妻は朝の6時に出かけて行った。
写真同好会の仲間と阿蘇方面に行くのだという。
「大観峰にも寄ってみようと思うのだけど、天気はどうかしら」
予報はあまり良くない。「午前中曇り、午後から雨」となっている。
大観峰と言えば、やはり雲海の景観だろう。
だが、この天気予報では無理かもしれない。
そう言えば、ブログを始めたちょうど1年前、
阿蘇の雲海のことを書いていた。
お許しいただいて、再掲してみようと思う。
阿蘇方面の日の出は6時6分だった。
昨日は夕方から夜にかけパラパラと降り、
今日は晴天との予報だ。
雲海が誘いかける。
写真撮影を趣味にする妻はその雲海が目当てなのだ。
こちらはもっぱら〝アッシー君〟を務める。
それで前夜は道の駅で車中泊をして、待ち構えていたのである。
大観峰に着いたのは日の出少し前だったが、
阿蘇中岳を目の前に阿蘇谷はすでに薄明るい。
予想通り、阿蘇谷をすっぽり包み込むような雲海だった。
たくさんの写真愛好家が三脚を構え、これを狙っている。
それでも妻はここには満足できないらしい。
「場所を変えたい」と言い出す。
「今度はどちらへ」タクシーの運転手のように慇懃に、
それでいて少々くだけた口調で尋ねる。
「押戸石の丘へ。急いで。陽が昇ってしまう」との指示である。
212号線を小国方面へ急ぐ。
途中、左へ折れ細い山道を4㌔ほど、
対向車が来ないことを願いながら進む。
『押戸石の丘』は小高い丘に巨石が人工的に配置され、
それらの石には太陽神、豊穣の神、大地の男神・女神などが
シュメール文字で刻み込まれた
古代宗教色の強い環状列石遺構である。
360度ぐるりと見渡せば、北に九重連山、南に阿蘇五岳、
東は高千穂、西に菊池方面を遠望する。
自然の雄大さに言葉はない。
雲海は九住方面から阿蘇方面へ漂うように覆っている。
やがて、久住山と阿蘇山のちょうど真ん中、
遠く高千穂辺りの空が色づき始める。じっと待つ。
だが、朝陽は薄雲に阻まれ、淡いオレンジにピンクをすーっと
刷いたような色合いで、あの燃え立つような
光を放てないでいる。
「薄雲よ、少しの間そこをどいてくれたまえ、どうか」
――朝陽の輝きに映えぬ雲海が恨めし気に言う。
巨石の神々は時に意地悪だ。
妻はどうやら撮影を終えた。さあ、さあ朝食としよう。
車にはガスコンロ、湯沸用の鍋、それに水……
一通り揃っている。
コーヒーを沸かす。ベンチはあるが座らない。
立ったまま、この悠然たる大自然を眺めながら
コーヒーを飲み、パンをかじる。
「生きている!」――神々はこの贅沢を許す。
僕はガラケーかタブレットでしか写真は撮っていないのですが、これはタブレットで撮ったものです。被写体が良かったと言うしかありませんね。今後もよろしくお願いします。