2021年のアカデミー賞短編映画賞を取った作品を二つ紹介します。
「隔たる世界の2人」(トレイボン・フリー監督 29分)
時間ループもの、というので面白そうだなと観てみたら、
もう、ガツンとやられました。
「ゲットアウト」の時もそうだったけど、アメリカの黒人差別問題の根深さを表現するには、シリアスな映画じゃもうダメで、コメディかSF仕立てにするしかない、という極限状態にあるんだ、と実感させられました。
(以下、ネタバレ)
主人公の黒人青年はグラフィックデザイナーで自宅アパートで犬と暮らしています。ある日、知り合った女性と一晩を共にし、翌朝自宅へ戻ろうとしたとき、路上で白人の警官に呼び止められます。
何も悪いことなどしていないのに、突然言いがかりをつけられ、縛り上げられ、首を絞められて彼は窒息死します。あのジョージ・フロイドのように。
ところが、次の瞬間、彼は再び女性のアパートのベッドで目覚めるのです。
そうして、彼は何度も同じ警官に殺され、再び彼女のベッドで目覚める、というタイムループが始まります。
手を変え品を変えして、警官は彼を殺します。彼は何とかして警官から逃れようとしますが、毎回いわれのない言いがかりをつけられ、縛り上げられ、あるいは背後から射殺され、そして再びベッドで目覚める、その繰り返し。
この時間ループからどうしても逃れることができない。
そうして、99回警官に殺された挙句、彼はようやく警官をおだててパトカーで自宅まで送ってもらうことに成功します。
道中、世間話をしたりしていいムードになります。警官もいじめられていた過去を打ち明けたりして。
ついに帰宅成功か、と思われたその時、
・・・
彼は再び彼女のベッドで目覚めます。
そして、何度殺されても、犬の待つ自宅へ帰るのだ、と決意を新たにして終わる、という非常に不条理な映画です。
不条理なのは映画だからではなく、彼らの置かれた現実があまりに不条理だからです。
エンドロールに登場する夥しい人々の名前、これは実際に警官に殺された黒人たちの名前で、
買い物途中だったり、駐車場に車を入れようとしていたり、中には自宅のベッドで寝ているところを射殺された人もいる・・
アメリカの闇をこんなにも短い映画で、しかもグサリと胸に突き刺さる仕方で表現した映画は初めてです。
これはもう全世界の人が見なくちゃいけない映画です。
人々を分断しているものの正体について、深く考えさせられます。
前回「この荒漠たる荒野で」について書いた時、アメリカという国の底力を感じたのですが、アメリカの闇はまだまだ深いようです。150年やそこらでは解決しないし、人々が本当に平等になるためにはあと何百年必要なのだろうと暗澹たる気持ちになりました。
それでも、こうした映画をつくる人々がいて、その作品にアカデミー賞を授与する、というところに、アメリカの懐の深さも感じました。
もう一本は、
「愛してるって言っておくね」(ウィル・マコーマック監督 12分)
これはアニメーションの短編です。
これもアメリカの闇を描いた実にいい映画です。
ここではネタバレはしません。実際に見てほしいからです。
映画って本当に様々で、こうした伝え方もあるのだなあとしみじみ思いました。
2本ともNetflixで配信中です。
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