吉田右子さんは、筑波大学の図書館情報学の教授。
昨年、全国図書館大会の折、デンマークのにぎやかな公共図書館について元気のいいお話を伺った。伺って、「これは、使える!」と思った。話の勢いに引き込まれた、とも言えるかもしれない。いや、もちろん、その内容が素晴らしかったのだ。
それは、この本で「公共図書館はうるさい場所?」の小見出しのあとに、
「デンマークの公共図書館は、もはや静かな場所ではない。図書館に入って最初に聞こえるのが人びとのざわめきである。公共図書館は、来館した利用者同士が自由におしゃべりするにぎやかな空間に変わりつつある。」(60ページ)
と、紹介されているその内容を、彼女自身のとても元気な、賑やかな語り口で伝えてくれたということだ、と言える。
もちろん、デンマークの図書館は、賑やかな場所であるだけではない。本来の図書館の基本を押さえたうえで、賑やかである。そのことに価値があるのである。
「北欧と言えば、今、まさにさまざまなジャンルで脚光を浴びている地域である。…(中略)…その北欧の魅力の中に図書館を加える必要がある…(中略)…サービスの質と量、そして図書館を利用するそれぞれの国民の頻度から見ても、北欧の図書館は国際的にきわめて高いレベルにある。」(2ページ はじめに)
高いレベルにある。しかし、それはなんら特別なことをしているわけではないのだという。日本でも行われているごく普通のサービス。吉田氏も、少し拍子抜けしたのかもしれない。
「北欧での調査では大きな成果を得たものの、サービスは想像していたものよりは普通だと感じたし、実際に、それほど特別なことをしているわけではなかった。日本の公共図書館でも、北欧に負けないぐらいに多様なサービスを展開している、とも思った。充実した旅ではあったが、日本と北欧の公共図書館にはそれほど差がない、と自分なりにいったんは結論づけた。」(13ページ)
続けて、しかし、と吉田氏はつづる。
「しかし、秋が深まるころ、突然「北欧ショック」が襲ってきた。どこの町にも居心地のよい図書館があって専門職が配置されていたこと、基本的なサービスをごく普通にこなしていたこと、図書館長(たまたま全員が女性)の図書館に対する確固たる信念、高齢者が真剣に書架の本を選ぶ姿、温かみのある家具といったことの一つ一つが、途轍もないことのように思えてきた。」(13ページ)
基本的なサービスを、ごく普通にこなすこと。日本の様々な図書館を見るとき、このことが、きちんと行われているかどうか、実は、それが「途轍もない」困難なことだと気づいたのだという。
たとえば、基本的なサービスであるレファレンスサービスが、きちんと適用できているかどうか。
「図書館の世界では、資料に関する専門家である司書が利用者の情報要求に対して専門的な立場からアドバイスを行うことを「レファレンスサービス」と呼んでいる。司書は、専門的な知識と図書館にある膨大な資料を駆使して、利用者から寄せられるさまざまな質問に答えている。」(66ページ)
デンマークにおいては、どんな小さな図書館でも、ごく当然のこととして、対応されているという。
そして、図書館が賑やかな場所であること。
冒頭は繰り返しになるが、引用する。
「デンマークの公共図書館は、もはや静かな場所ではない。図書館に入って最初に聞こえるのが人びとのざわめきである。公共図書館は、来館した利用者同士が自由におしゃべりするにぎやかな空間に変わりつつある。多くの図書館には「静寂コーナー」が設けられ、シールなどを貼って話をしてもよいほかの空間と区別している。言い換えれば、「静寂コーナー」以外のすべての場所では自由におしゃべりをしてもよいということである。ちなみに、ほとんどの公共図書館では飲食も許されているので、自分の持ち込んだ飲み物やランチを取りながら長居をする人もたくさんいる。」(60ページ)
そして、カフェ。
「デンマークの公共図書館は、カフェを設けているところが多い。コペンハーゲン中央図書館のカフェは入り口を入ってすぐ右側にあり、二〇名ぐらいが座れる広さとなっている。普通の椅子のほかにゆったりくつろげるソファが置いてある…(中略)…カフェは開館から閉館まで開いており、利用客が途絶えることはない。一人でコーヒーを楽しんでいる人もいればおしゃべりに夢中のカップルもいるし、グループ学習をしている若者や読書会を行っている人びともいる。飲み物の値段は普通のカフェの三分の二程度と安いにもかかわらず、注文をうけてその都度入れてくれるコーヒーやカプチーノは本格的な味でとてもおいしい。サンドイッチやデニッシュなどもあるので、軽食をとることも可能となっている。」(105ページ)
図書館は、地域の情報センターとして、実は、観光案内所でもありうる。
「中央図書館には、地図や催し物の案内、コンサート情報などコペンハーゲンに関する情報がなんでも揃っているので、旅の疲れを癒しながら行動計画を立てるのにはぴったりの場所である。」(105ページ)
というようなことで、これからの図書館づくりにたいへん参考になる本であった。
「図書館ってなんだか可能性がある場所なんだ」(254ページ おわりに)
吉田右子先生の、こういう元気になる、未来に希望が持てるようなお話を、今の気仙沼の地域の皆さんと共有できれば有難いな、と思いはじめているのだが、どうだろうか?
(ちなみに、この本は、気仙沼図書館から借りた本。読みたいという方は、予約してください。)
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