さて、今年のSF最高傑作との呼び声も高いピーター・トライアス『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』です。
今回は下巻まで読み終えての感想です。(上巻に関する記事を読みたい方はこの文字列をクリック!)
第二次世界大戦で日独が勝利した世界の中、USJ(ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン)で情報統制武官として勤務する石村大尉は、はからずも特高警察課員である槻村昭子とコンビを組んで、かつての上官である六浦賀(むつらが)将軍の捜索にあたることになる。六浦賀将軍は地下に潜った後、非合法のUSA(ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ)なるゲームをネット上に拡散して、皇国の精神的支柱を揺るがさんとする大逆人なのである(→詳しくは『上巻のストーリー(ここをクリック)』をご覧ください)。
アメリカ愛国組織であるジョージ・ワシントン団(以下『GW団』)に捕まった槻村課員は拷問で両腕を失ってしまう。GW団に復讐を誓う槻村課員は人工義手を付ける際、片腕にガンアームを装着して六浦賀将軍の捜索を続けるが、憲兵隊は生還した槻村課員を内通者と疑うようになる。疑いを晴らすには六浦賀将軍の首級を挙げるしかない!サイバー技術に精通しているが実戦には役立たない石村大尉と『片腕マシンガール』となった槻村課員のコンビがそれぞれの弱点を補い合いながら悪夢のごとき偽史世界で難局を切り抜けて行く・・・。
という粗筋で、映画『ブレードランナー』やアニメ『サイコパス』の世界に近いものを感じますが、ここに『メカ』と呼ばれるサイコガンダム風のモビルスーツが登場して大暴れ。オビの謳い文句にもある通りまさに『パシフィック・リム』の衝撃です。これは楽しいなあ・・・、この作品、日米合作で映画化されないものですかねえ。
※写真は『サイコガンダムMkII』です。
最後は槻村課員を助けて石村大尉は命を落としてしまうのですが、エピローグで『本当は石村大尉はこんな男だったのだよ』とタネ明かしされる仕掛けがあり、読み手の心に深い感動が広がるとともに、アメリカに進駐している日本軍の敗退を予感させて物語は終わります。まだのヒトは是非読んでください。オススメです。
その他、気がついたこと等
①.GW団の指導者のひとりで重要な登場人物として『マーサ・ワシントン』なる名前が出て来ます。何となくPKディックの名作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』に出てくる『マーサー教』を彷彿とさせる名前です。
②.本文中で触れた『片腕マシンガール』は低予算のスプラッター作品ですが、メチャ面白いです。興味のある方はDVDを買ってご覧になってください(TV放映はゼッタイされないと思います)。
ところで、USJに登場するガンアームは『大口径のレーザー・ガン』という設定のようですが『撃ったときの反動が大きい』と描写されています。実際にはレーザー・ガンでは撃ったときの反動は発生しないし、描かれるような強力な武器にするためには腕に装着できるようなサイズでは無理があり過ぎます(持ち運べる程度の大きさでは、せいぜいレーザー・ポインター程度の出力です。効果的な武器として使うにはどうしても戦車クラスのサイズになる!?また、スター・ウォーズ等でレーザー砲を撃ったとき『砲身が後退して復座する』描写があるのは映像効果のためで実際にはありえません)。この辺はチョット改善してほしい点です。
③.『メカ』と呼ばれる人型マシンが戦うシーンでは、少し前、中国国営放送が日本の自衛隊を紹介した映像に何故かガンダムのCGが紛れ込んでいた事件を思い出しました。『日本はやっぱりガンダムを開発していたんだ!!!』と中国では結構な騒ぎになったようです。
スター・ウォーズを初めて観たのは18歳だった。
初日の土曜日オールナイトを観て・・・当時『全席入替制』はまだなく何回観てもイイのだった・・・続けて11回観た。
朝から入館して、映画館を出たのが明け方だった。エピソードIVはそれほど良かった!!!
