半月からちょっと欠けた赤い月が
西の山に落ちていく
少しだけ陰った部分が
ちょうどほほ笑むまなざしのようだ
どこか不思議に懐かしい
私を
見守ってくれるような
暖かく語りかけてくれるような
あのアンデルセンの「絵のない絵本」の月は
この月だったに違いない
世の中の
さまざまな物語を見て
さまざまな幸福と不幸を見下ろして
そっと
私だけに語りかけてくれる
そんな
暖かな
懐かしい月
高台の私の家は
あの青年の屋根裏部屋よりも
もっと高い視点から
まちを見下ろすことができる
旧国道を家路へ急ぐ車のテールランプやヘッドライト
小売り店のネオンサイン
北欧の国の首都とは比べものにならないが
小さな田舎町の
通勤帰りの勤め人にも
スーツを選び試着する夫婦連れにも
そして
その相手をする販売員たちにも
さまざまな物語がある
愛憎があり苦楽がある
そんななかには
語るべき美しい情景もあるに違いない
そんな夢想を膨らませているうちに
赤い月は
いつのまにか
西の山の陰に姿を隠している
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