【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

地団駄

2011-01-14 17:52:39 | Weblog
民主党大会の後のインタビューで、小沢チルドレンらしい若手の国会議員が口角泡を飛ばして「自分たちに発言させないとはけしからん」と盛んに民主党執行部への不満を言っていました。
私がその姿をテレビ画面で見て連想したのは、昔のデパートで「いやだいやだ、おもちゃを買ってくれなきゃいやだ」と地団駄を踏んでいる子供の姿です。
自分の感情の発露も大切でしょうし、ニュースで流れることで党の上層部に何らかの影響が出ることも狙っているのでしょうが、いやしくも国会議員は公人なのですから、自分の言動が全国どころか全世界に流れていることも計算に入れてカメラに写る必要があるんじゃないですかねえ。少なくとも私は民主党に対してネガティブな印象を持ちましたよ。

【ただいま読書中】『ブラック・ボックス ──航空機事故はなぜ起きるのか』ニコラス・フェイス 著、 小路浩史 訳、 原書房、1998年、1800円(税別)

英国と米国の戦後の旅客機事故の主原因を分析し関連づけ包括的枠組みを作ろう、というとんでもない狙いで編まれた本です。だから本書の中心に位置するのは、航空事故調査官です。
ベテラン調査官の論文からの引用「原因はただ一つなどというのは、マスコミのでっちあげである。しかし、正されるべきは怠惰な大衆の方である。みんなこみいった説明を聞くのを嫌うのだ」で本書は始まります。
現在航空機には、(オレンジ色に塗られた)「ブラック・ボックス」が二つ搭載されています。一つは「フライトデータ・レコーダー(FDR)」、もう一つは「コクピット・ボイスレコーダー(CVR)」。どちらも最近はデジタル化されてデータ量が豊富になってきているそうです。事故の時調査官がまず探すのがこのブラック・ボックス。そして現場で得られる情報ももちろん重要です。現場で破片をひっくり返して調査する姿から、調査官には「ブリキ蹴り屋」というあだ名がつけられているそうです。
1974年3月3日(日)パリ北東48kmエルムノンヴィルの森にトルコ航空のDC10が墜落しました。これは、設計ミス・整備不良・政治的圧力・事故防止をするべき政府当局がきちんと仕事をしていなかった、ということから引きおこされた「大量殺戮」でした。(ちなみに、このときの機体は、日本が購入をキャンセルしたものだったそうです。つまりもしかしたらこの事故は日本で起きていたかもしれなかったわけ) 早くからDC10の危険性を警告していた人は、歯噛みします。しかしこの墜落事故によって調査機関に「流血の特権」が与えられ、規制が強化され安全性が高まりました。しかし逆に言えば、人が死ななければ安全性が高まらない傾向があるのです。「事故が起きて初めてガードレールが設置される」のは、日本のことだけではなかったんですね。
本書のはじめに、ブラックボックスがデジタル化されてきていることが書かれていますが、航空機そのものもデジタル化されてきています。その代表(先駆者)がエアバス。乗員の操作に逆らうコンピューター、突然のモード変更(しかもそれが乗員にわかるのは、多くは手遅れになってから)、不慣れな乗務員、フランス国家の態度(とても熱心に原因追究をするが、重大な問題は同じくらい熱心にその存在そのものを否定する)……インシデントや事故が続き、そして94年の名古屋空港に話がなだれ込みます。エアバス社は自動操縦装置の変更やマニュアルの改訂を続けますが、事故はさらに続きます。もっとも、冷静な人から見たらこれは「エアバスの問題」ではなくて「人間の感覚と乖離した自動操縦装置の問題」であるそうです。
気象も重要です。着氷、火山灰、乱気流、砂嵐、雷雨……さまざまものが空(あるいは地上)で飛行機を落とそうと待ちかまえています。それらと戦うパイロットの超人的な技倆には感心するしかありません。と思ったら、あまりに情けないパイロットも登場します。なんというか、パイロットも人の子、様々なんですねえ。
「システムとしての安全」がけっこう新しい概念であることに、驚きました。パイロットの疲労を考えて常務時間制限が課せられるようになったのは、アメリカでは1953年・イギリスでは1954年からです。それまで「パイロットは疲労しない」と思われていたわけ。インシデントの秘密報告制度ができたのは1977年。事故があって人が死ぬたびに制度は少しずつ改善されてきたわけです。だけど、おそらく、これからも事故はあり、そしてまた制度は変わっていくことでしょう。人はミスをし、機械は壊れるものなのですから。