【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

墓参り

2011-05-05 19:05:16 | Weblog

 久しぶりにお墓参りをして、ちょっとぶらぶらしてみたら、ずいぶん古めかしい墓石がたくさん集められているところに出くわしました。明治や大正の日付がずらずら並んでいて、さらに奥には安政とか宝永なんてのも。へーっと感心していたら、立派な石塔に「○○院三百年忌記念石塔」と刻んであるのに出くわしました。300年? 百年忌でさえなかなか難しいのに、誰がその人のことを覚えていて法要をしようと思ったんでしょうねえ。そういえばこの前読んだ『菊と刀』には「日本人は、近しい“先祖”には親しみを持つが、会ったこともない古い先祖には急に冷たくなる」とありましたっけ。この石塔の場合、きっとご先祖も子孫たちも、立派な人たちなんでしょうね。

【ただいま読書中】『月は無慈悲な夜の女王』ロバート・A・ハインライン 著、 矢野徹 訳、 早川書房(ハヤカワ文庫SF207)、1976年(85年9刷)、720円

 月植民地は流刑地として発展しました。脱走はほぼ不可能。監視をする必要もありません。さらに、長い時間をそこで過ごした徒刑囚は低重力に適応してしまうためもしも脱走に成功しても地球で過ごすことが不可能な身体になってしまっているのです。ただしここで連想するべきは流刑地としてのオーストラリアではありません。アメリカの方です。経済的に搾取され続けたことに抵抗したアメリカ独立(革命)の方。ただここでは「歴史は繰り返」しません。単純な武力革命ではなくて、著者は人びとに“別のやり方”を選択させます。
 月には、地球にも存在しない人格を備えたコンピューターがありました。名前はマイク。これが“キー”です。それと舞台が「月」である、という特殊性(というか、物語の舞台が地球上だったら最初からこの物語は成立しなかったでしょう)。
 月の人口は300万。その生命と経済の首根っこは行政府に押さえられています。武力も行政府の独占です。月世界人の多くは「支配されること」に慣れていて、不満は持っていても団結して戦う力はありません。物語の語り手マヌエルは、月ではトップの電子技術者でしかも“本物の思考力”を持っているため、それらの問題を見通すことができます。革命については知りませんが、プログラミングの技法でそれについて語ることはできます。そして……革命のための細胞組織のトップに祭り上げられてしまいます。マヌエルは革命を現実の問題として捉えていますが、他の二人は革命を科学あるいは芸術として捉えています。ここまでばらばらのトリオで一体話が進むのか、と思っていると……強力な援軍がいました。マヌエルの「友」マイクです。そして、マイクにとって革命はゲームでした。
 厳選されたメンバーによる革命計画の進行、何も知らない多数の月世界人の中に革命気分を醸成しつつ暴発は予防する、地球にも革命を支持する勢力を育てる……マヌエルたちがするべきことは山ほどあります。そこに突発事が。本来タイミングを慎重に合わせての無血クーデターにしたかったのですが、「タイミング」の方が向こうから勝手にやってきます。流血沙汰があり、それでも月から地球にジェファーソンのものを下敷きとした「独立宣言」が発せられます。
 本書で扱われるのは、理想的な革命、理想的な無政府主義、風変わりな結婚制度(一夫一婦制度の信奉者は本書を読んだら血圧が上がるかもしれません)、風変わりなフェミニズム(戦闘的なフェミニストは本書を読んだら暴れたくなるかもしれません)……まあ「ハインライン」ですからね、大体期待通りのことが起きてくれます。
 「真珠湾戦略」で、まずは地球に「先手」を取らせたいと月の側は願います。地球側はそれに乗ってしまい、2000人の完全武装兵を非武装の月植民地に送り込みました。しかし、6000人以上の犠牲を出したものの、月はその軍隊を撃退、というか、全滅させてしまいます。さて、こんどは月のターンです。どのような“攻撃”をし、それでいかに(軍事的にではなくて)独立を勝ち取るという「政治的勝利」を得るか、それがマイクたちの課題です。

 音声応答の人工知性コンピューターがとりあえず使える空のメモリーバンクの容量が100Mビット(!)だったりするところに、もちろん「時代」は感じられます。だけどそれは小さいこと。逆に「穀物を輸出することは、『水』をも輸出することになる」といった時代に先駆けた指摘もあります。そうそう、電話網を駆使しての情報交換はインターネットの予言かな。