甘き夢 人はうたてと いひつれど 無きは悲しき 白飴の月
*愛の甘い夢など、人は愚かだと言ったけれど、なければ悲しい、あの白飴の月。
かのじょは女性に等しいというほど美しい男でしたが、その顔にふさわしい心で、すべての人類を救いたいなどという甘い夢を描いていた。実にそれは甘い。人類の現実はたまらないほど厳しいのだ。でも、かのじょはその夢を捨てられなかった。
愛で人類を救うなど甘い夢だと、あなたがたは思ったでしょうが、しかし愛以外に人類を救うことはできない。物質計算だけでは、何も救うことはできないのです。
全部は無理かもしれないが、かのじょが生きていれば、できるだけたくさんの人を救おうとして、あらゆることをやってくれたろう。その結果、必ず、救われる人間の数は増えたに違いない。そういう人の存在価値を、まるごとばかにするから、愚かなことになるのです。
その人がいれば、できたであろうあらゆることがなくなってしまう。天使も、あの人がいれば動いてくれる人が動いてくれなくなる。たったひとりいなくなっただけで、空気が半分になったかと思うほど、世界は窒息しそうに苦しくなるのです。
愛を甘いなどというのは、あなたがたの悪によって愛がやすやすと滅ぼされていくのを、経験的に見てきたからだ。だが愛は滅びはしない。またよみがえってくる。愛で、悪に溺れる魂を助けたいと思う存在がいる限り、愛はよみがえってくる。そういう人がいなければ、この世界はあまりにもつらいことになってしまう。
しかし、悪にしびれている霊魂は、そんな愛の美しさがたまらなくいやで、それをとうとう一ミリの塵も残らないほど滅ぼしてしまった。そして何もなくなった。
一つの愛を消し尽くしたこの傷は、永遠に人類の霊魂に残っていくでしょう。そしてその喪失を補うために、あらゆることをしていかねばならない。
消失した存在の価値をすべて償うために、永遠に近い年月を、人類はやっていかねばならないのです。