当時、上映される前からSFファンの間では『スゴい映画が出来ているらしい』とか『ひと足早くハワイで観て来ました。スゴかった!!!』とか、前評判だけでもエラい騒ぎになっていたのでした。で、初めて観たときの感動!!!ダンダカダンダカと文字列が登場した時のあの衝撃!!!文字の後を追うようにブロッケード・ランナーとスター・デストロイヤーが画面に現れる・・・いやー、スゴいの一言です。11回も観る頃にはもうストーリーは頭に入っていますから『あっ!あそこに見たこともない宇宙人がいた!!!』とか、重箱の隅を突いて楽しむ見方をしてましたし、そのように細部まで楽しめる造り込みがされている映画だったのです。
その中に登場するヴェイダー卿のド迫力。当時の雑誌には『ダース・ヴェイダー、その恐るべき力には敵も味方も震えあがる』と紹介されていますが、ドイツ軍風のヘルメットに仮面、喘息病みのような『コー、ホー』という呼吸音で観る者を釘づけにしました。
エピソードVIまで終わってみれば、スター・ウォーズってば、このヴェイダー卿の一代記なのであって、ヴェイダー卿が亡くなってしまった後のエピソードVII以降はもはや光源氏が亡くなった後の源氏物語『宇治十帖』のようなもので締まらないこと夥(おびただ)しい。カイロ・レンもヴェイダー卿に比べれば所詮小物よ。光源氏に対する匂宮程度の存在でしかありません。そして『親殺し』の輪廻はめぐる糸車・・・ここまで書いてハッと気付いたのですが『ひょっとしてジョージ・ルーカスはスター・ウォーズの基本シナリオを考える際、源氏物語をも参考にしていたのでナイか?』という気がしました。ありうる話です。
で、今回は満を持してヴェイダー卿の登場です。反乱軍がデス・スターの設計図をようやく手に入れたと思った瞬間、一隻のスター・デストロイヤーがワープを抜け出現、反乱軍を次々と殲滅・・・スター・デストロイヤーってそんなに強かったっけ!?と思っていたら、ヴェイダー卿が乗っていたのねー!!!(フォースの力だ!!!)反乱軍の旗艦に乗り移ったヴェイダー卿は、抵抗する反乱軍をバッタバッタと切り捨てながらたちまち通信室に迫る!データは艦載のブロッケード・ランナーに移され反乱軍は逃げる、逃げる・・・で『エピソードIVに続く』と相成ります。
いやー、イイなあ。ヴェイダー卿はイイ。唯一残念なのは今回のヴェイダー卿はエピソードIVに比べるとやや猪首というか首が短いカンジなのが気に入らない。やっぱりヴェイダー卿がスックと立った時の美しさがやや足りなかったのが残念でした。
今回登場するヴェイダー卿。体格がやや貧弱で猫背なのか首が短い。
エピソードIV以降のヴェイダー卿。堂々たる体格で立ち姿がビシッと決まる!!!
題名の『ローグ・ワン』はプロローグとかエピローグとかに含まれる『ローグ』の第1回の意味かと思っていたら、反乱軍の船のコードネームだったのね。設計図入手のため無断で出撃する貨物船に管制室から『その離陸は認められていない、船のコードを言え』と言われてテキトーに言ったコードが『ローグ・ワン』(『そのコードは存在しない』と言われるが構わず出撃する)なのです。
ところで私は今回のストーリーにはちょっと気になる点がある。
出撃した『ローグ・ワン』はミッションを達成するが全員壮絶に討ち死にしてしまう。これじゃ特攻賛美とあまり変わらないンぢゃないかという気がする。
更に立場を変えて現代に置き換えて考えれば『ISとアルカイダが協力してアメリカ太平洋艦隊の核ミサイルを奪取して爆発させる。戦術核を使った自爆テロによってアメリカ太平洋艦隊が壊滅する』にも似たストーリーなんじゃないかと思われてなりません。
今回のストーリーはちょっと考えものです。よいこの皆さんは決してマネをしてはイケマセンよ。
USJといえば銀行?いえいえ、あれはUFJ。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンも間違いではないけれど、USJといえば今やこの『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』ですよ。すでに第四刷まで出ています。
ストーリーは・・・。
第二次世界大戦では枢軸国側が勝利した。日独に挟撃されたソ連は厳冬期を待たずひとたまりもなく降伏。勢いを駆って両国はアメリカ本土へ進撃した。劣勢が明らかになっても徹底抗戦を叫ぶアメリカであったが、本土で日独共同開発の原子魚雷が炸裂するに至ってようやく降伏、ここに第二次世界大戦は終結した。ここまでが物語の背景。
