吉良吉影は静かに暮らしたい

植物の心のような人生を・・・・、そんな平穏な生活こそ、わたしの目標なのです。

J・G・バラード『ウォー・フィーバー』福武書店(1992年1月15日初版第一刷発行)

2016-11-30 12:00:25 | 紙の本を読みなよ 槙島聖護
 J・G・バラード原作の映画(太陽の帝国)を見直して『バラードの作品をもう一度読み直してみるか』と思い、本棚から引っ張り出してきました。


 長編は時間が掛かりそうなので、とりあえず短編集から・・・。

 収録作品は、
 ウォー・フィーバー
 第三次世界大戦秘史
 夢の船荷
 攻撃目標
 エイズ時代の愛
 世界最大のテーマパーク
 尋問事項に答える
 航空機事故
 未確認宇宙ステーションに関する報告
 月の上を歩いた男
 巨大な空間
 宇宙時代の記憶
 精神錯乱に至るまでのノート
 索引

 の14作(驚くべきことに『索引』もひとつの作品です!)。
 題名からも分かる通り実験的な小説で構成された短編集です。

 標題作『ウォー・フィーバー』は、荒廃したベイルートを舞台にひとりの青年が『長く続いた戦争の解決策を見つけてしまう(!)』というストーリー。
 彼の見つけた回答は『戦争をしている全員が国連軍に入ればいいんだよ!』です。
 主人公は捨てられた国連軍の青いヘルメットを被って平和を訴えるようになり、賛同した敵味方の中から青いヘルメットを被る人間が増えていき、戦闘は奇跡的に終結します。
 しかし、ベイルートの戦闘(住人が内戦で殺し合う仕掛け)は実は国連軍により仕組まれたもので、一発の爆弾から平和は破れ、事態はますます泥沼化していきます。

 私がイチバン楽しめたのは『夢の船荷』です。
 この短編集はやや抑制した文体の作品が多いのですが、これは初期のバラードに近い華麗な文体で、独特の終末感に支配された世界を描き切った作品です。
 有毒廃棄物を満載した船が難破し礁湖に座礁する。傾いた船からは虹色をした有毒物質のカクテルが流れ出し、島の生物相を奇怪に変貌させていく。ひとり残された主人公は、研究のために訪れた女性生物学者と暮らすうちに・・・。
 極彩色に彩られた珊瑚礁の中で、化学薬品により自らも汚染され、実験用生物にされていく主人公は、島が最期を迎えるにあたり罠に掛かった鳥たちを逃がそうと試みる。鳥たちが自分を連れて行ってくれると信じて・・・。

 いやー、バラードはイイなあ。

スティーブン・スピルバーグ監督『太陽の帝国』(1987年アメリカ)

2016-11-24 13:27:01 | 映画・ドラマを観て考えよう
映画紹介の際には常に『イギリスの小説家J・G・バラードの体験をつづった半自伝的な長編小説』と紹介される映画ですが、この映画の解説をした中でJ・G・バラードの作品に触れたものは今まで無かったように思います。

 J・G・バラードといえばニュー・ウェーブSFの旗手としてSF小説界では広く知られた存在です。代表的な作品は、『沈んだ世界』,『燃える世界』,『結晶世界』で、破滅していく美しい世界を描きだしています。これらの作品では世界の破滅は押し止めることができない事象として厳然と存在し、その中で、登場人物たちの行動が淡々と描かれて行きます。登場人物たちはこの破滅に抗うことはできず、破滅する世界の中でどう対処するかの選択しか残されていません。破滅していく世界の描写は登場人物たちの心象風景と微妙に重なり合い、それらが織物のように美しい光景を紡ぎ出して行きます。

 『太陽の帝国』でも日本軍の侵攻に伴う日常生活の終焉、浮浪児としての生活から日本軍の捕虜となり収容所を転々とする生活、やがて米軍の反攻により解放されるまでの環境の激変ぶりは抗うことのできない事象として描かれ、主人公ジェイミーもその荒波から逃れることはできません。ただ、収容所の中でも兄貴分の盗人ベイシーの教え(人間はイモ1個のために何でもする)を受けて逞しく生き抜いて行く姿が描写されて行きます。長い時間を経て敵である日本軍ともある程度心の交流らしきものが生まれた頃、戦況の悪化により日本軍は撤退し、米軍の侵攻とともに解放されて、両親の元へ還りついたジェイミー。ハッピー・エンドではありますが、数知れない人々の死を見つめ続けてきた少年のこれからはどうなって行くのか、少し怖いものを感じる終わり方です。

