【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

食わせてもらう

2018-01-25 07:01:31 | Weblog

 私は食糧生産ができないので、誰か食糧を生産している人に食わせてもらわなければ生きていけません。そのための手段として私は「人の役に立つ存在であること」を選択しました。「私は役に立つから、生かしておいたら皆さんにお得ですよ。だから食わせてちょうだい」という戦略です。ただこの戦略の弱点は「役に立たなくなったら、捨てられる可能性がある」ことです。
 「愛される」戦略もあるでしょうが、その逆の戦略を選択する人もいます。たとえば「有害であること」。死刑になるほどではないが社会に有害だと、刑務所に収監されてそこで「食わせてもらう」ことが可能になります。この戦略の弱点は「人気がなくなる」「ろくに食わせてもらえない」「社会が本当に厳しくなると微罪でも死刑になる」可能性があることです。
 そういえば、自分で何の生産もしないで贅沢をしている大金持ちって、どんな戦略で食わせてもらっているのでしょう。収奪?

【ただいま読書中】『殺人の人類史(上)』コリン・ウィルソン+デイモン・ウィルソン 著、 和田和也 訳、 青土社、2016年、3200円(税別)

 「暴力」は人間性そのものに根ざしている強い可能性があります。しかし、この数百年で、世界中で殺人事件は激減しています(たとえばイングランドでは、800年前と比較すると市民による殺人は110分の1になっています)。では私たちは「殺人の終わり」を目撃しているのでしょうか?
 ヒト(の祖先)がチンパンジーやボノボ(の祖先)から分岐したのは、ミトコンドリアDNAの解析から300万〜500万年前とわかりました。その「分岐後」に起きた「何か」によって、私たちが「生まれながらの殺し屋」なのかあるいは「それとは違う何者か」なのかが決定されているはずです。
 進化論も社会の一部ですから、白人優位主義や男根中心主義で動いていました(何しろ、白人男性だけでこのサークルは始まっていますので)。それに対する異議申し立てがいろいろありましたが、本書で特に注目されるのは「水棲類人猿説」です。名前を聞いただけでくすくす笑いたくなりますが(そして著者もそういった反応があることは否定しませんが)、著者は(そしてこの説の提唱者)は大まじめです。初期のヒトは渚で水につかって生活する時間が長く、そのため容易に直立できるように体が進化した(ついでに、皮下脂肪が陸上の動物よりは鯨のものに似てしまい、毛皮を失い、水中出産が可能になった)というのです。で、雌は陸棲の捕食者から逃れて水中生活をする時間が長いので皮下脂肪が厚くなり、雄は狩りや捕食者と戦う時間が長いから皮下脂肪は雌よりは薄くなるように進化した、というのです。なかなか面白い説だと私には思えます。ということは、ヒトは鯨になり損ねた生物、ということなのかな?
 宗教の名の下に殺されたり拷問されたり暴力を振るわれた人は非常に多数に及びます。その宗教の“外"では「異教に対する聖戦」、“内"では「生贄」「異端の迫害」「魔女狩り」「名誉殺人(の宗教による正当化)」などなど。
 人肉食いもまた宗教の名で行われた場合もありますが、宗教によらない場合には「人の肉を食う」だけではなくて「自分の人生の満足のために他人の人生を暴力や権力によって犠牲にする」行為もまた「人肉食い」と共通の基盤で行われる、と著者は考えています。こちらは、シリアルキラーがわかりやすいのですが、政治や経済の分野でもそういった「人肉食い」は横行していますね。
 奴隷制度もまた「不必要な暴力」の一つとして分類されています。近代的な強制収容所(と強制労働)もまた「奴隷」ですが、現在のUSAの「民営化された刑務所での強制労働」や「制度化された人種差別」もまた「大規模産業奴隷制」に著者は分類しています(囚人や被差別民の“待遇"は奴隷とほとんど同じ、という指摘があります)。
 「内戦」で、「革命」は反乱側の勝利、「反乱」は体制側の勝利、ということになりそうです。ではその「内」とは? また「優秀な兵士」は「洗脳」によって生まれます。ではその方法は?