吉良吉影は静かに暮らしたい

植物の心のような人生を・・・・、そんな平穏な生活こそ、わたしの目標なのです。

山田正紀『デス・レター』創元日本SF叢書(2020年8月28日初版発行)

2020-12-04 03:20:26 | 紙の本を読みなよ 槙島聖護
 山田正紀の最新作death。


※山田正紀『デス・レター』創元日本SF叢書(2020年8月28日初版発行)

 読み始めて『おや?』と思いました。

 何と言いますか『山田正紀もとうとうヤキが回ったか!?』です。

 全体は6つの短編から構成されています。
 白いツナギを着た少女が『身近な人間の死を予告する手紙』を届けに来る話なのですが、その文面は毎回同じなのです。

 急いだ。急いだ。お前の大切な人(LOVE)が死んじまうぞ。
    "Hurry, hurry, yeah, your love is dead."

 これは本書と同名のジャズナンバーの歌詞の一部なのですが、いったい誰が死ぬというのでしょうか?

 受け取った側はただただ困惑するしかありません。
 もうノストラダムスの予言くらい抽象的ですからね。
 しかも受け取ったからといって何かができるワケではありません。
 訃報に接して初めて『ああ、私が大切に思っていたのはこのことだったんだ!』と実感する。そんな話が6編あるワケです。

※白いツナギを着て『デス・レター』を届ける少女はいつもカラシ色の乗物に乗って現れます。

 主人公は作中で『人を探すのが仕事だ』と言っていて、いまは『デス・レター』を届ける少女を捜しています。

 作中でこの主人公が属している職業は個人営業が多いと思われる職種なのですが、この小説のように『大企業化して、ノルマや人事評価がある』という設定はさほど目新しいものではないのです。いわば手垢の付いた使い古されたストーリーを今頃なぜ書くのだろう?そんな疑問が湧いてくるのです。

 全体の構成は以前の作品『地球・精神分析記録(エルド・アナリュシス)』に似ています。

※山田正紀『地球・精神分析記録(エルド・アナリュシス)』

 『地球・精神分析記録(エルド・アナリュシス)』は『感情を失った人類の復権のために、世界中に散らばる「人間の5つの感情を具現したロボット」と戦い破壊する』といったストーリーでした。
 悲哀(ルゲンシウス)・憎悪(オデイウス)・愛(アモール)・狂気(インサヌス)・激情(エモツイーオン)の名を持つマシーンとの戦いが描かれ、最後にアッと驚く結末が待っています。

 ところが今回の『デス・レター』に収められた短編は、読んでもそれぞれの話に関連性が感じられないのです。

 確かに最初は『デス・レター』が届けられ、愛していた命が消えていきます。ところが話が変わっていくにつれ、失われるものは夢であったり青春であったり、果ては『手紙らしいものが届いたけど忘れてしまったよ』などと言われてしまう・・・白いツナギを着た少女を追って目撃者へのインタビューを重ねていくうちに物語そのものが変わってしまうのです。

※サルバドール・ダリ『記憶の固執』

 『「デス・レター」は世界線や時間軸に影響を与える現象だから止めさせなければならない』って話じゃないのか?
 『デス・レター』が未来の死を予言する手紙でないのなら、それは単なる悪戯以上のものにはならず、差出人を捜す必要さえ無くなるのではないだろうか?
 この収拾不能な物語の着地点はいったいどこなんだろう?
 今回はコレ失敗作なんじゃなかろうか?
 最後まで読んで、作中に引用されているヘミングウェイの小説のように『何も起こらない』そんな結末だったらどうしよう?

 どんどん不安が増していきます。

 でもご安心を。大丈夫ですからね。
 ちょっとだけネタバレをしますと、今回の話は『物語の変容』を描くことが目的なのです。ですからそれぞれのストーリーの共通性が失われるまで変容しても仕方がないのです。ああ、よかった。

 今回もアッと驚く見事なフィニッシュを見せてくれます。
 途中はちょっとハラハラしましたが、見事な着地を決めてくれました。
 読んでいて感じた通り、今の時代に対応した新しい『地球・精神分析記録(エルド・アナリュシス)』の誕生です。
 ぜひ手に取ってお読みください。オススメします。









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