 ジェイミーの兄貴分となるベイシーを演じたのはジョン・マルコビッチ。レ・ミゼラブルのジャベール警部とか、悪人またはヒト癖ある役をして光る怪優です。ベイシーの口癖は『チョコバー欲しいか?』。ジェイミーが期待を込めて頷くと、返事は決まって『オレも欲しい。じゃあな。』です。ただ一度だけ、救援物資からクスねたハーシーの板チョコを貰ったのが最後の別れになりました。

 主人公のジェイミーを演じるのはクリスチャン・ベール。可愛かったジェイミー少年が将来バットマンとして悪と対決するとは思いもしませんでしたねー。

野村芳太郎監督『八つ墓村』(1977年松竹)

2016-11-21 13:51:57 | 映画・ドラマを観て考えよう

 岡山県の北部に八束村(やつかむら)という地があり、ここが八つ墓村のモデルと言われている。

 行ってみると高原の明るい山村で、近くには夢千代日記で有名な湯村温泉やジャージー牛乳で有名な蒜山高原などがあり、おどろおどろしい横溝ワールドとはおよそ縁のない場所なのである。ただし、山を越えればスグ日本海に抜けるという位置関係から、敗れた尼子の落武者たちが隠れ棲むにはなかなかイイ場所だと思えて来る。

 八つ墓村はよくできた因縁話とでもいう物語で、推理やサスペンスというよりもどちらかといえば怪談に近い。



 野村芳太郎監督はこれをキチンと怪談話として映像化している。物語の始まりに文明の象徴のような飛行機を登場させ、日本が近代化したことを描く。この辺のシーンは横溝正史作品というよりも松本清張作品のような出だしで、面白い。しかし、その明るく近代的な文明世界に突如として異界からの攻撃が加えられる。主人公を迎えにきた丑松の怪死である。この辺のコントラストの巧みさは、流石としか言いようがない。

 主人公のショーケンは岡山の山村へと向かうのだが、森林の描写は市川作品とは違いあくまで明るい風景として撮られている。私はこの地方の道路を結構走ったことがあるのだが、見ていて『あるある』と思うような風景が続いていく。非常にリアルなのだ。

 そうして谷合いの多治見家に到着するのだが、石垣の上に聳える城郭のような凄いお屋敷である。『掃除や維持費が大変だろうな』と思うし、この辺の山を全て所有しているとか聞かされると、私なぞは『どうやって固定資産税を払おうか』と悩んでしまう。今となってはこんな負の財産としか言いようがナイ資産なんかゼッタイに欲しくない!

 実は私の実家も昔は大きな地主だったのですが、農地解放のあおりを受けて田畑は全て小作人に分割されてしまいました。残ったのは田んぼの『のり面』と言われる傾斜地と山林だけ、外材の流入で日本の林業が壊滅すると、あっという間に没落してしまいました。もし、これを承継してしまうと、もう帰ることもない田舎の土地の固定資産税だけが毎年請求されるようになってしまうので『それだけは何としても避けたい』と思っているワタシです。

 映画に話を戻すと、物語中盤の津山事件を怪演する山崎努が圧巻、これとラストの小川真由美が演じる洞窟内での鬼ごっこの2つのシーンが双璧を成す物語のヤマ場になっています。この2つのシーンだけでも観る価値はあります。



 渥美清が演じる金田一耕助は、もはや探偵とはいえず郷土史家のような趣で物語の因縁を解き明かすだけの役割しかありません。

 物語のラストは『騙し討ちに遭った尼子の落武者たちの恨みが、不思議な縁(えにし)によって晴らされた』という一種の爽快感さえある終わり方になっています。

 不運な尼子一族の最後(以前に書いた『山中鹿之助』の章をご参照ください)を思えば、祟りはあって当然の結末と言えるでしょう。


市川崑監督『悪魔の手毬唄』(1977年東宝)

2016-11-18 12:55:07 | 映画・ドラマを観て考えよう

 11月17日(木)午後1:00〜3:25の時間帯でBSプレミアムで放映されたのを、また観てしまいました。


 いや、何回観ても楽しい(^-^)観る度にまたイロイロ発見できます。そして映像がウツクシイ!

