ベランダ越しの庭に葉を茂らせた木が立っている。
5時半。外はもう十分に明るい。
ガラス戸を開けると、早朝のひんやりした空気と一緒に
「ミーン ミーン」「ジー ジー」
けたたましいセミの鳴き声が襲ってきた。
「早く目を覚ませ」とばかりに。
「そうだ 今ならまだ暑くはないだろう」
急いでウオーキングの身支度をする。
念のため、アイスノンをタオルにくるみ首筋に巻き付けた。
いつものように近くの川べりである。
そして、いつものようにある家の横を通りかかると、
やはり「ワン、ワン」と2度吠えられた。
「ピー、ピー」短く口笛を返すと、
今度は「ウオーン、ウオーン」と遠吠えの親しみ返しである。
足取りを軽くする。
文字通り、川の流れは堰き止められていた。
堰から流れ落ちる「ゴーゴー」という激しい音は今日はない。
側のアオサギのたたずまいは変わらず静かである。
代わって。近くの空港を飛び立ち、一目散に上昇を続ける
飛行機の轟音が川面に跳ね返る。
カラスが7、8羽ほど電線になにやらメロディーを書き、
「カー、カー」と対岸の仲間に歌いかけている。
これに、近くにたむろする鳩たちが「ホー、ホー」と合わせる。
後ろから「サッ サッ」という足音が迫ってきて、
あっという間に追い抜いて行った。
若い男性が「ポタポタ」と流れ落ちる汗をぬぐいながら、
それでもたくましい足取りでジョギングしている。
追いすがる気はさらさら起きない。
家に戻れば、変わらず部屋中にあふれる
セミの鳴き声にテレビの音声が交錯する。
テレビも新聞も安倍元総理の不慮の死を報じ続けている。
「RIP」──孫娘は自身のSNSで、
元総理の死去をこの3文字で悼んだ。
流れるメロディーはレクエイム……。
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