「米国寄りから抜け出し、
『骨のある』自国中心の外交が韓国には必要だ」(1)
韓国外交を診断した著書『チョン・セヒョンの洞察』で
国際秩序から時代の答え探し
三国統一以来の「従属の外交史」を分析
「米国は衰退し、中国を浮上する激動期」
「ヤクザの世界で国益を守らなければ」
「米国ばかり追いかけていては再び日本の下に置かれる可能性も」
「北朝鮮の『核保有』が認められる状況に備えるべき」
「尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権になって、あまりにも米国寄りの外交を展開しています。日本との関係も米国が望む方向に傾くのを見ていると、一体どうするつもりなのか、心配になります」
チョン・セヒョン元統一部長官が最近出した本『チョン・セヒョンの洞察―国際秩序から時代の答を探す』(青い森)の主なメッセージは、韓国外交が国益のために自国中心性を持つべきというものだ。「朝鮮がどうやって滅びましたか。中国が世界の中心から遠ざかっていることも知らず、『小中華(思想)』を掲げ、対外関係のすべてを一つひとつ中国に伺いを立て、いち早く欧州中心の秩序に便乗した日本にのみ込まれたではありませんか」
14日に会ったチョン氏は、「米国の国務長官を務めたヘンリー・キッシンジャー氏も十数年前に『米国は衰退し、中国が浮上している』と診断したにもかかわらず、韓国の外交官や国際政治学者の中には依然として米国側に立っていればうまくいくと信じている人が多い」と残念さをにじませた。
チョン氏は盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権と金大中(キム・デジュン)政権時代、2年5カ月間にわたり統一部長官を務め、「南北和解協力政策」を第一線で導いた。長官在任中、南北会談を95回も指揮し、73件もの南北合意書を作り出した。南北協力の象徴である「南北鉄道・道路連結」と「開城(ケソン)工業団地の着工」もチョン氏の長官時代の出来事だ。
チョン氏は同書で、東アジアを中心に国際秩序の変遷を振り返り、解放後、韓国大統領たちが米国とどのような外交を展開してきたのかを主に取り上げた。
同書によると、国際政治は「ヤクザの世界」と変わらない。昨年のロシアのウクライナ侵略からも分かるように、先に手が出て、言い訳や口実は二の次ということだ。この「ヤクザ」の秩序の中で国家利益を守るためには、外交が自国中心性を持たなければならないが、チョン氏によると、韓国外交は「自国中心性がほとんどゼロに近いと言わざるを得ない」。さらに「現政権であれ前政権であれ、外交で自国中心性が必要だという意識を持った人はあまりいないようだ」とも語った。
チョン氏は「小川に入った牛が左側の草も食べ、右側の草も食べながら歩くように、韓国はそのような外交を展開しなければならない」という金大中元大統領の言葉を借りて、「韓国は米国と中国をうまく活用するなど等距離外交をしなければならない」と述べた。「韓国の最大交易国である中国は2010年にすでに世界経済のナンバー2になっており、2049年には米国の国内総生産(GDP)を追い越すという目標に向かって走っています。韓国が世界経済10位になったのも中国のおかげです。にもかかわらず、尹大統領はNATOに行って『脱中国』を叫んだのだからもどかしい」
そして、韓国外交が自国中心性を発揮した代表的な例として、金大中政権時代の韓米首脳会談を挙げた。「2002年1月、北朝鮮を悪の枢軸と名指しする演説をした息子のジョージ・W・ブッシュ米大統領が、それから1カ月後に韓国を訪問した時でした。金大統領は100分間、あらゆる言葉で説得を重ねた末、ブッシュ大統領が都羅山(トラサン)駅で『北朝鮮と対話し、人道支援を行う』という演説をするように導きました」。一方、自国中心性の欠如が国益を損ねた例としては、朴槿恵(パク・クネ)政権時代、中国を標的とした米国の高高度防衛ミサイル(THAAD)配備要求に屈服したことを挙げた。
チョン氏は、文在寅(ムン・ジェイン)政権時代、南北関係に進展がなかったのも同じ理由だと指摘した。「2018年、4・27板門店宣言と9・19平壌共同宣言が発表され、南北が急速に近づくのを見て、米国が韓国側に『韓米作業部会』の構成を提案しました。この機構を作ってから、米国は南北関係を発展させようとする韓国側の足を事あるごとに引っ張りました」。 チョン氏は「その時、米国は車の搬入が対北朝鮮制裁違反だとして医薬品(タミフル)の輸送まで阻止した」とし、「米国がそう出るなら、韓国は手押し車に乗せてでも北朝鮮に(医薬品を)送るべきだった」と語った。
また、「1995年の金泳三(キム・ヨンサム)政権時代から、米国は北朝鮮政策で『韓米協力』の原則を突きつけ、韓国政府が米国の方針に反対できないようにしてきた」とも述べた。「韓米協力が今は逆らえない名分になったが、本当の意味は米国が行こうとする方向に韓国も行かなければならないというものです。文政権は韓米作業部会で米国が韓国の足を引っ張ろうとする時、強く反発するか、米国に従わずに持ちこたえて本来の方針を貫くべきでした。帝国を運営してきた国である米国は、原則や時限を掲げて他国を一方的に引っ張っていこうとします」