 物語の舞台は鬼首村(おにこべむら)で、岡山県の総社市から仙人峠を越えた先にある、総社から仙人峠までは約2里(8km)の道のりだとか・・・。以前は高梁のあたりかと思っていたのですが、よく考えると高梁へは総社から伯備線が続いていますから、総社で汽車を降りるハズがありませんよね。ということは、総社から鬼門にあたる北東の方角・・・って捜すと鬼城山という地名を発見!・・・この先が怪しそうデスが、ここだ!と特定するのは難しそうです。

 仙人峠で金田一耕助が犯人とスレ違うシーン(左)です。

 実に美しい映像です。まるでミレーの晩鐘(右)のようじゃありませんか!

 サルバドール・ダリは『ミレーの晩鐘の絵の中央の地面には子供の死体が埋まっている』と言い続けて、この絵のモチーフを自らの作品の中に取り込み続けましたが、確かによく見るとどこか不気味な雰囲気を漂わせた絵ですね。この話を知っていてこの構図を撮影したのだとしたら・・・凄い!・・・いや、私の考え過ぎですかね。

 サルバドール・ダリ作『ミレーの晩鐘の古代学的回想』


 お馴染、市川崑特有のロングで風景を撮ったシーンが効果的に挿入されています。風に靡く竹林、針葉樹の中の山道、エンディングの木々の間を抜けて行く汽車の映像・・・一幅の絵画のようです。

 エンディング映像


 そして出演者が素晴らしい、脇を固めた俳優陣の演技はモチロン、名前の無い端役の方まで、卓越した演技で楽しませてくれます。
 金田一耕助が青池源治郎(=恩田幾三)の弁士時代の写真を探しに神戸へ行った先で、元弁士役の三木のり平の奥さんをしていた方の演技なんか最高です!
 加藤武演じる立花警部の『よし!分かった!』も私は大好きですなあ。

 ラストの「リカさんを愛していましたね」の返事が汽笛のため聞こえず、柱に掲げられた駅名の『そうじゃ(総社)』が目に入るシーン、これは日本映画屈指の名シーンだと思いますが、どうでしょう。

 駅名が秘められた思いを語るラストシーン『そうじゃ


 いやー、楽しめました。このシリーズは何回観ても楽しい希有な映画なのです。


市川崑監督の『金田一耕助』シリーズ・・・今日からBSプレミアムで放映開始!!!

2016-11-17 08:08:49 | 映画・ドラマを観て考えよう

 今日からBSプレミアムで放映される市川崑監督の『金田一耕助』シリーズ。楽しみにしています。

 ラインナップは、

「悪魔の手毬唄」11月17日(木)午後1:00〜3:25

 ※TRICK新作スペシャル2「村祭りに響く死を呼ぶ子守唄!!」で浅野ゆう子がパロってたのには笑いました。

「八つ墓村」 11月18日(金)午後1:00〜3:33(この作品のみ野村芳太郎監督/渥美清主演)

 ※五月人形の鎧武者を飾ると毎年これを思い出します。

「犬神家の一族」11月19日(土)午後1:30〜3:56

 ※新世紀エヴァンゲリオンの、使徒イスラフェルが出て来る回で、このシーンへのリスペクトがありました。

「獄門島」 11月20日(日)午後1:00〜3:22

 ※『鶯の身を逆さまに初音かな』キ違いぢゃが仕方がない・・・。

 いやー、このシリーズってもう何回観たか。
 もはやストーリーも犯人も、そして殺人のトリックも全部分かっているのに、放映があると毎回観てしまう。
 やっぱり映像が素晴らしいのと、出て来る役者さんたちがウマイ!
 だから演劇を観に行ったように『さあ、ここで決めゼリフ!』,『待ってました!』という風に観てしまいます。
 
 そして11/19(土)午後8:00からは、長谷川博己主演で「獄門島」のリメイクが!
 観比べるのも楽しみ!長谷川博己は私がいまイチバン注目している俳優さんで、ダメ男を演じて光る不思議なヒトです。

 長谷川博己(「雲の階段」より・・・このニセ医者の演技は凄かった!)


 また観たら感想などアップしたいと思います。