アンソニー・ホロヴィッツの最新刊
「ヨルガオ殺人事件」(創元推理文庫)
を読了したところです。
これ、以前も書いた「カササギ殺人事件」の続編です。
「カササギ殺人事件」と同様、今回も一度で二度楽しめるミステリーの二重構造。
殺人事件の謎解きのヒントとして、アティカス・ピュントと言う風変わりな名前の探偵が登場するミステリー「愚行の代償」(アラン・コンウェイ作)が、全話まるごと挿入されるというもの。
もちろん、アラン・コンウェイも作中人物です。
前回の「カササギ殺人事件」でもアラン・コンウェイ作のミステリー(探偵アティカス・ピュントが登場する)が入れ子構造で挿入されていました。
前回と違うのは、冒頭に登場するのがスーザン・ライランドという編集者(「愚行の代償」の編集者。「カササギ殺人事件」にも登場)で、
今は編集者を辞めて、ギリシャのクレタ島で恋人とホテル経営をしている。そのスーザンのもとに、イギリスから客が訪れ、殺人事件の真相解明と失踪者の捜索を依頼する、というところからストーリーは始まります。
何しろ、上下巻合わせると850ページ!という大部の小説で、しかも複雑に入り組んだ構造と登場人物の多さに上巻の途中で投げ出そうかと思ったほど。
翻訳もので苦労するのが人の名前ですね。
何度出てきても覚えられない。似たような名前がたくさんある上、カタカナで表記するとえらく長くなる。
それでも、我慢して上巻を読了し(挿入されたミステリー「愚行の代償」の途中で上巻が終わる)下巻に突入したわけですが、
下巻はもう本を置く間もなく深夜過ぎまで読み進み、翌朝一気に読了しました。
(今回はあらすじは省略します。知りたい方はネットでどうぞ)
上巻は少々長く感じます。スーザンと恋人の関係は退屈なのでバッサリ切るべし。読者は(特に高齢の読者は)ここで本を投げ出す可能性あり。
でもね、下巻は圧巻でした。
(高齢の方々、途中で投げ出さずに最後まで読むべし)
挿入されたミステリー「愚行の代償」の謎解きも圧巻なら、「ヨルガオ殺人事件」の謎解きも圧巻。伏線が見事に回収される心地よさ。しかも、最後の最後(下巻420ページ中418ページ目)で大きな謎が解明されるという仕掛け。
やるじゃん!
とにかく圧倒されるのは、どの謎も解かれてみると、なるほどそれ以外にないよね、と思えてくるところ。
アンソニー・ホロヴィッツ、恐るべし。
とはいえ、今回は少々苦言も呈したい。
だって、上巻が長すぎる。登場人物が多すぎて、名前が長すぎて、ミスディレクションも多く、途中でかなりいら立つ。
何より、アラン・コンウェイという作家が魅力的じゃないし、彼が創り出した探偵アティカス・ピュントもひどい。
「ヨルガオ殺人事件」で重要なヒントはアナグラムなのですが、この探偵の名前のアナグラムほどひどいアナグラムはない。こんなものを創りだした時点でアラン・コンウェイは失格だし、アンソニー・ホロヴィッツにも、
何考えとんじゃい!
と言いたい。
とはいえ、謎解きの見事さはさすがです。
ちなみに、原題は「Moonflower Murders」ヨルガオってMoonflowerというらしい。
ヨルガオはヒルガオ科の植物で夜になると満月のような白い花を咲かせます。
アサガオ、ヒルガオ、ユウガオ、ヨルガオ、と4種の「カオ」があるけれど、この中で仲間外れはどーれだ?
・
・
答えは、ユウガオ。これだけウリ科。あとはヒルガオ科の植物です。どれもよく似てるけどね。
私は、このアティカス・ピュントのシリーズより、ダニエル・ホーソーンのシリーズの方が好きだなあ。
ダニエル・ホーソーンもかなりの変人ですが。
「メインテーマは殺人」
「その裁きは死」
早く次が出ないかしら。
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