黒柳トットちゃんは、スルメが欲しくて、旗をふったことをくやんだと書いている。「私だって、戦争に加担したんじゃないか」と。
スルメ 黒柳徹子
「少女たちの戦争」 中央公論新社 2021年発行
生まれて初めてスルメを食べたのは小学校の低学年、
もうそのころは、だんだん戦争がひどくなり若い男の人は出征していく時代だった。
駅が賑やかだったのは、千人針を手にした女の人も多かったけど、出征兵士を送るグループがいたことだった。
駅の改札口の所に、出征する兵隊さんと、その家族が並ぶと、
隣組の人たちとか、かっぽう前かけに、「在郷婦人会」というようなタスキをかけた女の人たちが、ぐるりと、とりまき「○○君、万歳!」と叫んで、手をあげた。
兵隊さんや家族は「ありがとうございます」と、おじぎをし、
兵隊さんは「行ってまいります!」と敬礼をし、
「万歳!万歳!」の声に送られて、駅から出征していった。
スルメが、ふるまわれたのは、そういう時だった。
焼いて細く、さいたスルメを一本手渡してくれた。
もう長いこと、お菓子など、甘いものが何もない時代だったから、おやつを食べたことはなかった。
だから、スルメをもらって食べた時のおいしさは、いいあらわせない幸せだった。
かめばかむほど味が出るスルメを、そのとき、私は初めて食べて、こんなおいしいものがこの世にあるだろうか?とさえ思った。
それから私は、学校の帰りに走って行っては、人が集まっていないか探し、
集まっていると、旗を手にして「スルメ下さい」といって、ほんとに細くさいたスルメを一本もらった。
ああおいしい。
みんなが万歳!万歳!といっているそばで、スルメをもらう事に熱心だった。
でもそのうち、もっと物がなくなり、スルメも出なくなった。
そして空襲がはじまった・・・・。
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