カラフト行きの船上で知り合った呪師霊太郎(しゅしれいたろう)と椹修介(さわらしゅうすけ)のコンビが、船上での事件をきっかけに、どうみても小樽に違いないO-市に滞在し、奇妙な事件に遭遇、鮮やかな推理を見せる。
※O-市風景。
死体の消失や密室殺人をこの連作では『人喰い〇〇』と名付けていて、端的に内容を言うならば『ホームズ&ワトソン』的な本格ミステリなのですが、山田正紀の手に掛かるとことはそう単純ではありません。
この作品は連作の形を取っていますが、シリーズものはその必然として『地獄巡り』に陥る宿命にあるにのです。
『永劫回帰』の宿命とでもいいますか、主人公たちは事件に巻き込まれ、それが解決すると事件が起こる前の状態に戻ってしまいます。これが永遠に繰り返されていくワケです。
いい例が『名探偵コナン』で、主人公たちは小学校の同じ学年のまま21年間も放映が続いてしまいました(全て同じ1年間の物語です!)。これにより全体として物凄い矛盾を抱えるに至りました。放映回数が1年に50回として50×21・・・ということはこれまでに1050件の事件が起こり、1000人以上が殺された・・・世界でイチバン治安が悪い町なのはいうまでもありませんが、もはや1日に3件近くの事件が発生していることになる、とまあこれは余談です。
日中戦争が始まる前の時代を背景に『もはや名探偵を必要としなくなった時代の名探偵』が鮮やかな名推理を・・・とはいっても呪師霊太郎はただ真実が知りたいだけなので、事件の謎は明らかになっても犯人はそのまま放置(!)なんともイイ加減です。
江戸川乱歩の短編を思わせる軽妙なタネ明かしが、毎回何ともいえない『いい味』出してます。
ところが、第6話で「何か変だ!?パラレルワールドぢゃないだろうナ?」と思って読んでいたら、最初の5話で作り上げたシリーズ展開そのものがガラガラと音を立てて崩れてしまう・・・またまた『ヤられたっ!』です(最初からコレを狙ってたのぉ!?凄い伏線!)。
そうだよね、SFでのデビュー作が衝撃的な『神狩り』だったのだから、本格ミステリでのデビュー作がただのレトロな探偵ものであろうはずがナイではないですかっ!
解説にもある通り『(P.K.)ディック的な現実崩壊感覚』を味わうことができる稀有な小説です。おすすめします。