トランプ大統領は1月23日、環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱するための大統領令に署名した。今後は二国間自由貿易協定(FTA)で、米国に有利な条件を目指すとの話だ。トランプ氏は大勢を相手に交渉するより、日本を単独とした方が脅しも効くと思っているのだろう。
TPPを成長の柱と考える安倍政権は、TPPの発効に向けてトランプ氏の理解を求めたいと表明していたが、先日の日米首脳会議の結果からすると、TPPを諦めFTAに舵を切ったようである。
TPPの承認に向けてこれまで米国を引っ張ってきたマイケル・フロマン前通商代表部が朝日新聞の取材に応じ(2月10日)、次のように述べた。・TPP交渉において日米が幅広い問題について緊密に協議し合意しており、トランプ政権が目指すFTAはそれが土台になる。・トランプ氏は二国間の貿易赤字を相当重要視しているようであり、自動車は赤字の相当大きな部分を占めているので、争点の一つになる。また、・保護主義的な政策に関しては、組織が固まっていないため政策を決めるには時間がかかるだろう。
さて、TPPとFTAとでは、何がどう違うのであろうか。トランプ大統領は、自動車に関してはいろいろ発言しているが、農産物に関しては何も言及していない。自動車に関しては、日本製車が米国でよく売れるのに、米国製車が日本で売れないのは、日本政府が妨害しているからとの主張である。どうも現状を十分認識しているようには思えない。いや認識しているが、受けを狙って大げさに言っているだけかも知れない。
トランプ氏の大統領当選では米国中東部のラストベルトの白人労働者の貢献が大きく、彼らに報いるために、自動車産業の米国復帰に力を注いでいると言われる。一方農産物生産者がどの程度選挙に関わったか不明であるが、農産物の生産が盛んなカリフォルニア州はクリントン氏が勝っている。同じように考えると、農産物には関心が無いかもしれない。牛肉や豚肉などの農産物の対日貿易では、現在米国が一方的な貿易黒字の筈であり、何も言及していないのは当然のことかも知れない。
トランプ米大統領は2月13日、カナダのトルドー首相との会談後の共同記者会見で、米国はカナダとの通商関係は大幅に変更せず微調整にとどめるとの方針を示した。トランプ大統領はこれまでに、米国、カナダ、メキシコが加盟する北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を行う方針を強い口調で表明していたが、カナダに関しては大山鳴動して鼠一匹だったようである。
トランプ氏の言行不一致は、受けを狙った一時なものか、不勉強故の勘違いなのか、よく分からない。日本への米軍駐留経費の増額要求に関しても同じである。予てより増額を要求していたが、先日の日米首脳会談では話題にもならなかったようだ。それどころか、トランプ氏に信頼されるマティス国防長官は在日米軍の駐留負担経費について、日本とのコスト分担の在り方は他国にも手本になる、と評価した。
フロマン氏が指摘するまでもなく、トランプ新政権の基本方針は全閣僚が揃わない限り分からないだろう。ところで、トランプ氏の通商チームには、商務長官にウィルバー・ロス氏や、米通商代表部代表にはダン・ディミッコ氏の名前が挙がっている。彼らの過去の発言からすると、特に中国の通商政策に対して従来より厳しいものになり、幅広い中国製品に対して反ダンピング、反補助金の制裁を求める可能性がある。日本への対応はよく分からないが、厳しくなるのは間違いないだろう。
TPP交渉では、日本政府は農家の反対を押し切って農産物の大幅な関税引き下げに合意したが、2国間の本格的な交渉になれば、農家に対する補助金がやり玉に上がり、関税撤廃も求められる恐れがある。農家はTPPの破談で喜ぶどころか、逆に厳しくなるかも知れない。
TPPとは別に、東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓など16か国の参加する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)が2013年に交渉開始されたようである。米国が抜け、中国、インドが加わると、交渉をまとめるのは一層困難になるだろうが、TPPに代わる新たなシステム構築を目指して、リーダシップを発揮すべきであろう。
更に、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)も2013年に開始されている。日本の要求は、家電や自動車の関税撤廃であり、欧州の要求は、チーズ、ワインなどの農産物の関税引き下げであるそうだ。現在の進捗状況はよく分からないが、ここにおいても、日本は米国抜きでもやれることを示す必要があるだろう。
TTP、FTA、RCEPおよびEPAの相互の関係はよく分からないが、日本は自由貿易の方向に一途に進んである。米国が保護主義に傾倒すれば、各国も自国産業の保護や需要の囲い込みを重視する保護主義に傾くだろう。保護主義の蔓延は世界経済の不安定感を高めるリスク要因だ。さて、日本は保護主義ではやっていけない。どう対処すればよいのであろうか。2017.03.01(犬賀 大好-316)
