世に名高い三毛別羆事件(さんけべつひぐまじけん)に取材したドキュメンタリー長編です。
※吉村昭『羆嵐(くまあらし)』新潮文庫/2018年11月5日第51刷
オビの文句を転載します。
内地の熊が最大のものでも30貫(100キロ余)程度であるのに、羆は百貫を越えるものすらある。また内地の熊が木の実などの植物を常食としているのとは違って羆は肉食獣でもある。その力はきわめて強大で、牛馬の脛骨を一撃でたたき折り内臓、骨まで食べつくす。むろん人間も、羆にとっては恰好の餌にすぎないという。
※巨大な羆が人を襲った三毛別羆事件・・・羆ってコワイ!
ここで登場する羆(ひぐま)はもはや人力の及ばない『荒ぶる神』です。アイヌ語でいうウェンカムイ(悪い神)そのものです。
最初に被害に遭った家では板壁が紙のように易々と破られ、女房が連れ去られます。
窓に血と大量の髪の毛だけが残されるその描写は雨月物語『吉備津の釜』の結末を思わせます。
まさに『髪の毛太る心地す』です。
人の肉を喰ってからは人肉に執着し、何と通夜の席にまで暴れ込んで屍体を喰い漁ろうとさえします。
人間が居ようと、火が焚かれていようとお構いなし。ひとたび身長九尺(2.7メートル)体重百二貫(383キロ)の巨体が雪煙を巻き上げて迫ってくれば、武装した自警団員たちも銃を投げ出して(自分の身だけは守ろうと)必死に逃げる以外ないのです。
ところで人肉って美味いのでしょうか?
※『ジョジョの奇妙な冒険』第4部(黄金の風)よりグイード・ミスタ
『ジョジョの奇妙な冒険』第4部(黄金の風)でグイード・ミスタが、あろうことか食事中に『人間の肉って美味いと思うか』と訊くシーンがあります。ミスタの説によれば『いつも食べてるのは草食動物の肉だ→肉食動物の肉はきっと不味いんだぜ→だから肉喰ってる俺たちも不味いに違いない』というものでした。
ミスタの理論が正しければ毎日粗食に慣れた三毛別の住民の肉は美味しかったと思われます。
その中でも羆は女の肉をえり好んで食べるようになります。
著者は猟師の銀四郎に作中でこんなセリフを言わせています。
最初に女を食った羆は、その味になじんで女ばかり食う。
男は殺しても食ったりするようなことはしないのだ。
※現地では羆による民家襲撃の様子が再現されています。(゜ロ゜)デッケエ!。
前半はこの化け物のような羆が縦横無尽に暴れ回ります。
巨大な羆の前に人間は全くの無力であることを思い知らされます。
後半は羆撃ち銀四郎との対決に話が移っていきます。
熊を狙う猟師にはどうも変人が多いようで、銀四郎も普段は手の付けられない暴れ者で、皆から嫌われています。このあたりは私には『熊撃ちジロー』を思わせて興味深かったところです。
※由起二賢『野獣の王国』から『熊撃ちジロー』
簡潔な描写で淡々と描かれる対決は『手に汗握る』という言葉がピッタリ!
実に面白いです。オススメします。
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ジビエ料理の流行で狩猟もまた流行りつつあるようです。
常に『生命をいただく』ことを忘れずに無駄なく頂戴する、これが大事かと思います。
https://kuragebunch.com/episode/10834108156642874621
人里と山の区分が曖昧になってきたために棲み分けの関係が乱れてきているようです。
ツキノワグマは音などを立てて『人が来ている』ことを報せれば遭わないようにできるそうですが、ハナからニンゲンを餌と考えている羆は出会ったらオシマイです。
逃げると追いかけてくるそうで、アイヌのヒトは、もうどうしようもなく出逢ってしまったときは、仁王立ちになって相手(羆)の眼を見て『エイッ!』と叫ぶのだそうです(運がイイと助かるらしいです、試す気はありませんが・・・)。
雨月物語『吉備津の釜』、結末は恐ろしくとも哀しい話です。日本の古典ホラーで人食い鬼となるのは、女が多いような……人間を単にエサと思っているクマの方が畜生らしくて罪がない。
確か主人公は生まれつき左手が不具なのです(動かず拘縮して小さい)。
手のことを気にするあまり、自ら左手を切り落としてしまいます・・・かなり激しい性格なのです。
片手が不自由だと弾込めに苦労するはずですが、修練の結果、ジローは「初弾をわざと外して片手で弾を込め、向かってくる手負いの熊に至近距離で弾を撃ち込む」というワザを会得して「いたぶりながら熊を撃ち殺す」ような猟を行うようになります。
猟師仲間からも嫌われるジローですが、バツグンの腕を誇る猟師として一目置かれるまでになります。
その後があの公開部分に繋がった筈ですので、よろしくです。
作品には北海道の自然のコマやかな描写に混じって当時の開拓民の貧窮ぶりまでが克明に描き出されています。
こんなビンボーな集落で熊にまで襲われる・・・事件後この村が無人化したのもむべなるかな、です。
マンガが中途半端。
欲求不満になった;つД`)