沈む船から一線を画そうというのか、「独自のマニフェスト」を謳う候補が多いのだそうです。しかし、“それ”が本当に「独自」であるためには、「議員立法をします」とか「党議拘束には従いません」とかを入れておかないと、ただの言いっぱなしになってしまいません?
【ただいま読書中】
『地球でいちばん過酷な地を行く ──人類に生存限界点はない!』ニック・ミドルトン 著、 桑原透 訳、 阪急コミュニケーションズ、2004年、2200円(税別)
著者は地理学者で、フィールドワークで60ヶ国を訪れ旅行記を書いてきました。そこでふとした着想が。「イギリス人が心底から弱音を吐くのにぴったりの街はどんな感じ?」 著者は4つの街を選択します。
まずは「世界で最も寒い街」オイミャコン(シベリア)。著者がこの街に出発する1週間前、オイミャコンは摂氏マイナス53度を記録しました。住民が低温に慣れているはずのこの街で、2週間に200人の凍死者が出ています。しかし著者を迎える「洗礼」が、摂氏マイナス38度で川の氷(厚さ1メートル)に大きな穴を開けて水に飛び込むこと(それが「健康に良い」のだそうです)とは……
著者はオイミャコンでホームステイをしますが、そこでの食生活は、馬肉と乳製品とほんの少しの野菜(タマネギとニンニク)です。便所は屋外の小屋で、温度はマイナス52度。そしてその帰途、著者は自分の吐いた息の水蒸気が即座に凍りつく音を聞きます。現地のヤクート人はそれを「星のささやき」と呼ぶそうです。
二番目は「世界で最も乾燥している街」アリカ(チリ)。アンデス山脈の西側、標高3000メートルに位置するアタカマ砂漠は、冷たいフンボルト海流とアンデス山脈によって、からからに乾燥しています。年間降水量は平均で0.8ミリ。ところがやっとたどりついたアリカで著者は「もっと乾燥した街がある」と聞いてしまいます。もう行くしかありません。その結果著者はギネスブックを書き換える発見をしてしまいます。
三番目は「世界で最も暑い街」ダロル(エチオピア)。読んでいるだけで汗ばみそうです。ただ、著者は暑さには強いらしく、気候のことよりもそこに住むアファール族について熱心に記述しています。
四番目は「世界で最も雨の多い街」マウシンラム(インド)。ここでは年間降水量はミリではなくてメートルで表現できます。「11~12メートル」と。著者の郷里オックスフォードでは年間降雨量が642mm、対してモンスーン期のマウシンラムでは1日で500mmは降るのです。バケツをひっくり返したような土砂降りの雨の中、著者の悩みは、ホームステイしている家の屋根がトタン屋根であることです。ちなみに、マウシンラムの近くの街チェラプンジには24時間の最高雨量(1563mm)と1時間の最高雨量(420mm)の世界記録を持っています。ただしチェラプンジで著者が泊まった家は竹の家に草の屋根で、雨音はずいぶんやわらげられていました。
著者の旅にはいくつかの共通点があります。まず「遠く→近く」。目的地に直接乗り込むのではなくて、その周囲から目的地に近づく過程を詳細に著者は描きます。そうすることで、著者の体が過酷な環境に少しずつ慣れるだけではなくて、読者もその過酷さに少しずつ心の準備ができていきます。また「その地の歴史」についても詳しく描かれます。過酷な気象条件には地理的な理由があります。そしてそこには独特の生態系が成立しています。人が来るのはその「後」です。著者はその「人が来る前の歴史」と「人が来た後の歴史」両方を描こうとします。ところが、あまりに過酷な環境の中で全然力まずに「自然」に生きている人々の姿に著者は戸惑います。「もっと住みやすいところに行こうと思わないの?」「どうして? ここは良いところだよ」といった感じの会話が繰り返されて、笑えます。さらに笑えるのは、著者が現地で行なわれている「ゲーム」に参加すること。言葉は通じなくてもルールが理解できなくても、著者は走り投げ泳ぎます。そうすることで、その土地への理解が深まると読者に訴えるかのように。
