長崎に住む姪からはがきが届いた。
その表情を映し出すことが出来れば、
スクリーンいっぱいの弾けるような笑顔が見られたことだろう。
そのはがきは、一人息子の成長と、彼が示してくれる親への心遣いを嬉しく思う、
隠しきれない母の情で溢れていた。
この姪と母親、つまり僕の2番目の姉が歩んだ道は、よく似ている。
決して平坦ではなかったと思う。
2人とも苦労を重ね、最後には自ら懸命に働きながら、
女手一つでただ1人の子を育て上げたのも同じである。
姪を喜ばせる一人息子、その彼は母の苦労に背くことなく、
有名国立大学から大手広告代理店に入社し、世界各地を飛び回るなど、
さまざまに活躍している。
35歳で独身の彼は、東京で暮らしており住居とする渋谷のビルは、
小さいながらも自分が建てたものだというから、なかなかのやり手だ。
その一人息子が、自分が生まれ育ち、母が暮らす郷里で
小さなビルを買い取り、起業したのだという。
はがきには、「息子は、東京、あるいは世界各地での仕事が多いので
そのまま東京暮らしですから、私が長崎の責任者として忙しく働いています」
と書いてあり、はがきには会社のビルの写真を添えてあった。
ビルの1階はカフェがある。
姉は10年ほど前に交通事故で亡くなったが、
姉もまた小さなカフェを営んでいた。
姪はこのビルの総支配人として、母と同じようにカフェも経営するのである。
還暦を過ぎた年になって、苦労して育て上げた一人息子からの
胸詰まるような贈り物に違いなく、感涙と震えはいかばかりであろうか。
容易に察せられる。
さらに、それは祖母である僕の姉に対しての気遣いなのかもしれない。
情の香りをこめた姪の一人息子の才覚に、僕の目にはもらい涙がにじみ出て、
その一滴が亡き姉のもとへと向かってゆく。