映画「マローボーン家の掟」について、ネタバレ考察をしたいと思います。
マローボーン家の掟 (セルヒオ・G・サンチェス監督 スペイン 2017年)
これ、けっこう怖くて美しいホラー映画です。
先入観なしに見ることをお勧めしますが、最後までみると、え、となって二度見したくなる映画です。
ストーリーはこんな感じ。
人里離れた田舎にポツンと建っている古い一軒家に母と4人の子どもたち(ジャック、ビリー・ジェーン、サム)が到着するところから始まります。
ここは母の生まれ故郷で、彼らはイギリスから逃げてきたようです。
今日から新しい生活が始まるの、と母は言います。過去のことは忘れましょう。
「あいつはもう来ない?」と末っ子のサム(5歳)が母に聞きます。「過去のことは忘れたわ」と母は答えます。
けれども母は病気でまもなく亡くなってしまいます。
長男のジャックが21歳になるまでは隠れていなさい、万が一の時のために隠れる場所を用意しておきなさい、というのが母の教え。
彼らは兄妹4人でひっそりと暮らしはじめます。
近所に住むアリーだけが彼らの友人。ジャックはいつしかアリーと愛し合う仲に・・
そんなある日、森の中から一人の男が現れ、家に銃を撃ち込みます。母が恐れていたことが起きてしまった。子どもたちは慌てて屋根裏部屋に隠れます。
ここで画面は暗転して、一気に6か月後。
隠れ家での生活も順調に進み、明るい日差しの中で楽しげに暮らす兄妹たち。
そんなある日、家の相続の手続きに母のサインが必要だといって弁護士のトムが訪ねてきます。母が亡くなったことを隠しているので、ジェーンが必死で母のサインを真似て、何とか事なきを得たのですが、そのトムが嫌なやつでアリーに結婚を迫ります。
そして、隠れ家には不穏な気配も。サムは屋根裏に「お化け」がいるといいます。
不穏な物音や鏡にかけたカバーが突然落ちたり。末っ子のサムはこの鏡が気になってしょうがない・・
ホラー映画ならではの怖いシーンもけっこうあり、このあたり、本当に怖い。
そして、ついに屋根裏の「お化け」が動き始めます。
(ここからネタバレ全開)
実は、森から出てきて家に銃を撃ち込んだのは、彼らの実の父親。イギリスでは極悪なシリアルキラーで投獄されたはずなのに、脱獄して彼らを追いかけてきたのでした。なぜなら母がこの父のお金を盗んだから。
その父を屋根裏部屋に閉じ込めたのですが(半年以上たつのでとっくに餓死しているはず)彼は生きていて、兄弟たちに襲いかかってきます。
食料もない屋根裏に閉じ込められて、なぜ生き延びたのか不思議。よほどの生命力なのだろう。
兄妹たちが父親から盗んだお金を持っていると知り、ゆするために訪ねてきたトムが屋根裏に入りこんで、男に殺されます。
次にやってきたアリーも男に襲われ、すんでのところでジャックが駆け付けて男を猟銃で殺し、ようやく残忍きわまるサイコキラーの父親を殺す、という結末。
でも、ここから最後のどんでん返しが来る。これがすごくてね。
オオオーッ!となる。
実は、冒頭で森から出てきた父親は屋根裏にしのびこみ、そこに逃げ込んだ子どもたち(ジャック以外の兄妹、ビリー、ジェーン、サム)を殺害していたのでした。
つまり、画面が暗転して半年後から始まったシーンはすべてジャックの妄想だったというわけ。
ジャックはあまりのショックで解離性障害を発症し、それぞれの人格になりきって自ら兄妹たちを演じていたという、あまりに悲しいお話。
これ、「シックスセンス」や「アザーズ」「スプリット」などですでに使われている手法なのですが、知らないで見るとけっこうショックです。
でも、最後はまあまあハッピーエンドです。
生き延びたジャックはアリーと暮らし始めます。
アリーがジャックの世話をし、ジャックもやがて治癒していくだろうという希望を感じさせます。
でもね、この父親、なぜにここまで残忍でしぶといのか。半年以上もの間、どうやって出口のない屋根裏で生き延びたのか。
しかも、父親の残虐さ(10人以上殺したシリアルキラー)に比べて子どもたちの純真さもハンパない。
これほどの凶悪犯の子どもなら、一人くらい受け継いだやつがいそうだけど、皆無。これって現実的じゃないよね、と思っていたのですが、
ここは、キリスト教で読み解いてみようかと思いつきました。
つまり、父親というのはデビル(悪魔)で、家族はその悪魔から逃れるために、海を渡ってはるばる母の故郷であるアメリカまでやってきた。
ところが、デビルはしぶとくて彼らを追いかけ、追い詰め、ついに子どもたちを殺してしまう。
最後に生き残ったジャックも精神を病んでしまう。
それを助けたのがアリーで、つまりアリーというのはデビルに対抗する天使である、という設定。
セルヒオ・サンチェス監督は「永遠の子どもたち」の脚本家でもあり、同じ系列のスペインホラーとでもいうべき作品です。
また、ギレルモ・デルトロの「デビルズ・バックボーン」や「パンズ・ラビリンス」などにも同じ雰囲気があり、これって、スペイン独特のキリスト教的な世界観なのかしら・・。
でもまあ、この映画、難しいことは抜きにして、幻想的で怖くて美しいラブストーリーとして見ればいいのかもしれません。それぞれのシーンは本当に美しいので。
そして、何よりアニャ・テイラー・ジョイの存在感が半端ない。
「クイーンズ・ギャンビット」に抜擢されただけある。
というわけで、アニャ・テイラー・ジョイが見たくて見てみた映画でした。
ジャック、かわいそうに・・サム、まだ幼かったのに父に殺されてしまったなんて・・というのが私の感想ね。
子どもを殺す親ってそう珍しくないけど。
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