【ただいま読書中】
『地球でいちばん過酷な地を行く ──人類に生存限界点はない!』ニック・ミドルトン 著、 桑原透 訳、 阪急コミュニケーションズ、2004年、2200円(税別)
著者は地理学者で、フィールドワークで60ヶ国を訪れ旅行記を書いてきました。そこでふとした着想が。「イギリス人が心底から弱音を吐くのにぴったりの街はどんな感じ?」 著者は4つの街を選択します。
まずは「世界で最も寒い街」オイミャコン(シベリア)。著者がこの街に出発する1週間前、オイミャコンは摂氏マイナス53度を記録しました。住民が低温に慣れているはずのこの街で、2週間に200人の凍死者が出ています。しかし著者を迎える「洗礼」が、摂氏マイナス38度で川の氷(厚さ1メートル)に大きな穴を開けて水に飛び込むこと(それが「健康に良い」のだそうです)とは……
著者はオイミャコンでホームステイをしますが、そこでの食生活は、馬肉と乳製品とほんの少しの野菜(タマネギとニンニク)です。便所は屋外の小屋で、温度はマイナス52度。そしてその帰途、著者は自分の吐いた息の水蒸気が即座に凍りつく音を聞きます。現地のヤクート人はそれを「星のささやき」と呼ぶそうです。
二番目は「世界で最も乾燥している街」アリカ(チリ)。アンデス山脈の西側、標高3000メートルに位置するアタカマ砂漠は、冷たいフンボルト海流とアンデス山脈によって、からからに乾燥しています。年間降水量は平均で0.8ミリ。ところがやっとたどりついたアリカで著者は「もっと乾燥した街がある」と聞いてしまいます。もう行くしかありません。その結果著者はギネスブックを書き換える発見をしてしまいます。
三番目は「世界で最も暑い街」ダロル(エチオピア)。読んでいるだけで汗ばみそうです。ただ、著者は暑さには強いらしく、気候のことよりもそこに住むアファール族について熱心に記述しています。
四番目は「世界で最も雨の多い街」マウシンラム(インド)。ここでは年間降水量はミリではなくてメートルで表現できます。「11~12メートル」と。著者の郷里オックスフォードでは年間降雨量が642mm、対してモンスーン期のマウシンラムでは1日で500mmは降るのです。バケツをひっくり返したような土砂降りの雨の中、著者の悩みは、ホームステイしている家の屋根がトタン屋根であることです。ちなみに、マウシンラムの近くの街チェラプンジには24時間の最高雨量(1563mm)と1時間の最高雨量(420mm)の世界記録を持っています。ただしチェラプンジで著者が泊まった家は竹の家に草の屋根で、雨音はずいぶんやわらげられていました。
著者の旅にはいくつかの共通点があります。まず「遠く→近く」。目的地に直接乗り込むのではなくて、その周囲から目的地に近づく過程を詳細に著者は描きます。そうすることで、著者の体が過酷な環境に少しずつ慣れるだけではなくて、読者もその過酷さに少しずつ心の準備ができていきます。また「その地の歴史」についても詳しく描かれます。過酷な気象条件には地理的な理由があります。そしてそこには独特の生態系が成立しています。人が来るのはその「後」です。著者はその「人が来る前の歴史」と「人が来た後の歴史」両方を描こうとします。ところが、あまりに過酷な環境の中で全然力まずに「自然」に生きている人々の姿に著者は戸惑います。「もっと住みやすいところに行こうと思わないの?」「どうして? ここは良いところだよ」といった感じの会話が繰り返されて、笑えます。さらに笑えるのは、著者が現地で行なわれている「ゲーム」に参加すること。言葉は通じなくてもルールが理解できなくても、著者は走り投げ泳ぎます。そうすることで、その土地への理解が深まると読者に訴えるかのように。