弦書房というのは、福岡の出版社らしい。このブックレットは福岡ユネスコ協会での講演を起こしたものという。たまたま、福岡からの帰りの空路で読み始めた。
大澤真幸は、いま、もっともアクティブな学者のひとり。1958年生まれ、私より二つ下。宮台真司と同級生らしい。いま、いちばん脂の乗ったと形容すべき学者だな。
「村上春樹がよく使うのが、あの「1Q84」もそうですけど、二つのストーリーを縒り合せていく手法です。一番極端なのが、ちょっと難しくてあまり彼の本では読まれていないんですけど、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』という作品です。ここでは二つの話が、どう関係してたのか全然分かんないけど交互に話して行って、最後にそれが終焉するという出来になっているんですが、まあ、そんな感じで二つの話を縒り合せて行きたいんです。」(31ページ)
ふむ、なるほど。
しかし、村上春樹の小説は、最後まで行っても、結局、明示的には、どう関わるのか分からないまま終わっていたはずだ。もちろん、暗示的には、関わりが想像されるものではあるのだけれど。そこを想像し、思いをめぐらすところに、読み手のだいご味があるのだ、たぶん。
この講演、最後にはどうなるんだろうと心配される出だしである。
などということはもちろん杞憂で、この社会学者は、きちんとふたつの筋の話の決着はつけてくれる。ご心配なく。(ごすんぱいねぐ)
その少し前のところで、大澤は哲学者カントが「不可解な謎」と言っていることを紹介する。「人はしばしばその成果として得られるよきものを享受できるのは、ずっと自分よりも後の世代だということがわかっているのに、そういうものに関しても非常に一生懸命やる。…この仕事が終わるのが100年後…自分は生きていない。…けれども意外と一生懸命やるんです。自分は関係ないからどうでもいいや、というふうにはなかなかならないんですね。」(30ページ)
この「不可解な謎」を探求するのがこの講演のねらいということになる。
しかし、この「不可解な謎」は、ポジティブで、希望に満ちているな。そうですよね、皆さん。いろんな状況があるのは言うまでもないことだが、「ごすんぱいねぐ」と、とりあえずは言っていたほうがいい。希望をもって。
さて、大澤真幸が、現在、もっとも読むべき学者、思想家であることに間違いはないが、この小冊子も読んでおいて間違いはない。
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