TPPを成長の柱と考える安倍政権は、TPPの発効に向けてトランプ氏の理解を求めたいと表明していたが、先日の日米首脳会議の結果からすると、TPPを諦めFTAに舵を切ったようである。
TPPの承認に向けてこれまで米国を引っ張ってきたマイケル・フロマン前通商代表部が朝日新聞の取材に応じ(2月10日)、次のように述べた。・TPP交渉において日米が幅広い問題について緊密に協議し合意しており、トランプ政権が目指すFTAはそれが土台になる。・トランプ氏は二国間の貿易赤字を相当重要視しているようであり、自動車は赤字の相当大きな部分を占めているので、争点の一つになる。また、・保護主義的な政策に関しては、組織が固まっていないため政策を決めるには時間がかかるだろう。
さて、TPPとFTAとでは、何がどう違うのであろうか。トランプ大統領は、自動車に関してはいろいろ発言しているが、農産物に関しては何も言及していない。自動車に関しては、日本製車が米国でよく売れるのに、米国製車が日本で売れないのは、日本政府が妨害しているからとの主張である。どうも現状を十分認識しているようには思えない。いや認識しているが、受けを狙って大げさに言っているだけかも知れない。
トランプ氏の大統領当選では米国中東部のラストベルトの白人労働者の貢献が大きく、彼らに報いるために、自動車産業の米国復帰に力を注いでいると言われる。一方農産物生産者がどの程度選挙に関わったか不明であるが、農産物の生産が盛んなカリフォルニア州はクリントン氏が勝っている。同じように考えると、農産物には関心が無いかもしれない。牛肉や豚肉などの農産物の対日貿易では、現在米国が一方的な貿易黒字の筈であり、何も言及していないのは当然のことかも知れない。
トランプ米大統領は2月13日、カナダのトルドー首相との会談後の共同記者会見で、米国はカナダとの通商関係は大幅に変更せず微調整にとどめるとの方針を示した。トランプ大統領はこれまでに、米国、カナダ、メキシコが加盟する北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を行う方針を強い口調で表明していたが、カナダに関しては大山鳴動して鼠一匹だったようである。
トランプ氏の言行不一致は、受けを狙った一時なものか、不勉強故の勘違いなのか、よく分からない。日本への米軍駐留経費の増額要求に関しても同じである。予てより増額を要求していたが、先日の日米首脳会談では話題にもならなかったようだ。それどころか、トランプ氏に信頼されるマティス国防長官は在日米軍の駐留負担経費について、日本とのコスト分担の在り方は他国にも手本になる、と評価した。
フロマン氏が指摘するまでもなく、トランプ新政権の基本方針は全閣僚が揃わない限り分からないだろう。ところで、トランプ氏の通商チームには、商務長官にウィルバー・ロス氏や、米通商代表部代表にはダン・ディミッコ氏の名前が挙がっている。彼らの過去の発言からすると、特に中国の通商政策に対して従来より厳しいものになり、幅広い中国製品に対して反ダンピング、反補助金の制裁を求める可能性がある。日本への対応はよく分からないが、厳しくなるのは間違いないだろう。
TPP交渉では、日本政府は農家の反対を押し切って農産物の大幅な関税引き下げに合意したが、2国間の本格的な交渉になれば、農家に対する補助金がやり玉に上がり、関税撤廃も求められる恐れがある。農家はTPPの破談で喜ぶどころか、逆に厳しくなるかも知れない。
TPPとは別に、東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓など16か国の参加する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)が2013年に交渉開始されたようである。米国が抜け、中国、インドが加わると、交渉をまとめるのは一層困難になるだろうが、TPPに代わる新たなシステム構築を目指して、リーダシップを発揮すべきであろう。
更に、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)も2013年に開始されている。日本の要求は、家電や自動車の関税撤廃であり、欧州の要求は、チーズ、ワインなどの農産物の関税引き下げであるそうだ。現在の進捗状況はよく分からないが、ここにおいても、日本は米国抜きでもやれることを示す必要があるだろう。
TTP、FTA、RCEPおよびEPAの相互の関係はよく分からないが、日本は自由貿易の方向に一途に進んである。米国が保護主義に傾倒すれば、各国も自国産業の保護や需要の囲い込みを重視する保護主義に傾くだろう。保護主義の蔓延は世界経済の不安定感を高めるリスク要因だ。さて、日本は保護主義ではやっていけない。どう対処すればよいのであろうか。2017.03.01(犬賀 大好-316)