつけられたチームの名前は「Tsubomi」(つぼみ)。
本書は、そのTsubomiの皆さんによる「裂き編み」によって作られた編み物作品集です。
「裂き編み」とは、家庭や企業で必要とされなくなった洋服や布を、細く裂いたり切ったりしてつなげて編んでいくという手法。そこには、物を大事にすることで循環型社会を目指そう、という思いが込められています。
ブルージーンズから生まれたシャネル風デニムバッグ、チェックのワンピースから生まれたショルダーバッグ、Tシャツから生まれたルームシューズやペットボトル入れ•••などなど。
いずれも、おしゃれで気が利いていて、そして暖かみを感じるような素敵なリメークぶり。余り布も捨てることなく、チャームやコースター、ハンガーアレンジなどの形で活かしています(巻末には、それぞれの作り方を図入りで詳しく説明)。
編み物には詳しくないわたくしでありますが、いくつかの品を暮らしに取り入れてみたくなってきたくらい、それらは作品として実に魅力的でした。
「Tsubomi」プロジェクトを立ち上げたのは、本書の著者のひとりであるデザイナー、野田治美さん。震災後、支援活動に参加して現地の方々と交流する中で、「人としての希望や生きがいが感じられる自立支援の必要性を強く感じ」た、といいます。
「誰もが感じる喜びや生きがいは、自分の存在が認められ、必要とされることで得られます。そして、わずかでも収入という自立へ向けた場があることです。」
こうしてスタートした「Tsubomi」プロジェクト。全く編み物ができない方をはじめとして、技量も年齢もさまざまな人たちが集まってのスタートでしたが、丁寧な物作りが評価され、今では企業や個人からの注文をいただけるようになったとか。何より、集まった人たちが編み物を通して交流し合い、共存することのできる場ができたということは、とても大きな収穫だったのではないか、と思います。
本書に作品を寄せたメンバーの方々も家を失い、中には家族も失った方もおられます。しかし、それぞれの方のコメントからは、「Tsubomi」の活動からささやかながらも生きがいを見出すことができた喜びが伝わってきました。いくつか引いてみます。
「毎日が無気力な生活に。社会から取り残されるのではないだろうかと不安でした。そんな時にこのプロジェクトに参加しました。好きな物作りができ、仲間との交流も楽しく、試行錯誤しながらも定番で作る商品も決まりました。前進あるのみ。前向きに取り組んでいきたいと思っています。」
「部屋で一人、何もしないで考え込んでいるよりも、仕事でも、編み物でも何でも夢中になれるものがほしかった。(中略)編み物をしている時だけ地震のことや津波のことは忘れられて楽しく時間が過ごせました。」
本書を読んでいて、今月(11月)はじめにNHKの『明日へ -支えあおう-』の枠で放送されたドキュメンタリー『東北グランマ 世界へはばたく』を思い出しました。
岩手県陸前高田市の主婦たちによる縫製チーム「東北グランマ」が、スイス人ファッションデザイナーのカズ・フグラーさんと手を組み、自分たちの作ったバッグや小物などの商品をスイスへ売り出していこうと奮闘するさまを追った、まことに痛快なドキュメンタリーでした。それに登場していた「東北グランマ」の方々も、手仕事によって生きがいと誇りを取り戻していこうとしておられました。
手仕事により、生きがいと誇り、そして希望を得られるような支援。その志は、カズ・フグラーさんの「東北グランマ」との連携、野田治美さんによる「Tsubomi」プロジェクト、いずれにも共通しているように感じられました。
あの大震災から2年8ヶ月以上が経ちましたが、被災者にはまだまだ、生活再建もままならない方々も多いという悲しい現実があります。
そんな中、「Tsubomi」プロジェクトのように、一人一人が生きがいを得ることができるような生活支援が、さまざまな分野において広がっていって、それらから東北の新たな産業が生まれていけたら•••と思います。
そして、そこから生み出された産品を少しでも多く購入していくこと。それが、東北から離れた地に住む我々にできるせめてもの支援なのではないか、とも思うのです。
これからも「Tsubomi」がぐんぐんと成長して、大輪の花を咲かせていくことを、願ってやみません。