アメリカの西半分は今や『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン(日本合州国)』と名を変え日本軍に籍を置く官僚たちによって統治されている。主人公はここで働く石村紅功(いしむらべにこ)大尉(通称”ベン”)。変わった名前なのは、生まれて来る子供が女の子だと信じて疑わなかった母親がどうしても名前を紅子にしたかったからだ、と説明されている。
石村大尉は帝国陸軍検閲局に勤務し、合州国内の情報統制を行っている。女にだらしなく勤務態度もイマイチで昇進では同期に遅れを取っている石村大尉だが、プログラミングの才能があり、主にオンラインゲームに関する思想チェックを行っている。
最近、USJでは非合法の『USA”ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ”』なるゲームが密かに広まっており、第二次世界大戦で神国日本が敗戦したなどという偽歴史の浸透をはかり、帝国臣民の陛下への忠誠を揺るがそうとする陰謀が進行中である。USJにはジョージ・ワシントン団に代表される抵抗勢力がまだまだ存在し、恐れ多くも現人神であらせられる天皇陛下に対する反逆を試みるべく日夜画策しているのである。
ある日、かつての上官である六浦賀(むつらが)将軍から掛かってきた一本の電話から石村大尉の日常は一変していく。接触してきた特高警察課員である槻村昭子(つきむらあきこ)の口から『天才的な軍事ゲーム開発の第一人者であった将軍(現在は失踪中)が、帝国の思想的背景を脅かそうとする反分子ゲーム”USA”開発に関っているらしい』と聞かされる。はからずも槻村課員と調査を開始した石村大尉の前に、映画『ブレードランナー』や、人気アニメ『PSYCHO-PASS “サイコパス”』にも似た悪夢的な世界が明らかにされていく・・・。
ここまでストーリーを追っていくと、この小説がフイリップ・K・ディックの名作『高い城の男』を下敷きにしていることがSFファンには分かって来る仕掛けになっています。登場する小道具や武器類もナカナカ魅力的で、実にオモシロイ。下巻では”メカ”と呼ばれるサイコガンダムに似た巨大ロボットによる戦闘シーンもあるようで期待大です。表紙を見た感じでは実にキワモノっぽいのですが、実によく練られたプロットに感心します。作者は韓国系アメリカ人で日本文化オタク。『アジア人の支配するアメリカで、アジア人であるということはどんな意味を持つのか?』をシュミレーションするために書いたというから、ナカナカの屈折ぶり、オタクの面目躍如です。オススメです!!!
(下巻に関する記事を読みたい方はこの文字列をクリック!)
2時間46分という大作なのだが、話そのものは通し狂言でまる一日掛かるようなシロモノだから、総集編でギュッと煮詰めたようで、いささか忙(せわ)しない。
忠臣蔵のストーリーは無論ご存知でしょうということが前提になったツクリですから主要な場面が『ハイ、ここまで撮れば充分ですよね』って感じでドンドン切替わって行きます(例えばラスト『首尾よく吉良を討ちとった一行を多門伝八郎が橋の上で差しとめるが、その実廻り道を教えるシーン』で終わるといった塩梅)。
しかし、知っていればこれが『小気味よいテンポで進んでいく』感じで、忠臣蔵をイイ感じで概観できる造りになっていて、その後の忠臣蔵のストーリーを決定づけた作品です。目付役多門伝八郎を演じる黒川弥太郎と垣見五郎兵衛を演じる二代目中村鴈治郎が実にイイ味を出してます。
で、セットが実に見事『もう二度とできないだろう』と思えるような豪華さです。
改めて見直してみると、この話は大阪夏の陣から76年経った江戸時代(戦闘の記憶を持った世代はほぼ亡くなっている)、もはや天下泰平の世となり、シビリアン・コントロールも行きわたったかという時代に、突然起こった武闘派の逆襲といいますか、時代錯誤の連中が刀を振り回した大事件と言えるのではないでしょうか。
武家の長たる徳川幕府はすでに公家化して、朝庭との結びつきを強めようとしていた矢先の出来事だったのでさあ大変、しかし武士の本分は刀を持って戦うことなので、本来はアッパレ忠義の士のはずだが・・・というせめぎ合いの中で、やっぱり『時代はすでに変わっていたのだ』という結論に達したオハナシ、なのです。
しかし、時代が変わっても不器用に筋を通す話は見ていて気持ちイイ。
大石内蔵助辞世の句『あらうれし心ははるる身はすつる浮世の月にかかる雲なし』