星月夜 都の小寺 桔梗咲き ほたるつどひて 宴を張りぬ
*これは、かのじょが生きていた頃、ほぼ唯一と言っていい友人のために、銀香炉が詠ったものです。この歌にはその人の名前が詠みこまれています。わかるひとはわかるでしょう。
星月夜とは星の明るい月夜のことだ。都に小さな寺があり、その庭に桔梗が咲いている。そこで蛍が集まって宴を張った。そのようにあなたは、あの人と一時をうれしく過ごしたのだ。
かのじょにとっては苦しい人生でした。美しいことを理由に、影から馬鹿にする人間は山ほどいたが、素直に愛してくれる人間はほとんどいなかった。いても、馬鹿どもの攻撃を恐れて、近寄ることすらできなかった。
その中で、ただ一人だけ、かのじょに近寄ってきて、素直な愛を表現してくれた人がいたのです。かのじょは生きていた時、その人が好きでした。やさしいことはなんでもしてあげていた。理由など探す必要はない。ただしてあげたいからするのだ。それでかのじょはその友達のために、きれいな童話を書いたり絵を描いたりしたのです。
ほんとうに、きれいな人ですから。素直に心を表して親しんでいきさえすれば、いくらでもそういうことをしてくれるのです。それなのに、人間というのは実際、素直ではない。
馬鹿にして、嫌なものにしてから、どうにかしようとする。きついものにして、くだらないものにして、自分で支配できるものにしてから、なんとかしようとする。それだけでやってきて、とうとう何もかもをだめにした。それでも彼らは、後悔することすらできないのだ。
その日とはそんなに力高い人ではありませんでした。平凡に少し花が咲いているかのような、普通の人だったのです。だけれどあの人だけが、かのじょを素直に見てくれた。きれいな人だと素直に思ってくれた。そして、友達になりたいと、思ってくれたのです。
それがうれしい。普通のことしかできない人でも、かのじょは一生懸命愛してくれる。とてもいい友情でした。
ゆえにわたしたちは、こういう歌を歌い、あの人のためにささげたのです。