演出家が同じで上演時期も近く、その上トップコンビ退団公演ということで、どうしても比べてしまいます。
雪組の「fff」と月組の「桜嵐記」。
「桜嵐記」はひたすら美しい舞台で、ラストが“一目千本”とも称される満開の吉野の桜の中行われる出陣式なのが、
余計にその印象を強くしているんだろうなと思います。
その美しい舞台を観ながら、くーみん(上田久美子)は何故たまきち(珠城りょう)にこの作品を宛てたんだろうと考えてました。
くーみんはもっと作家性が強い演出家だと思ってたんですよね。
自分のやりたいことを優先する演出家。
でも「fff」と「桜嵐記」、それに過去の作品を思い返してみると、違うんじゃないかと思えてきました。
宝塚の座付き作者がまず一番に優先すべきなのは、各組トップスター様がカッコイイ、あるいは輝いている作品を作ること。
そして路線スターはじめ沢山の組子を上手く使うこと、だと思います。
そこは昔も今も変わってない。低予算ならなお良し、でしょうか
なので作品の出来が二の次になることもしばしばありました最近は、若干変わってきてるかもですが
それでもファンやトップの想いをよそに、自分のやりたいことを優先しているようにみえる演出家はいますね。
また、そういう人種でなければ演出家なんて職業は出来ないのかもしれません
くーみんもどちらかというと、そっちかなと思ってたんですよ。
例えば、まーくん(朝夏まなと)の退団公演「神々の土地」で、トップ娘役不在の中、
実質ヒロインだった、うらら様(伶美うらら)に一切歌わせなかったということがありました
当時は、くーみんキッツイなぁと言われたものです。
うらら様は美貌の娘役でしたけど、娘役に必要なファルセットが壊滅的に出せなかったんですよね
なので自分の作品の出来を考えて、うらら様に歌わせなかったのではないか、と。
でも後で聞いたところによると辞めようかと悩んでいた頃に、うらら様に「辞めないでね」と言伝して引き留めたそうで
「美しいものには価値があるわ」というのがポリシーなのかなお芝居は出来る人でしたし
今から思えば、最後の公演だからこそその人に合った役を、そして出来ないことを無理にやらせなくていい、と考えていたのかも。
それで「fff」と「桜嵐記」です。
「fff」は雪組だいきほ(望海風斗、真彩希帆)退団公演で、主人公は昨年丁度生誕250周年だった楽聖ベートーヴェン。
丁度節目の年で、世間的にもイベントがあったり何かと話題になりやすい。
宝塚としてはこういう話題に乗っかるのが基本ですし、その上宝塚史に残る歌ウマトップコンビのサヨナラ公演ということで、
だいもんにこの役を宛てたんだろうな、と思います。
くーみんはベートーヴェンが大好きで思い入れもあったようなので、“渡りに船”だったかも
作品は予想とは違う描き方だったので驚きましたし戸惑いましたが、だいきほ歌いまくりで
ベートーヴェンの音楽が劇場中に溢れ返る、素敵な作品になりました。
だいもんと言えば一番は「歌」ですが、実はお芝居も凄く上手くて、いつも的確に演じていました。
喜怒哀楽が激しく、偏屈で面倒くさいベートーヴェンの内面の遍歴を、ラストに向かって演じ上げ歌い上げる熱量が素晴らしかったです。
「桜嵐記」の方は初見の感想にも書きましたけど、歌舞伎のような大芝居。
ちょっと手を入れればそのまま歌舞伎座でも上演出来そうな作品です。
効果音や音楽の入れ方も歌舞伎っぽかったですし、構成とか演出もかなり取り入れてるんじゃないでしょうか。
まず第一に四条畷の戦いの季節は春じゃないですし登場人物とか事件とかをそのまま史実通りに描くのではなく、再構成する。
歌舞伎に限らず演劇ってそういうものですよね。ドキュメンタリーじゃないんですから
もしかしたら満開の桜の中、出立していく正行の画が最初にあったのかも。
たまきちは喜怒哀楽の激しい役やコメディはそんなに得意な方ではないので、こういう作品にしたのかな、という気がします。
激しい感情を表現するのではなく、静かに耐える抑えた演技、というのも歌舞伎には多いですよね。
男役として恵まれた体格で日本物が似合う。ドンと真ん中にいてくれれば画になるというのも得難い資質です。
「fff」も「桜嵐記」も沢山の組子を上手く使ってました。
そんなに大きい役でなくても目立つ場面があるように、そしてその生徒の長所や持ち味をちゃんと活かしているのが素晴らしいです。
特に退団者に優しくて、まさに座付き作者の鑑だなと思いました
どちらの公演も素晴らしい出来で、劇団の評価も高いのでは、と思われます
次は何を仕掛けてくるでしょうね。作品が立て込んでたので少しお休みでしょうか。
それとも劇団からご褒美で、何をどうやっても好きにしていいよ、な作品をやらせて貰えるでしょうか
ショーなのかお芝居なのか、次回作がどの組に回ってくるか楽しみです
でもあんまり仕事しすぎないようにね