【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

祈りとしての応援

2016-01-04 06:48:13 | Weblog

 正月三が日は、テレビで駅伝応援三昧でした。元日は社会人のニューイヤー駅伝、二日と三日は箱根駅伝。
 私は学生時代に応援団の態度の大きさに辟易して「頑張れ」という言葉が嫌いになりました。戦いのフィールドで全力を尽くして頑張っている人間に対して、安全地帯でその競技で頑張っていない人間が「頑張れ」と大声を張り上げ続け、そして成績が振るわなかったら「こんなに応援したのに、お前のこのざまは何だ」と威張り散らしているのを見てのことです。だけど、頑張っている人は、関係ない他人が「頑張れ」を押しつけなくても頑張っています。そこに「頑張れ」を押しつける態度が嫌い、と私は刷り込まれました。
 ただ、駅伝で苦しさに押しつぶされそうになってもがく選手を見ていて、彼らに対して私が何もできない無力感を感じたとき、つぶやくように小さく祈るように「頑張れ」と言えることを発見しました。祈りは、押しつけではないですよね。

【ただいま読書中】『よい戦争』スタッズ・ターケル 著、 中山容 他 訳、 晶文社、1985年、3200円

 戦争についての思い出を、ごく普通の人たちにインタビューして語ってもらった内容を、話し言葉のまま大量に収載した本です。著者は時々短い質問をはさむくらいで、ほとんど自分の主張を入れてはいません。私は親から戦争の思い出は聞いていますが、それは貴重な記憶だと思っています。だからこういった「他人の思い出」もそれだけで貴重な記録に思えます。
 登場するのは、アメリカ人だけではなくて、日本人やドイツ人、ソ連人も含まれています。そうそう、私から見たらアメリカ人ですが、アメリカではそうは扱われなかった日系二世もいます。当時は黒人もユダヤ人も「正しいアメリカ人」ではなかったから、仕方ないのかもしれませんが、そういった差別社会がどのようなものだったかも思い出のことばの端々からよくわかります。
 読んでいてわかるのは、「戦争前」と「戦争後」で「世界」が大きく変わってしまったことです。それまでの価値観が揺らぎ、子供は大人に口答えするようになります。戦争を実際に体験した人は、個人の人生が大きく変容してしまいますが、そういった個人の集まりである社会が変化するのは、当然のことだったのでしょう。
 「戦争」について何も知らず、想像だけでものを言う前に、せめて“目撃者”の証言をいくつか知っておくのは、無駄なことではないでしょう。特に本書のように“敵”も“味方”も含まれている本は、貴重な存在だと私は感じます。特に、これから戦争をしたいと願う人たちには、一読の価値があるはずです。