健康寿命 延びる冷や奴・縮む冷や奴
PRESIDENT Onlineライフ 2016.8.13
佐藤 秀美(さとう・ひでみ)学術博士(食物学)、栄養士、日本獣医生命科学大学客員教授
絹ごしvs木綿 豆腐はどっちが栄養価が高い?
私は買い物カゴ・ウオッチャー。カゴの中身を覗けば、その人の食生活や健康状態がおおよそ推測でき、食生活の改善ポイントが見えてきます。
ある晴れた日の昼下がり、スーパーの豆腐売り場で80歳前後の老夫婦が、木綿豆腐と絹ごし豆腐のどちらにしようか迷っている場面に出くわしました。「仲の良い夫婦だわ」と微笑ましく思いながら、買い物カゴをみると、中には納豆が入っています。
買い物カゴを持っているのがご主人ではなく奥さんであること、ご主人をよく見ると少し猫背気味、さらに痛み止めの湿布の匂いがフンワリ漂っています。
もしかして、ご主人は骨粗鬆症かもしれません。「骨粗鬆症の予防に木綿豆腐が良いですよ」とオバサンは声をかけたくなりました。
さて、骨粗鬆症はお年寄りだけの問題ではありません。若い世代や男性にも大いに関係あります。この症状の怖さやリスクなどは後述するとして、この夏の時期、効率的に骨粗鬆症対策できる、おいしい食事の方法をお教えいたしましょう。
▼骨粗鬆症の予防に欠かせない栄養素はカルシウム、ビタミンD、ビタミンK
骨粗鬆症の予防にはカルシウムさえ摂っていれば大丈夫、と安心する人が多いようですが、これは“泥船に乗って”安心するようなものです。
骨作りには、その原料となるカルシウム以外に、ビタミンDとビタミンKも合わせて摂らなければならないからです。ビタミンDは腸管からのカルシウム吸収を助け、ビタミンKはカルシウムの骨への沈着を促す働きがあります。
この3つの栄養素、いわば「骨のゴールデン・トライアングル」と、脂溶性のビタミンDとKの吸収率を高める油脂も一緒に摂れば、“大船に乗って”安心した気分でいられるでしょう。
冷や奴に納豆を載せるといい理由
▼木綿のカルシウム量は絹ごしの約3倍!
【カルシウム】豆腐
スーパーで出会った老夫婦が絹ごし豆腐と木綿豆腐のどちらにしたかが気になりますが、カルシウムを摂ることを考えるなら、木綿豆腐を選ぶのが正解です。
なぜなら、カルシウム量は“木綿”の方が“絹ごし”の3倍近く多いからです。木綿豆腐約1/2丁(180g)で牛乳コップ1杯(200ml)相当のカルシウムを摂ることができます。
また、豆腐のカルシウム吸収率は牛乳と同じ位高いことがアメリカの研究で明らかにされています。牛乳を飲むとお腹がゴロゴロする人の骨作りには、木綿豆腐が大いに役立つことでしょう。
▼ビタミンKを摂るなら野菜より納豆
【ビタミンK】納豆
ビタミンKにはビタミンK1とK2の2種類があります。
ビタミンK1は緑黄色野菜、ビタミンK2は納豆に豊富です。これまでに、体内に吸収された後の作用はビタミンK2の方がK1よりも強いことが分かっています。
納豆はビタミンK2が豊富なうえ、納豆1パック(40g)のビタミンK量が1日に摂るべき目安量の1.5倍と多いことも嬉しい限り。納豆が苦手な人には、酢と日本酒で特有の臭いと粘りを抑えた納豆がオススメです(写真1)。
これなら、ヒジキ煮や切り干し大根煮などに混ぜても“納豆感”が出ないので、ビタミンK2をおいしくたっぷり摂ることができるでしょう。
<“臭いと粘りを抑えた納豆”の作り方>
*材料(1人分)
納豆1パック(40g入り)/酢小さじ2/レモン汁小さじ1/2弱(レモン汁がなければ酢だけでも可)/日本酒大さじ1
*作り方
(1)納豆パックに酢とレモン汁を入れて粘りを出さないように軽くかきまぜる。(酢とレモンの酸で粘りを抑える)
(2)(1)に日本酒を入れる。(日本酒で納豆臭を抑える)
(3)(2)を耐熱皿に移し替え、電子レンジ(700w)で加熱。(加熱時間の目安、2分20秒)
▼適度な日光浴でビタミンDを体内合成!
