書店めぐりをしていると時々『チカラの入ったPOPが目に飛び込んできて、その文句にツられて思わず買ってしまう』という経験、ありますよね。
この本もそのタグイ。書店員さんの異常なイれ込みように負けました。
※津村記久子『この世にたやすい仕事はない』新潮文庫(令和2年5月20日6刷)
もう出だしからしてフザけています。
ストレスに耐えかね、燃え尽きるように前職を去った『私』は職安の相談員をしている正門さん(仮名)に質問する。
『家からできるだけ近いところで、一日スキンケア用品のコラーゲンの抽出を見守るような仕事はありますかね?』
そんな無理難題にも怯むことなく『あなたにぴったりな仕事があります』と紹介される仕事は一風変わったものばかり(そんな仕事を探してくる相談員も相談員ですが・・・)。
第1話 みはりのしごと
第2話 バスのアナウンスのしごと
第3話 おかきの袋のしごと
第4話 路地を訪ねるしごと
第5話 大きな森の小屋での簡単なしごと
第1話ではモニターを使った監視の仕事を紹介されるのですが、続けていくうちに何とも言えない逆転現象が起こり始めます。ひとことで言えば『監視する側と、される側。どっちが幸福なのだろうか?』という話。
第2話はバスの広告アナウンスを考える仕事ですが、ここでも奇妙な現象に遭遇します。事実があってアナウンスが作られるのか?アナウンスをするとそれが現実になってしまうのか?(バスで広告アナウンスが流れると『えっ!?そんなお店あったっけ?』と思うこと、ありますよね)。
疑問が解消されないまま第3話ではおかきの袋の裏に書く『豆知識』を考えて悩み、第4話では仕事への情熱が嵩じて潜入捜査まがいのアクションものに~、第5話で全部の話が繋がって『私』が『そろそろ元の職種に戻ってもいいかな』と思い始めるまでのシュールで不思議な味わいを持った短編集です。
特異な仕事遍歴を通じて自分を取り戻すまで・・・仕事に疲れた方にぜひ読んで欲しい本なのです。オススメします。