[ニュース分析]金正恩委員長はなぜ661日ぶりに
ミサイル発射現場に姿を現したのか
朝鮮労働党の金正恩(キム・ジョンウン)総書記兼国務委員長が「11日、国防科学院で行った極超音速ミサイル発射実験を視察」し、「極超音速滑空飛行戦闘部が1000キロ先の水域に設定された標的に命中した」と、「労働新聞」が12日付1面全面で報道した。金総書記がミサイル発射を現地で見守ったのは2020年3月21日の「戦術誘導兵器試験射撃」以来、1年10カ月ぶりだ。
前日のミサイル発射実験に関する「労働新聞」の報道文で最も目を引くのは「金正恩総書記の視察」だ。金総書記がミサイル発射を現地視察したのは、「戦術誘導兵器の試験射撃」、すなわち「北朝鮮版ATACMS」」と呼ばれる短距離弾道ミサイルの発射実験を視察(2020年3月21日)して以来661日ぶりだ。
金総書記は昨年、「新型潜水艦発射弾道弾」(SLBM、2021年10月19日)の発射現場に姿を現さなかった。特に昨年3月26日付の「労働新聞」は「新型戦術誘導弾の発射実験」関連ニュースを2面で報道し、1面には金総書記が「(平壌)普通門周辺の護岸(川辺)屋根裏式(複層構造の)住宅区を新たに建設する構想」を明らかにし、「新たに生産した旅客バスの試作品を点検した」という内容の記事を掲載した。
2年近く「発射現場」に姿を現さず、「暮らし優先、経済集中」を強調してきた金総書記が、専用列車で慈江道まで駆けつけ「極超音速ミサイル最終発射実験」を現地で視察したのは意味深長な「変化」だ。軍事技術、内政・内治、対外政策の3つに分けて考える必要がある。
まず、金総書記が新兵器開発の「最終完成局面」で現地視察を行ってきた慣行を今回も繰り返したものとみられる。「労働新聞」は昨年9月28日と今月5日に続く今回の「極超音速ミサイル」の発射実験を「最終発射」と規定した。金総書記の最後の現地視察(2020年3月21日)も「戦術誘導兵器」を「人民軍部隊に引き渡す」前の「試験射撃」だった。
しかし、金総書記の視察を軍事技術の面だけで評価するのは難しい。金総書記が念頭に置いた「対内・対外シグナル」の方がより重要であるからだ。
「労働新聞」の報道文には韓国と米国を直接狙った内容はない。ただし、金総書記は「戦略的な軍事力を質量的かつ持続的に強化」し、「戦争抑止力を非常に強化」すべきだという点を強調したと、同紙は報じた。金総書記が労働党中央委第8期第4回全員会議(2021年12月27-31日)で、「日増しに不安定になって行く朝鮮半島の軍事的環境と国際情勢の流れは、国家防衛力の強化を少しも遅らせることなく、さらに力強く推進することを求めている」と述べたことの延長線上にあると言える。また金総書記が「多事多変した国際政治情勢と周辺環境に対処し、北南関係と対外事業部門で堅持すべき原則的問題と一連の戦術的方向を提示した」としながらも、具体的な対南・対米政策の方向性を公開しなかった同紙の全員会議の結果に関する報道を連想させる。「沈黙」も重要な対外シグナルであることから留意すべき点だ。
韓国政府は金総書記の「661日ぶりのミサイル発射現地視察」から、沈黙における対南・対米シグナルを読み取ったようだ。これと関連し、北朝鮮側のミサイル発射が確認された11日、大統領府が異例に文在寅(ムン・ジェイン)大統領の発言を公開した事実は意味深長だ。国家安全保障会議(NSC)常任委員会が「強い遺憾」を表明し、「対話と協力に早期に応じることを求めており」、合同参謀本部も「国連安保理決議違反」だとして「即刻中止」を求めたにもかかわらず、文大統領はあえて「大統領選挙を控えた時期に北朝鮮が連続的に発射実験を行うことについて懸念している」という立場を、大統領府報道官を通じて外部に伝えた。金総書記が発射現場にいたことを情報資産を通じて確認し、金総書記に「自制」を直接求めるべき状況だと判断したものとみられる。北京冬季五輪(2月4-20日)と大統領選挙(3月9日)を控え、朝鮮半島情勢の緊張指数がそれだけ高まったという意味だ。
金総書記がミサイル発射を現地視察したのは、何よりも長期化する「制裁やコロナ禍・経済難」のために乱れた民心を「軍事的成果」で鎮める「内部用の行動」の側面が強いと見られる。「労働新聞」は「極超音速ミサイル」を「強力な朝鮮の力の実体」だとし、「発射実験の成功」を「主体的国防工業領導史に刻み込んだ朝鮮労働党の輝かしい功績」だと称賛した。また、金総書記が「極超音速兵器研究開発部門の中核メンバー」を労働党中央委本部に呼び、「熱くお祝い」すると共に、「記念写真を撮ってくださった」とし、写真を大きく掲載した。内部用の宣伝扇動の性格が強い。
「金正恩の影」と呼ばれるチョ・ヨンウォン労働党中央委組織担当書記とキム・ヨジョン党中央委宣伝扇動部副部長が、金総書記と共に発射現場を視察した事実が写真で公開された点も、注目に値する。キム副部長とチョ書記は、2020年3月21日に金総書記がミサイル発射現場を視察した際も同行した。これはキム副部長とチョ書記の業務範囲が全方位的であることを示している。
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