お母さんの愛の花!
気持ちの良い快晴の5月です・・・
木々は新緑の初々しい新芽や若葉をつけ始め・・・ 花々もいっせいに
美しい花を咲かせ始めました。
小鳥達も新しい恋の始まりで賑やかにさえずっています。
私はこの日 東海自然歩道から自然8号路に下り、清水谷林道を散策
していて、丁度日当たりの良い所で一休みをしていたところでした。
すると一組の若いご夫婦が、幼い子供の手を引いてゆっくりと歩いて
きました。
・ こんにちわ・・・ と私。
するとその子は少し恥ずかしげに・・・
* こんにちわ・・・
とペコンと頭を下げて応えてくれました。
・ いい子だねお名前は・・・
* まいちゃん・・・ と。
子どもは近くにきれいな花を見つけては手をたたいている。
私は一休みしながらまいちゃん一家を眺めていました。
するとしばらくして、まいちゃんは何を思ったのかそれまで眺めていた
きれいな花の所へ行くと、あっという間にその花を引きちぎってしまった。
私は親がなんと言うのかな? と、見ていると・・・
お母さんが静かにまいちゃんを膝の上に乗せて・・・
” まいちゃん きれいなお花を見つけたのね! ”
まいちゃんは小さな手のひらにぐしゃっとした花を持って、嬉しそうに
母親に見せてうなずいている・・・
決してお母さんは怒ろうとしない・・・
そしてその花をまいちゃんから受け取ると、そっといとおしむように手で
触り、花びらを一つ一つ直して再び娘の手のひらに戻しながら・・・
” きれいね・・・ なんて言うお花かしらね. スミレかな・・・? ”
” このお花はね! きっときれいに咲いているところをまいちゃんに
見てもらいたかったのね・・・
だからここに咲いてまいちゃんの来るのを待っていたのね・・・
うれしいわね! ”
まいちゃんも得意そうにして喜んでいる・・・
そこへモンシロチヨウが飛んできて少し先の花にとまった・・・
” あ~ !” と、蝶々に指さす娘にお母さんは・・・
” きっとあの蝶々さんもお花が好きなのね・・・ でもあの蝶々さんは
お花を楽しんだらそのままにして次のお花へ飛んでいったわね・・・
お母さんも、お父さんも、あのおじさんも・・・ (私のほうを見て・・・)
みんなこのお花を楽しんでいるのよ。
虫さんも、小鳥さんもきっとそうだわよ・・
でもまいちゃんの採ったこのお花はもうすぐ枯れてしまうから・・・
もう誰にも見てもらえないのね・・・ ちょっと可哀想だわね ”
静かにお母さんの話を聞いていたまいちゃんは事情が分かったのか
” うん ” と、うなずくと目に涙がいっぱい浮かんできた。
そして、あわてて引きちぎったところへいって、くっつけるしぐさをして
いる・・・
もうだめなのかな?・・・ と分かると じ~ とそこを見つめている。
お母さんがそばに寄り、そのしおれたお花を受け取ると・・・
” 土に戻してあげようね・・・ 来年になったらまた まいちゃんにまた
美しいお花を咲かせてくれるかもしれないからね・・・ ” と、
お母さんは手で土を少し掻いてそこへ花をおき土をかぶせた。
それを見ていたまいちゃんは少し顔が明るくなった・・・
” 来年きっとみにこようね・・・ ” と、お母さんの顔をのぞいている・・・
” そうね まいちゃんのお花をみにこようね・・・ ”
私はそれを見ていて、子供の純粋な気持ちを傷付けることなく、その
生き生きとした子供らしさを生かしつつ、美しさと、優しさと、自尊心を
育てるということを目のあたりにして、その自然な教育に心打たれ
ました。
お母さんはどんな美しい花よりも、素晴らしい心優しき愛の花を
まいちゃんにプレゼントしたようですね。
まいちゃんはもう二度と無造作に花を引きちぎる事はしないに違いない。
お父さんは傍でニコニコしながら二人のやり取りを見つめている・・・
いいご夫婦だな・・・ いいご家族だな・・・
まいちゃんはきっと 自然を愛する心豊かなやさしい女性 に成長して
いくだろうな・・・・ と、すがすがしい青空のように、私の心も嬉しさに
満ちていました。
まいちゃんは小さな手を振り振り、私とお花にバイバイしながら、また
両親と手をつないで森の中へと歩いていきました・・・
わずか10分足らずの小さな出来事でしたが、私には今日一番の大切な
時間となりました。
06-5 (完)