おととい夜と昨夜、2回シリーズとして放送されたNHKスペシャル『神の数式』。素粒子物理から、宇宙誕生の謎に関わる一般相対性理論や超弦理論を扱った難易度の高いテーマながら、わかりやすく噛み砕いた説明と流麗な映像により、数学や物理が苦手なわたくしのような向きにも楽しめる、上質の知的エンタテインメントに仕上がっておりました(ぜひソフト化希望)。
以下、それぞれの回を観終わったあとでFacebookに綴った文章を、一部手直しと再構成を施して当ブログにも掲載しておきたいと思います。
NHKスペシャル『神の数式』第1回「この世は何からできているのか ~天才たちの100年の苦闘~」
初回放送=9月21日(土)午後9時00分~9時58分
語り=小倉久寛、上田早苗
この世の全てのものは、一つの数式によって説明できるはずだ•••。そんな究極の数式である「神の数式」を長きにわたり追い求め続けた、人類の知的格闘のドラマの映像化に挑んだ2回シリーズの1回目です。
「物理法則は、数学的に美しくなければならない」との信念のもと、全ての「対称性」を持つ「完全に美しい」数式により、電子の謎を解明したポール・ディラック。
電磁気力の謎に挑みながらも、「万物は存在できない」という「無限大」の問題にぶつかり、それを解決できないまま原子爆弾開発へと駆り出されていったロバート・オッペンハイマー。そのオッペンハイマーが解決できなかった「無限大」問題を解決した、日本の朝永振一郎。
粒子の重さがゼロになる、との矛盾に対して、鉛筆をまっすぐに立てられるか、との設問からスタートして「完璧な美しさは崩れる運命にある」という「自発的対称性の破れ」理論を導き出して矛盾を解決した、2008年ノーベル物理学賞受賞者の南部陽一郎。
ヒッグス粒子という、まだ存在しない粒子を導入して、電子とニュートリノの質量問題を解明しようとしたスティーヴン・ワインバーグ。そして昨年、ついに存在が確認されたヒッグス粒子•••。
この世界が何によってつくられ、動かされているのかを、必死に探求してきた物理学者たちの知的格闘の歩みは、数学も物理もさっぱりというわたくしにも興味深く面白いものでした。
番組は、複雑な物理の理論を極力噛み砕いて説明してくれていて、かなりわかりやすかったと感じました(それでも、ボッとしているとわからなくなりそうな瞬間がありましたけど)。
それにしても、ディラックが導き出した完璧な美しさで記述された方程式を見て「涙を流した」と語る物理学者には、「やはりアタマの構造が違いすぎるなあ」と思うばかりでありましたが•••。
ともあれ、思いのほか夢中で観ることができた、上質の知的エンタテインメントでした。
NHKスペシャル『神の数式』第2回「宇宙はどこから来たのか ~最後の難問に挑む天才たち~」
初回放送=9月22日(日)午後9時00分~9時58分
語り=小倉久寛、上田早苗
20世紀を代表する天才、アルバート・アインシュタインが作り上げた「一般相対性理論」。「物に重さがかかると空間がゆがむ」ことを証明したこの理論は、宇宙誕生の謎に迫るものだとして注目されました。
しかし、その落とし穴を指摘したのが、車椅子の天才物理学者スティーヴン・ホーキンスでした。彼は、ビッグバンと理論上は同じであるブラックホールの奥底では、一般相対性理論は通用しないことを主張したのです。
そこで、第1回で取り上げられたミクロの世界を記述する素粒子の数式と、一般相対性理論とを組み合わせればいいのでは、との試みが物理学者たちによりなされます。ところが導き出された答えは、分母がゼロになる「無限大」。すなわち、この世界は存在できないことにされてしまうというのです。
そんな中、ジョン・シュワルツらによって提唱されたのが「超弦理論」(または超ひも理論)でした。素粒子は「点」ではなく、輪ゴムのように震える「弦」である、とするこの理論により、「無限大」問題は解決しました。しかし、現実に存在する4次元どころか、10次元の存在を前提とする途方もない理論ゆえ、長きにわたり主流の物理学者たちからは認められませんでした。