【ビタミンD】日焼け
骨のゴールデン・トライアングルのひとつである、ビタミンD。スーパーで見かけた老夫婦は、1日に必要なビタミンD量を体内で合成できているかどうかはわかりません。なぜなら日焼けした様子はなく、色白だったからです。
ビタミンDを得るには、(1)食べ物から摂る、(2)日光(紫外線)を浴びて体内で合成する、の2つの方法があります。
(2)については、夏であれば正午に両手の甲と顔を日光に当てると、沖縄で約3分、関東で約4分、札幌では約5分で1日の目安量が合成されることが報告されています(熱中症には十分ご注意ください)。
ビタミンDは体内脂肪に溶け込んで貯められるので、夏に適度な日光浴をすれば、紫外線量の少ない冬の分もある程度確保できそうです。ただし、日焼け止めを塗ったら、ビタミンDは合成されません。「色白美人」を目指す人は、日焼け止めは顔だけにし、手足でビタミンDを合成すると良いかもしれませんね。
スーパーで見かけた老夫婦が木綿豆腐と納豆の入った買い物袋を下げ、太陽を浴びながら仲良く家に帰る姿を思い浮かべ、オバサンは心がポッカポカ。おふたりがいつまでも健やかに幸せに過ごされますように。
骨粗鬆症は女性だけでなく男性もアブナい!
今回は骨粗鬆症対策のひとつとして、いくつかの食材などをご紹介しましたが、ここで基礎知識をおさらいしておきましょう。骨粗鬆症の怖さとリスクについてです。
「骨粗鬆症は女性の病気だから、ボクには無縁」と思っている男性にお尋ねです。
「身長が縮んだ」
「背中や腰が曲がってきた」
「背中や腰に痛みが生じる」
「背中をしたにして眠りにくい」
と感じることはありませんか?
もしあれば、それは骨粗鬆症が原因かもしれません。骨粗鬆症とは、骨量(カルシウム・マグネシウムなどのミネラル量)が減少して骨がスカスカになり、骨折が生じやすくなる病気。将来の「ねたきり」や「要介護」のリスクを高めます。最近では平均寿命が延びていることから、男性の骨粗鬆症も増えています。
骨は、古くなると「破骨細胞」によって壊され、「骨芽細胞」によって壊された部分が修復される、の繰り返しで、絶えず新しい骨と入れ替わっています。成人でも約3年で、全身の骨の全てが新しく生まれ変わります。
たとえ100歳の人でも同じです。ただし、加齢とともに骨芽細胞の働きが弱まるので、骨量は20歳前後をピークに、その後、減っていきます。
女性の場合、閉経に近づくにつれ、破骨細胞の働きを抑え込んでいた女性ホルモンの分泌量が減るため、閉経前後に骨量がガクンと減ってしまいます(図1)。このため、50歳前後から骨粗鬆症のリスクが高まり、60歳代で約4人に一人、70歳代で約2人に一人は骨粗鬆症と言われています。男性は若い時の骨量が女性よりも2~3割多く、その後、年々緩やかに骨量が減っていきます。
男性の骨粗鬆症の進行は女性よりも15年ほど遅く、65歳頃から骨粗鬆症のリスクが高まり、80歳を過ぎると目に見えて増えてきます。男性の平均寿命が80歳を超える現在、男性の骨粗鬆症が目につくのも当然といえば当然なのですね。「骨粗しょう症になるリスクは誰もが持っている」と心得え、健康な骨作りに日々励むことが大切です。