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『フランス怪談集』

2008年09月10日 | 読書日記ーフランス

日影丈吉 編(河出文庫)


《収録作品》
魔法の手(ネルヴァル)
死霊の恋(ゴーチエ)
イールのヴィーナス(メリメ)
深紅のカーテン(ドールヴィイ)
木乃伊つくる女(シュオッブ)
水いろの目(グウルモン)
聖母の保証(フランス)
或る精神異常者(ルヴェル)
死の鍵(グリーン)
壁をぬける男(エーメ)
死の劇場(マンディアルグ)
代書人(ゲルドロード)


《この一文》
“ああ! まったくあの人の言ったとおりでした。わしは何度あの人を呼びもとめたでしょう。今でもあの人が忘れられない。魂の平和をあがなうには、あまりにも高価なものをなげうちました。神の愛もあの人の愛にかわるには足りません。
  ―――「死霊の恋」(ゴーチェ)より”



『東欧怪談集』が手に入らないことに焦った私は、今のところまだ安価で取り引きされているこの『フランス怪談集』を買っておくことにしました。さっさと買ってしまわなかったのは、ここに収められている作品の多くが、すでに私の持っている本のなかにも収められているからです。「死霊の恋」に至っては、これが何冊目になるのだか判然としません。この作品がこれほどまでに傑作中の傑作であるからには、どのアンソロジーにも入れたくなるのは、実際いたしかたのないところではありますけれども。でも、もうちょっと珍しい作品も読みたいよなあ。

ということで、初めて読んだのは以下の作品。「イールのヴィーナス」「聖母の保証」「死の鍵」「死の劇場」「代書人」。

なかでもメリメの「イールのヴィーナス」は面白かったです。メリメについては、これまでにいくつかの作品を読んで暗澹たる気持ちにさせられたので避けるようにはしているのですが、つい読んでしまいます。メジャー級の彼の作品(たぶん)はあちこちに載っているので、なかなか避け切れません。
私がなぜメリメが嫌なのかと言うと、残酷過ぎるから。もうあんまりに残酷です。ひどいったらない。と、私は思う。
しかし、この「イールのヴィーナス」は私の思うメリメにしては、前半はかなりユーモラスな語り口で、私はすっかり油断させられました。ひょっとしたらこのまま終わるかもと思うや否や、やっぱり最後には悲惨な結末が待っていました。例によって後味が実に悪い。まあ、でも面白かったです。くっそー、またしても、してやられたぜ。

「死の鍵」は、ちょっと文体が読み辛く、途中で放棄しようかと思いましたが、ちょうどそのあたりで物語が加速してきたのでどうにか読み終えることができました。主人公の少年が胸に秘める殺人への衝動が延々と書き連ねられていくなか、最後にはあっと言うように、その衝動に不思議な怪奇的な因縁がつけられています。意外に面白かったです。奇妙な味わいでした。

「代書人」も良かった。静かな町の感じが、そこで起こる奇妙な出来事の静かさが、なんだか良かった。

既に繰り返して読んでいる作品ではありますが、やっぱりゴーチエの「死霊の恋」は凄まじい。面白過ぎます。クラリモンドという美女に見初められた僧侶ロミュオーは、昼間は熱心に神に仕える一方、夜は若い城主となって放蕩三昧という二重生活を強いられるようになる。という物語。
ああ! クラリモンド! 実は吸血鬼であるという彼女はしかし、一途にロミュオーを愛する実に可愛い女です。そして、その輝き放つ美しさは筆舌に尽くしがたい。すげー面白い。やっぱり何回読んでも面白い。私なら決してクラリモンドの手を放したりはしないものを。ほんと馬鹿だなあ、ロミュオーは。

それからドールヴィイの「深紅のカーテン」もまた、私が異常に好きな短篇のひとつです。異常に面白い。筋書きはさほど派手ではない、というかむしろ地味でなんということもないものなのですが、これが異常に興奮させられます。どうしてこんなにどきどきしてしまうのでしょうか。なにか、秘密の馨しさがここにはありますね。美しいものはいい。でもって、この人の作品には深く暗い影、あるいは悲しみが漂っているようなのも魅力です。それがいっそう美しさを盛り上げています。たまりません。


はあ、フランス小説はやっぱりやめられない。


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