日々雑感

最近よく寝るが、寝ると言っても熟睡しているわけではない。最近の趣味はその間頭に浮かぶことを文章にまとめることである。

孫社長のIoT戦略を考える

2016年08月03日 09時17分59秒 | 日々雑感
 ソフトバンクの孫社長は、世界的な半導体設計会社の英アーム(ARM)・ホールディングスを約3.3兆円で買収すると今月18日発表した。”今はInternet of Things(IoT)という大きな変化の入り口。アームは爆発的に伸びる”と言い、5~10年後には安い買い物だったと理解してもらえると自信の程を示した。

 IoTとは、あらゆる"モノ"に各種センサーを付けてその状態をインターネットを介しモニターしたり、インターネットを介し"モノ"をコントロールしたりすることにより安全で快適な生活を実現しようとすることである。従来主にパソコンやサーバー、プリンタ等のIT関連機器が接続されていたインターネットに対し、それ以外の様々な"モノ"も接続するようにした、未来社会の形態である。

 例えば、自動車の自動運転を考える。自動運転される車は、インターネットを介し、近くを走る車の存在、速度、方向などを知り、安全な速度、車間距離を保って走行する等である。家庭内での適用は、自己の体調を計測し、食事内容を冷蔵庫に保管される食材と照合し決定する。食材が不足する場合は、インターネットを介し、近くの食材店に発注し、ドローンで配達してもらう。

 少々漠然とはしているが、IoTにより便利な世界が実現されそうな気がしてくる。しかし、現在の社会は様々な問題を抱えている。国内面でもエネルギー問題、食料問題、少子高齢化問題、財政問題など、考え始めたらきりが無い。IoTはこれらの問題を解決するのに、役立つであろうか。IoTによる車の自動運転は高齢化社会に役立つ反面、社会の安全性が一番の懸念材料である。すべての”モノ”が情報で繋がる社会においては、どこか一か所の不具合が全体に影響を与える懸念がある訳である。極端な場合、社会全体がテロリスト等の独裁者に支配される心配も出てくるわけである。

 さて”モノ”の状態を検知したり、”モノ”を制御したりするためにはすべてマイクロプロセッサ(MPU)が使用されるだろう。最近の電気機器にはMPUが数多く使用される。MPUを作るためには、基本設計、製造設計、製造、検査等、多くの工程を経る。ARM社は半導体メーカーではあるが、この会社自体は「MPUの規格」を作るだけで、製造、販売はしていない。ARM社はMPUコアの基本設計(アーキテクチャー)だけを担当し、それを管理して利益を上げるというビジネスを展開しているのだ。

 MPUはメモリ、レジスター、入出力インターフェース回路等の要素から構成されるが、どのような要素をどのくらいの規模でどのように配置するがアーキテクチャーであり、ARMのMPUは低コスト、低消費電力などのユニークな特徴から大当たりし、スマートフォンの95%、デジタル カメラの80%、すべての電子デバイスの35%で使用されているとのことだ。今、爆発的に人気があるポケモンGoのゲームを動かしているMPUも恐らくARMのアーキテクチャが使用されていることだろう。

 孫社長はここに目を付けたのであろう。日本人による買収を、英国のメイ首相もEU離脱に拘わず、これまで通り国際的な投資先として魅力がある明確な証拠です、と買収を歓迎したようだ。日本であれば、日本の大企業が外国企業に買収されたと大騒ぎになるであろうが、さすがに金融大国の長との感もする。

 しかし、一方ではARMの限界を見据えた判断とも思える。あらゆる”モノ”を接続するとの時代の流れは間違いないであろう。しかし、新しいアイデアがどんどん生み出され、新しい概念が創造される世界である。すでに大企業になった組織は成功体験にとらわれ、新しいアイデアが生み出され難い特性を有することはよく指摘される。ここにARMの一片の危惧がある。

 世界は自由主義経済によるグローバライゼイションの欠点が顕著になり、ナショナリズム、保護貿易主義の台頭などが目立ってきた。5~10年後に社会がどのように変化しているだろうか。孫社長の思惑があたり、世界一の企業になっているかも知れないが、忘れ去られているかも知れない。
2016.08.03(犬賀 大好-256)

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