ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

内沼晋太郎 本の逆襲 朝日出版社

2016-02-15 15:17:16 | エッセイ

 カバーをめくると、本体の表紙には、英語で、「BRIGHT FUTURE FOR BOOKS」とある。「本の輝かしい未来」。

 はじめにで、著者はこう語る。

 

 「…ところが巷ではここ十数年、ぼくたちが大好きな本は、商品としては「売れない」と言われ続けてきました。…(中略)…煽り気味に「本はなくなる」「出版文化は崩壊する」と警鐘を鳴らす本が、何冊も出ています。」(6ページ)

 

 そんな状態の中で、

 

 「『出版業界の未来』ははっきり言って暗いけれども、生き残る方法はたくさんあるし、「本の未来」に至ってはむしろ明るく、可能性の海が広がっているとぼくは考えています。」(7ページ)

 

 と、まあ、希望に満ちた本である。

 

 著者内沼晋太郎は、1980年生まれ、ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクターの肩書で、一橋大学商学部商学科卒。2012年、東京世田谷区下北沢にビールの飲める本屋「B&B」を開業、成功させている。

 下北沢は、新宿・渋谷からほど近く、一種の若者文化の拠点となる街。私も、学生時代とその後2年間東京で会社勤めをした間、週末は入り浸っていた懐かしい街。今は、本多劇場やすずなりなど、演劇文化のひとつの中心地のようだが、当時は、本多劇場が建設計画はあってもまだ着工前で、ロック喫茶やライブハウスが、小さな街にひしめいていた。

 喫茶店の独、酒も飲めるマザー、イート・ア・ピーチだとか、ライブハウスのロフト、東京に出てから初めて好きになった人ともその街で出会ったし、私の「青春のかけらを置き忘れた街」でもある。

 閑話休題。

 1980年生まれということは、私より24歳下、まあ息子の世代か。ミュージシャンをあきらめ、編集者をあきらめ、クラブ・イベントをやって、か。私の時代にはクラブ・イベントなどという言葉はないが、仲間内でコンサートや小さなライブは仕掛けて、若い女の子を集めて喜んでいたものだ。何か、似たようなところを歩んできているとはいえる。

 まあ、私は、結果、お堅い公務員の道を歩んできたわけだが。

 この本の装丁は、すべてが若草色というのか薄い緑色の紙で、カバーも同色同素材、あ、そうか、このイラストは生ビールのジョッキと本を表しているのか、コンパクトなデザインで、パステル・カラーのマカロン、というと形態は全く違うが、ちょっと手に取ってみたくなるような仕上がりである。

 そうだ、去年の図書館総合展の会場で、岡本真さんのARGのブースの付近で買ったのだ。そうか、著者自身の「B&B」の出店だったし、岡本さんのブースで彼のトークも行われていた最中だったかもしれない。時間の都合もあって、ゆっくり座り込んで聴くとはならなかったが。

 第3章は「これからの本のための10の考え方」

 その10個とは、

 

 「1 本の定義を拡張して考える

  2 読者の都合を優先して考える

  3 本をハードウェアとソフトウェアに分けて考える

  4 本の最適なインターフェイスについて考える

  5 本の単位について考える

  6 本とインターネットの接続について考える

  7 本の国境について考える

  8 プロダクトとしての本とデータとしての本を分けて考える

  9 本のある空間について考える

  10本の公共性について考える」(70ページ)

 

 なるほど。

 この10か条の詳細については、実際に本を読んでいただきたい。

 第4章は「本の仕事はこれからが面白い」、ページをめくると節の見出しが「『書店』が減っても『本屋は増える』」である。

ここでの本屋とは、紙の本ばかりを売るいわゆる書店という形態でなく、様々な形で本と関わりながら仕事ともしていく形態というか。

 章の最後、つまり本の最後のほうに

 

 「…たとえば個人で書評のブログを立ち上げようとか、子どもたちに絵本の読み聞かせをしようというのも、立派な『本屋』のあり方のひとつです。ですが、…(中略)…コンセプトやアイディアに一ひねり加えることで、より影響力を持つ『本屋』の形を生み出すことができるかもしれません。」(172ページ)

 

 なるほど、これは、私も何か新しい本屋を立ち上げることができるのかもしれない。

 

 「初めてそうした個人的な『本屋』活動を始めるときに、いきなりビジネスとして事業計画を立て、それで生計を立てていこうと考えることは、ぼくはあまりおすすめしません。自分にとって『本』とは何か、どうしてその『媒介者』になりたいのかと考えたうえで、一番強い気持ちを持てるようなことを、ますは気軽に、お金にならなくてもいいという前提で始めたほうが他にだれもやっていない、面白いプロジェクトが生まれやすいからです。」(173ページ)

 

 なるほど。これはますますその気になる。

 最後のところで、

 

 「あなたも『本屋』に!」(176ページ)

 

と呼びかけられしまった。

 まさしく、この言葉は、私に向かって発せられたものに違いない。

かなり、その気になってしまっている。

下北沢もしばらく行っていないから、次の状況の折は、行ってみなくてはいけない。息子も、武蔵境から呼び出して連れて行ってみよう。


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