その流れを変えたのがマイケル・グリーンによる研究でした。グリーンは、超弦理論には素粒子の数式と一般相対性理論がキチンと組み込まれていることを証明。導き出された数値は「完全数」を意味する「496」だったのです。こうして超弦理論は、宇宙誕生の謎を解くための鍵として、多くの物理学者たちに認められたのでした•••。
ブラックホールに異次元などなど、前回以上に途方もない話が展開された第2回。正直、前回よりもさらにアタマを使いながら観ることになりましたが、とても壮大かつ刺激的な内容で楽しめました。
そして、ここでも興味を惹いたのが、宇宙誕生の謎に挑み続けた天才物理学者たちのドラマでした。中でも「無限大」問題に挑みながら、スターリンによる学者や知識人の弾圧により、若くして非業の死を遂げてしまった、ロシアのマトベイ・ブロンスタインのエピソードは印象的でした。
もう一つ興味を惹いたのは、一般相対性理論や超弦理論の弱点を突いていたのが、同じホーキングだったということでした。結果として、ホーキングが提示した弱点を乗り越えるような新たな理論や研究が出てきたことで、宇宙誕生の謎をめぐる探求が進歩していくことになったのです。
反論のための反論、否定のための否定ではない、ポイントを的確に突く反論や疑義の提示。それを乗り越えるような実証と理論の構築。その繰り返しが科学を進歩へと導く、ということをあらためて認識することができました。その意味でも、ホーキングの存在というのは大きかったんだなあ、と感じます。
番組の最後、超弦理論の提唱者であるシュワルツが語っていたことばが心に残りました。
「探求を続けることが、何よりも素晴らしいのです」
そう、『神の数式』2回シリーズが教えてくれたのは、探求することの素晴らしさと面白さ、だったように思います。
以下は誠にどうでもいい余談ですが•••。
第1回の登場人物の一人である南部陽一郎さんの著書『クォーク 第2版』と、南部さんや益川俊英さんとともに2008年ノーベル物理学賞を共同受賞した小林誠さんの『消えた反物質』(以上いずれも講談社ブルーバックス)、さらに立花隆さんによる小林・益川理論の解説書『小林・益川理論の証明』(朝日新聞出版)。3冊とも、南部さんたちがノーベル物理学賞を受賞したあとに買ってはいるのですが、いまだにキチンと読めてはおりません(苦笑)。
今回の番組を観て、あらためて南部さんたちの業績への興味が湧いてきたのですが•••やっぱり読んでもワケはわからないんだろうなあ。
以下、それぞれの回を観終わったあとでFacebookに綴った文章を、一部手直しと再構成を施して当ブログにも掲載しておきたいと思います。
NHKスペシャル『神の数式』第1回「この世は何からできているのか ~天才たちの100年の苦闘~」
初回放送=9月21日(土)午後9時00分~9時58分
語り=小倉久寛、上田早苗
この世の全てのものは、一つの数式によって説明できるはずだ•••。そんな究極の数式である「神の数式」を長きにわたり追い求め続けた、人類の知的格闘のドラマの映像化に挑んだ2回シリーズの1回目です。
「物理法則は、数学的に美しくなければならない」との信念のもと、全ての「対称性」を持つ「完全に美しい」数式により、電子の謎を解明したポール・ディラック。
電磁気力の謎に挑みながらも、「万物は存在できない」という「無限大」の問題にぶつかり、それを解決できないまま原子爆弾開発へと駆り出されていったロバート・オッペンハイマー。そのオッペンハイマーが解決できなかった「無限大」問題を解決した、日本の朝永振一郎。
粒子の重さがゼロになる、との矛盾に対して、鉛筆をまっすぐに立てられるか、との設問からスタートして「完璧な美しさは崩れる運命にある」という「自発的対称性の破れ」理論を導き出して矛盾を解決した、2008年ノーベル物理学賞受賞者の南部陽一郎。
ヒッグス粒子という、まだ存在しない粒子を導入して、電子とニュートリノの質量問題を解明しようとしたスティーヴン・ワインバーグ。そして昨年、ついに存在が確認されたヒッグス粒子•••。
この世界が何によってつくられ、動かされているのかを、必死に探求してきた物理学者たちの知的格闘の歩みは、数学も物理もさっぱりというわたくしにも興味深く面白いものでした。
番組は、複雑な物理の理論を極力噛み砕いて説明してくれていて、かなりわかりやすかったと感じました(それでも、ボッとしているとわからなくなりそうな瞬間がありましたけど)。
