読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

【読了本】『ナンシー関の名言・予言』 ~冴えた笑いと慧眼ぶりを再発見できる一冊

2013-02-03 23:35:49 | 本のお噂

『ナンシー関の名言・予言』 ナンシー関著、世界文化社、2013年

これまで、『何様のつもり』(1992年)を皮切りに、ナンシー関さんのコラム集を多数出版してきた版元と編集者が、それらコラム集の中から選び抜いた、切れ味鋭く笑いも誘われる名言と、慧眼ぶりが発揮された予言が含まれた文章85本を抜粋し、収録した本です。さらに、単行本未収録のお宝コラムも9本併録されております。

ナンシーさんの大ファンで、それらのコラム集も一通り読んでいるわたくしですが、本書を通読してあらためて、その面白さと鋭さに酔いました。
中でも大笑いさせられたのが、フランス映画『おとぼけオーギュスタン』のパンフレットに寄せていた文章。「おとぼけ」という言葉が持つパワーについて述べていたかと思えば、「これと同じくらいの力を持つ言葉」として「ーーだヨ!全員集合」の話へともっていき、映画自体の話はどうでもいい流れになっていく展開が実に可笑しいのであります。
他にも「藤原紀香が札束もしくは現ナマだとすれば、広末(涼子)は約束手形って感じ」なども、その絶妙すぎる比喩には笑いを禁じ得ません。

さらに、人物と時代を見破る慧眼ぶりが発揮された「予言」。
帯にも記されている、「10年後、ヤワラちゃんは選挙に出ていると思う。」は有名となりましたが、わたくしは「ファミレスとコンビニの敷居の低さみたいなものは、これから先の日本の国民性の形成にも影響を及ぼすかも」という洞察に、大いに唸らされました。
また、「『テレビは誰かの視点による』というのは怖いことではあるが、その視点がすぐれていれば楽しいことでもある」を含む一文は、短いながらも秀逸なテレビ論として読み応えがあります。

単行本未収録コラムでは、巨人軍・斎藤雅樹元投手の「バカぶり」をネタにしたものが、文章と消しゴム版画ともに大いに笑わせてくれました。コレがこれまで未収録だったとは、なんとももったいないくらいであります。

ナンシーさんのコラム集は、残念ながら当の世界文化社からのものを含めて、現在は品切れの本が少なくありません。没後10年を経ていることもあり、それはいくらかは止むを得ないことなのかもしれませんが。
そんな中で本書は、時が経ってもまったく色褪せることのない、ナンシーさんの面白さと慧眼ぶりを再発見する機会を与えてくれる一冊でもありました。
本書が、ナンシーさんをあらためて広い人びとに認知してもらうためのキッカケになればなあ、と思います。

やはりナンシーさんの仕事は一度、きちんと全てをまとめた上で、文化遺産として残していくべきですよ。どうでしょう、ここはやはり世界文化社さんあたりが奮起して出してくれませんかねえ、『ナンシー関全集』を。箱入りの上製本でなくってもいいので。

『エクレール お菓子放浪記』 ~戦時下を生き抜く少年と人びとを、笑いと涙で描いた好編

2013-02-02 23:10:26 | 映画のお噂

『エクレール お菓子放浪記』(2011年、日本)
監督=近藤明男
出演=吉井一肇、早織、遠藤憲一、高橋惠子、林隆三、いしだあゆみ


原作は西村滋さんの自伝的小説『お菓子放浪記』(現在は講談社文庫で読めます)。東日本大震災前の宮城県石巻市などでロケを行い、製作されました。

時代は戦時下。両親を失った少年・アキオ。孤児院からの脱走を繰り返し、ついに感化院へ入れられてしまう。世話になった刑事から与えられた菓子パンの思い出と、感化院の陽子先生から教えられた歌「お菓子と娘」が、彼の心の支えだった。やがてアキオは養母・フサノに引き取られる。安住の地を得たかに思われたものの、それは困難に満ちた放浪の始まりであった…。

戦時下の困難な時代を、お菓子への憧れを抱きながら生き抜いていくアキオと、それを取り巻く人びとの姿に、笑いと涙を誘われる好編でありました。
完成後に起こった東日本大震災を受けて、そこからの復興支援という意味を付加された本作。戦時下を生きている人びとの姿は、震災後の困難を生きる人びととも重なりました。

アキオを演じた吉井一肇(はじめ)くん、目力が印象的で魅せてくれる子役でした。劇中ではなかなか見事な歌声も披露しています。
アキオを引き取る養母・フサノを演じたいしだあゆみさんは、がめついまでのたくましさを持った人物像をユーモラスに演じて楽しませてくれました。人情味あふれる刑事役の遠藤憲一さんや、旅芸人一座の座長を演じた林隆三さんも実にいい味。
また、アキオの身を案じ続ける陽子先生のひたむきさを表現した早織さんの好演や、アキオたちを虐待する「ホワイトデビル」なる仇名の感化院教員を演じた松村良太さんの、いささかやり過ぎ感ある怪演も見ものでありました。松村さん、気になる役者さんであります。調べてみたら、舞台を中心に活動している方のようですが。

風そよぐ北上川の葦原や、古くからの歴史を感じさせた劇場…震災前の石巻の風景は、印象的なかたちで映画の中に生きていました。
エンドクレジットには、石巻の皆さんをはじめとしたエキストラ出演者の名も一人一人、しっかりと刻まれていました。結果としてかなり長いクレジットとなっていましたが、多くの人びとの思いが詰まった映画なんだなあ、ということが伝わってきました。

東日本大震災復興支援として、先月29日から宮崎での上映が始まった本作。わたくしは31日夜の上映で見ました。1階の客席はおよそ7割がたの観客で埋まり、2階にも多くの人が入っていたようでした。なんだか、しみじみと嬉しかったですね。
惜しむらくは、いずれの上映日も平日となったこと。土・日であれば、子どもや家族連れにとっても観やすいものとなったろうに、と感じます。ともあれ、宮崎での上映を実現してくれた関係者の方々には敬意を表したいと思います。

2月も宮崎市内のほか、県内6町のホールでの上映が予定されているようです。入場料の一部が、東日本大震災復興支援に充てられます。宮崎の皆さま、どうぞご覧くださいませ。

『エクレール お菓子放浪記』公式サイト
http://www.eclair-okashi.com/
主催者・熊本映画センターHP
http://www.kumamotoeiga.net