Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

13番待合所

2023年05月12日 06時00分00秒 | エッセイ


「いい加減にしないか!」そう自らをののしりつつ、今日もやって来た。
来ざるを得なかった。
目的の場所には案内板を見なくとも行ける。
何せ、この8年間で前立腺がんに始まり、
たびたびの膀胱がんなどで9度も入院し、
この1年ほどは毎月通い詰めている「勝手知った」病院なのだ。
13番待合所はどこにあり、どう行けばよいか、
足の動くまま任せればよい。
そこ13番待合所は今日も混み合っていた。

         


国立病院機構の医療センターには、22もの外来診療科がある。
案内板にはそれぞれの診療科に番号がふってあり
「13」というのは泌尿器科の外来受付である。
泌尿器科の待合所とあってか、他の診療科に比べて高齢男性が多い。
1人ポツンと物思いげに座っている人もいれば、
奥さんや娘さんが付き添っている人もいる。
息子さんらしい人が付き添っている人は稀であり、
「年を取れば妻や娘の世話になることが多いのだな」と心中思い知らされる。

診療までに随分と時間がかかるのは常だ。
この科には4人の医師がいるが、
4人が同程度数の患者を診ているかと言えば、そうではない。
なぜか1人の医師に多く偏っているのだ。
僕の担当医師がそうで、40半ば、まさに中堅の働き盛りとあって
多くの患者を担当させられているのではないかと思う。
「大変だね。昼食を取る暇もないでしょう」などと労ったりもするのだが、
「まあ適当に」と笑うばかり。
そんな風で、この医師にはいつも
「混雑中」「予約1時間遅れ」といった表示が灯る。

こんな状況だから、どうやって時間をつぶすか大変だ。
話し相手となる付き添いがいればまだしも、
1人で来院してきた人はもっぱら辛抱強さ、我慢強さが頼りだ。
自分の体が不調なのは誰もが分かっている。だからここに来ているわけで、
それがどんな病気なのか少しでも早く知りたいのである。
その時を1人でじっと耐えながら待つ、やり切れないような時間であり、
スマホをいじっている人が多いのは、
多少なり気を紛らわそうとしているのだろう。
それでも耐えかねて受付の女性、あるいは看護師さんに
「あとどれくらい待てばいいの?」などと詰め寄ったりする。
彼女たちはその対応をちゃんと心得ており、
「あとこれくらいでしょう」などと決め付けたような言い方は決してしない。
そうならないケースが多く、
それだと余計に患者を苛立たせてしまうからだ。
だから、「お待たせしてすみませんね。
何せ、患者さんをたくさんお持ちの先生なものだから。
急いでいただくよう電話を入れておきますから、もうしばらくお待ちください」
とやんわりなだめるのである。
もちろん電話はポーズだ。
本当にそうすると、今度は医師を苛立たせてしまう。

        

この日の僕は、9時半にまず正面玄関に入ってすぐの
再来受付機で受け付けを済ませ、
そのまま採血・注射・処置センターで採尿してから13窓口へと回った。
それから検査に呼ばれたのが11時20分だったから、
来院してからおよそ1時間50分待ったことになる。
この検査にかかった時間が約30分。
その検査結果を待ち、診察に呼ばれたのはさらに30分後だった。
格別の異常はなく、来月の予約日時を決め、
これでこの日の検査・診察を終えたのである。
会計を済ませ病院を出たのは1時半だったから4時間ほど病院にいたわけだ。
これに往復の所要時間を加えると、6時間程度を要したことになる。

平常はこのようなことだが、手術のための術前検査となればさらに時間がかかる。
レントゲンやCT、場合によってはMRI撮影が入り、
ほかに心電図も取ったりする。
少しでも不整脈が出ようものなら今度は循環器科へ回されるのだ。
それぞれに待ち時間があるので、
すべて終えるのに半日は覚悟しなければならない。
2015年からこれらを幾度となく経験している。
とあって、耐えるすべも身についてきた。
本を読んだり、スマホをいじったり、たまには病院内を
あちこち歩き回ったりして何とか凌ぐことができるようになっている。

幸い、この2年ほどはがんの再発は免れているが、
それでも検査のため月1度は通院しなければならない。
顔見知りとなった看護師さんもたくさんいる。
幾分気も楽になっているが、それでも通院するたびに
「いい加減にしないか!」と叫びたくなる。半ばむなしく。



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