それにしても、ディラックが導き出した完璧な美しさで記述された方程式を見て「涙を流した」と語る物理学者には、「やはりアタマの構造が違いすぎるなあ」と思うばかりでありましたが•••。
ともあれ、思いのほか夢中で観ることができた、上質の知的エンタテインメントでした。
NHKスペシャル『神の数式』第2回「宇宙はどこから来たのか ~最後の難問に挑む天才たち~」
初回放送=9月22日(日)午後9時00分~9時58分
語り=小倉久寛、上田早苗
20世紀を代表する天才、アルバート・アインシュタインが作り上げた「一般相対性理論」。「物に重さがかかると空間がゆがむ」ことを証明したこの理論は、宇宙誕生の謎に迫るものだとして注目されました。
しかし、その落とし穴を指摘したのが、車椅子の天才物理学者スティーヴン・ホーキンスでした。彼は、ビッグバンと理論上は同じであるブラックホールの奥底では、一般相対性理論は通用しないことを主張したのです。
そこで、第1回で取り上げられたミクロの世界を記述する素粒子の数式と、一般相対性理論とを組み合わせればいいのでは、との試みが物理学者たちによりなされます。ところが導き出された答えは、分母がゼロになる「無限大」。すなわち、この世界は存在できないことにされてしまうというのです。
そんな中、ジョン・シュワルツらによって提唱されたのが「超弦理論」(または超ひも理論)でした。素粒子は「点」ではなく、輪ゴムのように震える「弦」である、とするこの理論により、「無限大」問題は解決しました。しかし、現実に存在する4次元どころか、10次元の存在を前提とする途方もない理論ゆえ、長きにわたり主流の物理学者たちからは認められませんでした。
その流れを変えたのがマイケル・グリーンによる研究でした。グリーンは、超弦理論には素粒子の数式と一般相対性理論がキチンと組み込まれていることを証明。導き出された数値は「完全数」を意味する「496」だったのです。こうして超弦理論は、宇宙誕生の謎を解くための鍵として、多くの物理学者たちに認められたのでした•••。
ブラックホールに異次元などなど、前回以上に途方もない話が展開された第2回。正直、前回よりもさらにアタマを使いながら観ることになりましたが、とても壮大かつ刺激的な内容で楽しめました。
そして、ここでも興味を惹いたのが、宇宙誕生の謎に挑み続けた天才物理学者たちのドラマでした。中でも「無限大」問題に挑みながら、スターリンによる学者や知識人の弾圧により、若くして非業の死を遂げてしまった、ロシアのマトベイ・ブロンスタインのエピソードは印象的でした。
もう一つ興味を惹いたのは、一般相対性理論や超弦理論の弱点を突いていたのが、同じホーキングだったということでした。結果として、ホーキングが提示した弱点を乗り越えるような新たな理論や研究が出てきたことで、宇宙誕生の謎をめぐる探求が進歩していくことになったのです。
反論のための反論、否定のための否定ではない、ポイントを的確に突く反論や疑義の提示。それを乗り越えるような実証と理論の構築。その繰り返しが科学を進歩へと導く、ということをあらためて認識することができました。その意味でも、ホーキングの存在というのは大きかったんだなあ、と感じます。
番組の最後、超弦理論の提唱者であるシュワルツが語っていたことばが心に残りました。
「探求を続けることが、何よりも素晴らしいのです」
そう、『神の数式』2回シリーズが教えてくれたのは、探求することの素晴らしさと面白さ、だったように思います。
以下は誠にどうでもいい余談ですが•••。
第1回の登場人物の一人である南部陽一郎さんの著書『クォーク 第2版』と、南部さんや益川俊英さんとともに2008年ノーベル物理学賞を共同受賞した小林誠さんの『消えた反物質』(以上いずれも講談社ブルーバックス)、さらに立花隆さんによる小林・益川理論の解説書『小林・益川理論の証明』(朝日新聞出版)。3冊とも、南部さんたちがノーベル物理学賞を受賞したあとに買ってはいるのですが、いまだにキチンと読めてはおりません(苦笑)。
今回の番組を観て、あらためて南部さんたちの業績への興味が湧いてきたのですが•••やっぱり読んでもワケはわからないんだろうなあ。