【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

女性のライフスタイル

2013-08-22 06:32:21 | Weblog

 「専業主婦が理想」とか「共働きであるべき」とかいう意見が戦わされているのを見ると、私は不思議な気分になります。他人がどのようなライフスタイルであるか、が、どうしてそんなに気になるんだろう、と。気になるだけならともかく、どうして他人の生き方を“操作”しようとするんだろう、と。

【ただいま読書中】『路地裏の大英帝国 ──イギリス都市生活史』角山榮・川北稔 編、平凡社、1982年、1700円

 「サラリーマンの奥さんが夕食をこしらえて子供と夫の帰りを待っている」家庭像は、産業革命で生まれました。そもそも「通勤」が、産業革命と都市の膨張によって生まれたものです。農村での大家族制度は都市部での核家族へ変化しました。ただし、貧困層の「家族」は、生活に追われてばらばらになりがちでした。だからこそヴィクトリア中期には「家族とは何か」というテーマの追究が行われるようになります。
 西洋料理には「主食」の概念はない、あるとしたら「肉」だ、という言い方がありますが、ヴィクトリア朝でそれが言えるのは上流階級の食事だけでした。貧しい労働者の「主食」は「パン(それも褐色のもの)」でした。最下層のアイルランド人は「馬鈴薯」です。さらに「白いパン」が普及し、「白いパンと一杯の紅茶」が貧困者の「食事」となります。栄養、大丈夫だったのでしょうか? そうそう「紅茶」にも注目。17世紀には紅茶は贅沢品でしたが、19世紀後半には貧乏人でも手が届くものになっていたのです。
 食料などは市で購入しますが、人口が増えて住宅地が市場(町の中心)から遠ざかると、食品の行商人が増えます。つまり行商人は都市に必須の存在だったのです(田舎は自給自足です)。私は、やはり行商人が多数動いていた江戸のことを思います。国は違っても、似たことが起きるのだな、と。
 本書には、エンゲルスの著作からの引用が多く散りばめられています。彼の主張は主張として、その著作に描かれる都市住民の「生活の実態」は、なかなか迫力があります。熟練のルポルタージュ作家みたい。私はエンゲルスは未読ですが、ちょっと食指が動きかけています。
 ヴィクトリア時代にイギリスの人口は増加しましたが、その主因は死亡率の低下(特に伝染病死亡者の減少)でした。種痘が行われることで天然痘の死者が減りましたが、その他の伝染病が減少した理由がよくわかりません。もしかしたら、病原菌の毒素が弱まった、あるいは人間の抵抗力が増した、せいかもしれません。
 「社会福祉」も少しずつ進歩します。ただ、埋葬給付金目当ての幼児殺しが出現するのには、参ってしまいますが。どんな時代のどんな制度にも「光と影」が存在するようです。
 都市でのレジャーやレクリエーション、地方のリゾート、パブでの飲酒など「今のイギリス社会」の基礎がヴィクトリア時代にできています。20世紀がすでにしっかり見えています。