原作の題名が『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』ですから間違いではナイのですが、空海が主人公の映画ではありません。本当の主人公は一匹の黒猫なのです。
で、これを見ると『猫嫌いのヒトはますます猫嫌いに、猫好きのヒトはますます猫好きになる』という映画なのでした。
唐に渡った空海は目的とする真言密教の教えを受けられず、悶々としているところ。
※若き日の空海を熱演する染谷将太。大抜擢ですねぇ!
無名時代の白楽天と知り合い遊興に浸る日々・・・社会見学と称して訪れた妓楼で一匹の黒猫と出くわす。この黒猫、何かの事情があるようで、楊貴妃に係る人物の子孫を次々と無残に殺していく。
※楊貴妃役のチャン・ロンロン…実際の楊貴妃は鳥毛立女屏風に描かれたような容姿だったはず。
楊貴妃は言わずと知れた中国三大美人のひとり。空海が入唐する約半世紀前に『安史の乱』で殺された悲劇の妃です。ちなみに中国三大美人は西施, 楊貴妃(この二人は確定)に王昭君または貂蝉を入れた四人の中から三人を選ぶようで定説はありません。
どうやら黒猫は殺された楊貴妃の敵討ちをしているらしいのです。
映画では『ナゼ?』という理由の説明がナイのですが、この黒猫曰く『俺は眼玉しか食べない』・・・ということで、被害者たちは次々と猫に眼球を抉(えぐ)られて死ぬ。あ~最近はCGが発達して良かった~!池に無数の眼玉を抉られた魚が浮かぶシーンがあるのだけれど昔ならADさんが大量の魚を「眼玉を抉っては」次々と浮かべないといけなかったところです(考えたら悲惨!)。
ここに幻術やら蟲毒の秘法が絡んで『実は楊貴妃は生きているのではないか?』という謎を空海と白楽天のコンビがホームズとワトソンのように解いていく・・・というストーリーなのです。『ヤング・シャーロック』って感じでしょうか?
長安の都を完全再現したCGの素晴らしさに眼を見張ります(実際に遣唐使になった気分を味わえます!)。そしてポーの『黒猫』を思わせる謎が解けたとき、楊貴妃を想う黒猫の哀れさに涙が溢れます。
さらに空海が唐で受戒できた秘密が(・・・って『そんな訳ナイだろ!』という展開ですが)明らかになり、白楽天は『長恨歌』をモノにして大詩人に、という結末です。
※おバカなローマ人の方が似合う阿部寛。
ひとつ分からないのは阿部ちゃんの存在で『なんで阿倍仲麻呂?』・・・アベつながりですかぁ?ズバ抜けた秀才だったはずの仲麻呂のイメージがガラガラと崩れちゃった気がするンですが・・・。
猫好きのヒトは必見の映画です!
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