ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

直線的な銀河鉄道

2016-04-19 23:30:52 | 2015年4月以降の詩

暗い夜の中空を

曲がりくねった線路が浮かび

そのうえを

蒸気機関車が滑るように走っていく

もくもくと

煙を吐き出して

 

星が

満天の星が

輝いている

 

もくもくと煙を吐き出しても

あたりはしんとしてもの音ひとつしない

愁いをおびた少年が窓にもたれ

きらきらと輝く満天の星を

見るともなく見ている

 

ステンドグラスの美しい影絵の世界

 

センチメンタルでメランコリックで

やさしくどこまでも美しい世界

ノスタルジックでイマジネールで

古色蒼然としたセピア・カラーの世界

 

だが

百年前には

蒸気機関車もまだ充分にモダンな機械だった

科学の都会の象徴だったはず

 

いま

一本の銀色の鋼鉄の高架橋が

南の高台から川を越えて

あの一本松の脇をすり抜け

海沿いの平らな土地の真ん中まで伸びている

橋は正確に直角に曲がって曲線はない

大量の土砂を運び埋め立てる巨大なベルトコンベア

ダンプで運ぶよりも安上がりであるという理由で建設された

まったく実利的な代物

経済的であるというまったく身もふたもない理由

 

でも

このほとんど骨組みだけの無骨な銀色の構造物は

それはそれとして美しい

五十年前のSFの世界が実現された未来都市

科学で作り上げられた人工の都市

火星の植民都市のようでもある

のではないか

 

そうだこれは新しい時代の銀河鉄道だったのだ

 

巨大な破壊の後の再生なのか

荒削りの土砂で地表を埋め尽くす二度目の破壊なのか

巨大な土木工事が進み

実はもはや川を跨ぐ一部が残されるのみで

解体が進んでいる

もうすぐ解体されつくして幻になる

これもまた記憶の底にだけ残される幻となってしまう

 

早い日没のあと

ライトアップされた銀色の高架橋のもとで

荒削りの土砂が吐き出され

土木の工事が進行する

そんな光景が

まちのひとびとの記憶に刻まれ

ああそんな時代があったと

いつか語りだされる

ああそんな時代がいつかやってくる

のだろう

あのとき

新しい鋼鉄の銀河鉄道がそこにあったのだと


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