(2に続く)
「米国寄りから抜け出し、
『骨のある』自国中心の外交が韓国には必要だ」(2)
(1から続く)
チョン氏は米国の言うことに従うだけのけの外交は、韓国が日本の下に置かれる結果を再び招きかねないと懸念を示した。「今、日本は米国の副将の役割を果たしています。米国の力が弱まった時『自分が出て中国と1対1で対抗し米国的秩序を維持する』として、米国の委任を受けようとするでしょう。実は米国中心の秩序は口実にすぎず、日本が中心となることを夢見ているのです。現在、日本の軍艦が掲げている旭日旗がそのような野心をよく示しています。米国にとって韓国は日本の下です。米国ばかり追いかけていると、日本の下に入るしかありません。しかし、中国とも良い関係を維持すれば、中国の力が強くなる時、韓国が中心国に入ることがより容易になります」
韓国外交の自国中心性の欠如はどこに由来するのかという質問に対し、チョン氏はこのように答えた。「従属性が我々の遺伝子に組み込まれてしまったのではないかと思えるほどです。新羅三国統一以降、高麗や朝鮮まで支配層は中国との関係においてむしろ従属的であることを自ら選び、日本統治時代も『朝鮮の奴らはどうしようもない』と言う人がたくさんいました。解放後、李承晩(イ・スンマン)大統領と朴正煕(パク・チョンヒ)大統領が米国を引き入れて政権維持に活用した影響もあります」
米国に対抗すれば、むしろ韓国政府を非難する「国民感情」を乗り越え、外交の自国中心性を貫くことができるだろうか。チョン氏は「韓国は今、軍事的に世界6位、経済的に世界10位で国際的に尊重される国。今後、政治指導者が骨のある外交を展開していけば、国民も徐々に考えを変えるだろう」としながら、こう述べた。「大人になっても父親に自分のすべきことをいちいち聞く小学生のように振る舞っていたら、いつ正常な国になれるのでしょうか」
チョン氏は著書の中で、1981年の自身のソウル大学政治学博士論文(「毛沢東の対外観研究」)審査の時のエピソードを紹介し、韓国の世論主導層に蔓延している米国寄りの考え方の問題点を指摘した。「私が論文の結論に『1978年に改革開放を行った中国が経済成長を成し遂げれば、富国強兵の原理に従って必ず軍事大国になるだろう。そうなれば天下に号令した過去の自国の地位を回復しようとするはずであり、それに備えた韓国の外交政策を考えなければならない』と書きました。ところが審査で教授たちが『中国の経済が発展すれば都農と貧富の格差が広がり、少数民族が立ち上がって(国が)割れるのが目に見えている。大国の命脈も維持するのは難しいだろう』といって、論文の修正を求めました。教授たちのそのような考えこそが、まさに中国に対する米国の見解でした。外交官や学者たちが米国の目で世界を見ているのは、今も大きな変化がありません」
チョン氏は外交の自国中心性を確保するカギは結局、人だと語った。「金大中政権時代、(反発する)米国をなだめながら、中国や北朝鮮との関係も発展させました。もちろん大統領の意志があったからこそ可能でしたが、イム・ドンウォンという参謀がいなければそれも難しかったでしょう。盧武鉉政権も大統領府にイ・ジョンソクという参謀がいた時は、韓米より南北関係を重視しました」
南北関係の見通しについては「南北関係にも四季がある」としてこのように答えた。「今は冬の時期に入っています。でも、英国の詩人シェリーが『冬来りなば春遠からじ』と詠んだように、次の政権は金大中・盧武鉉政権時代のように南北関係の春を迎える可能性があります。もちろん『金大中-イム・ドンウォン』『盧武鉉-イ・ジョンソク』のような大統領と参謀の組み合わせがあればの話ですが」
チョン氏は著書の最後に、北朝鮮は核を放棄したウクライナが侵攻されるのを見て、「絶対に核を放棄してはならない」と考えただろうとし、「今後、米国が北朝鮮の核保有を既成事実とする交渉に韓国を追い込み、不意打ちを食らう恐れもある」と述べた。「核保有国であることを認められた北朝鮮が軽量化・小型化した核爆弾を実戦配備するのが、韓国にとって最悪の状況です」
ならば、どうすれば良いだろうか。「北朝鮮が韓国を軍事的に威嚇すれば、彼らの暮らしが脅かされるほど、南北の経済的な依存度が高まるよう構造化すべきです。今の韓中関係がまさにそのような状態ですね」
チョン氏は北朝鮮との関係は統一ではなく、欧州連合(EU)のような国家連合を目指すべきという持論も示した。「事実上、南北が二つの国家になって久しい。なにより、経済力の差が大きすぎます。南北の所得の差は28倍にもなります。この状態では連合も容易ではありません。統一は北朝鮮体制に変化が生じ、南北の類似性と同質性が高まった時点で、南北の住民が決める問題です」
訳H.J