![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3a/28/7a78674aaa815b57d26c53d191e8507a.jpg)
―日常生活の奇跡―
三月三十一日日曜日午後ぼくにとってはじめての及川満奈美ピアノ教室発表会
オープニングは上級生の女の子と先生自身が連弾する呉田軽穂の「赤いスイートピー」(呉田軽帆は荒井由美=松任谷由美=ユーミンが他の歌手に曲を提供するときのペンネームだそうだ)
第一部と第三部のこどもたちの発表
ブルグミュラーとか 樹原涼子 ハイドン モーツァルト J・レノン&p・マッカートニーの曲(ぼくはスチュワートのうちゅうたんけんを弾いた)のあいだ
第二部の企画は
前半
ぼくとママとパパのさざえさん沖縄風(喜納昌吉のハイサイおじさんみたいだった)を含むファミリー連弾と
後半
ハンドベルの合奏やぼくらこどもたちの合唱によるユーミンの曲集
守ってあげたい/魔法の鏡/ノーサイド/海を見ていた午後/卒業写真 そして
会場のみんなも一緒に
やさしさにつつまれたなら
小さい頃は神様がいて
不思議に夢をかなえてくれた
やさしい気持ちで目覚めた朝は
おとなになっても 奇跡はおこるよ
※
この曲は、宮崎駿のアニメ「魔女の宅急便」の挿入歌に使われていた。
「この作品では、キキの飛ぶ時のテーマ曲にユーミンの『ア・カルイ』曲を使ったり…かえって。若者に対する〈媚び〉を売った卑しい作品に成り下がっている」(川喜多八潮「〈日常性〉のゆくえ」JICC出版局一六五ページ)と手厳しい批評の材料になったりしている。しかし、、オープニングの「ルージュの伝言」は置くとして、こちらの曲は、例えば、次の笠井潔の読みからして、決して単なる媚びと言えない。
「濃密な汎神論的感覚によって、英国ロマン派の田園詩を思わせる雰囲気の歌詞である。荒井由美がとうぜん同時代人として呼吸したはずの一九六〇年後半のサウンドだが、ヒンズー教神秘思想に傾斜したビートルズからピンク・フロイドまで、英米ロックには濃い神秘主義的思想が刻まれている・」(笠井潔「象徴としてのフリーウェイ」新時代社一九ページ)
その前には「ひこうき雲」に触れてであるが、荒井由美は「通俗化されたロマン主義の罠を喰い破っている。…本来のロマン主義者として錬金術的思考を深化していく」と語る。(同前一三ページ)
※
カーテンを開いて 静かな木洩れ陽の
やさしさにつつまれたなら きっと
目にうつる全てのことは メッセージ
※
及川満奈美先生は最後の挨拶でつぎのように語った。
わたしがまだ高校生のころ、デビューして間もない荒井由美さんーユーミンが、このまちにやって来ました。わたしも舞台裏でお手伝いしました。
まだ、「ルージュの伝言」や「卒業写真」が出るまえの本当にはブレイクしていないころですが、彼女のデビューアルバムを買って何回も繰り返し聴いて、すっかりファンになっていました。
ピアノ一台、弾き語りで「ひこうき雲」や「やさしさにつつまれて」とか歌ってくれました。
ステージが終わってから、かくして持っていった彼女の曲のピアノ譜にサインしていただきました。その楽譜は、わたしの本当の宝物でした。
しかし、数年前、あるひとにその宝物を貸しました。そして、二度と再び私のもとに帰って来ませんでした。
ものとしての宝物はなくしましたが、あの頃からいままで、そしてこれからもずっと、ユーミンは、私にとって、とても大切な宝物、神様のようなひとです。
生きていく力を与えてくれるひとです。
※
演奏会が終わって
ぼくのリクエストで
ケンタッキーフライドチキンを食べに
「ベレG」じゃないけど小さな自動車で
「新中央商店街」を西に向かった
夕日が落ちていくこのまちの西の山脈に
向かって走った
右に見えるボウリング場 左はケンタッキーフライドチキン
黄昏がフロントグラスを染めて広がる
ふと パパがカーラジオのスウィッチを入れると
例のちょっとかすれたような彼女の声が
スピーカーから聞こえてくる
―それでは、お送りしましたサウンドアドヴェンチャー、今日最後の曲、わたしの二枚目のアルバム「ミスリム」から「やさしさに包まれたなら」…
小さい頃は神様がいて
不思議に夢をかなえてくれた
やさしい気持ちで目覚めた朝は
おとなになっても 奇跡はおこるよ
カーテンを開いて 静かな木洩れ陽の
やさしさにつつまれたなら きっと
目にうつる全てのことは メッセージ
ケンタッキーをやり過ごして
真っ直ぐ西へ向かう道路をそのまま
一曲終わるまで走った
パパとママとぼくと三人で一緒に歌いながら
やっぱり焼肉のほうがいいやって
ケンタッキーやめて焼肉ハウス行ったらそこに
及川満奈美先生が発表会手伝ってくれたおねえさんたちと現われた
ってまで言うとホント嘘みたいだけど
一九九八年三月三一日のホントのお話
※2008年1月20日この作品パソコンで打ち直ししていたら、ちょうど流れていたNHKの番組のエンディングテーマ、ユーミンだった。(曲名不明)
神様が不思議に夢をかなえてくれるのは、小さい頃、大人になってしまうと、本当に時々しかそういうことは起こらない。大人になるって言うのは、そういう日常を受け入れざるを得ないということ。奇跡は、毎日は起こらない。
今から10年前の3月末日。この頃、気仙沼演劇塾うを座を立ち上げ、99年9月、旗揚げ公演。
今夜は、ユーミンの歌は流れていないな。