年に数回スキヤキを食べることがあった。
肉といえばクジラ肉だったのでスキヤキは美味しかった。
スキヤキの肉は庭で飼っているニワトリだった。
弱ったり、卵を産まなくなったニワトリを処分して、肉から内臓まで父が上手に料理していた。
空腹を満たすのが三度の食事だったので、スキヤキは農家にとって、年に何度かのご馳走だった。
夏休みの日、福山のおじの家に行くと夕食(※1)にスキヤキが出た。
それはニワトリでなく、牛の肉。牛肉。
色は赤くて、嚙み心地がやわらかだった。
牛肉のスキヤキ以上にびっくりしたのが、生卵が小さなお椀に一個ついていたこと。
生卵一個があこがれの食べもので、それにスキヤキがつく。
驚き桃の木山椒の木!
田舎の生活と、町の生活の格差に驚いた。
生前、両親は
「吉田から馬の肉を売りにきていた。あれはうまかった」と話していた。
クジラ肉は魚屋で買うもので値段は安い。たまに奮発して行商から馬肉を買ったのだろう。
”お金を出して”買う食材は、きわめて限られた農家では、買ってまでして食べる馬肉は相当美味かったに違いない。
※1・夕食
田舎では晩飯(ばんめし・ばんごはん)と呼んで、暗くなったら食べていた。
町では夕食(ゆうしょく)といって、年中決まった時間に食べていた。
夏は明るいうちに食べる夕食、これには驚いた。
朝と昼、昼と夜の間にソーメン、うどん、にぎりめし、パン、などを食べていました。
朝昼夜のおかずは、キュウリの酢の物、鶏の照り焼き、カボチャとナスの煮物、サバの塩焼き、豆腐、などで、こうこや佃煮もありました。
夏休みに入ってから1週間の作業でした。