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『窮鼠はチーズの夢を見る』/『俎上の鯉は二度跳ねる』

2010年02月12日 | 読書日記ー漫画

水城せとな(小学館)






「ゲイでSM」というコンセプトのもとに描かれた作品だそうです。私を三日三晩苦しめた、とんでもない作品でした…。いやー、疲れた! でも、最高に素晴らしい作品でもありました。
内容的にも、性愛に関する具体的な描写からしても、これは大人向けの漫画だと思うので、私はちょっと配慮して、あらすじなどはこれ以降に書きたいと思います。大人の人だけ読んで下さい。



《あらすじ》
優柔不断な性格が災いして「過ち」を繰り返してきた恭一の前に、妻から依頼を受けた調査員として現れたのが、大学時代の後輩・今ヶ瀬だった。浮気の事実を妻に秘密にする条件として今ヶ瀬が要求してきたのは、「貴方のカラダと引き換えに」という信じられないものだった。(『窮鼠はチーズの夢を見る』)

《この一文》
“ 恋っていうのは
 幸せになるためにするものなんだと思ってたよ

 …とんだ子供じみた夢想だったな

    ――『俎上の鯉は二度跳ねる』より ”



『窮鼠はチーズの夢を見る』と、その続編『俎上の鯉は二度跳ねる』です。私は『窮鼠…』の方は旧版で買ったのですが、『俎上の鯉…』と本の大きさが違うので、新版の『窮鼠』を買い直すべきか悩み中……。いや、そこはどうでもいいんですけどね; でもやっぱり統一感が欲しいっていうか。ねえ?



とにかく、凄まじく激しい恋の物語です。私はそのままめり込んでしまうのではないかという勢いで、のめり込んでしまいました。こんなに真剣に恋愛について考えさせられる羽目になるなんて、読む前には思っていませんでした。いえ、この漫画が面白いらしいということは聞いていたのですが、ここまでのめり込むとは全く考えていませんでした。
特に2冊目の『俎上の鯉は二度跳ねる』などは、最初読んだとき、あまりに衝撃が強過ぎて、まったく理解できませんでした。胸をえぐられるような感触だけがあり、私はどうにかしてこれを解消したくて何度も繰り返して読みましたが、結局丸3日かかった。15回は読んだと思います。そして、その3日間、ページを繰り返しながら私は自分自身の恋愛のことばかり考えさせられました。
そういう作品でした。恐ろしいですね、これは。

丸っきり翻弄されながらも、私はこの2冊の漫画があまりに面白いので、それについて、なにかうまく語りたいと思いましたが、どうしても自分のことになってしまう。どう書こうと思っても、どうしても自分の恋愛を語ってしまうことになる。

ここに描かれているのは、男性同士の恋愛で、ごく普通の男が、学生時代の後輩の男から激しく愛を捧げられるというものです。ノーマルな男と、同性愛者の男のあいだに、恋愛はどのように成立するか。というお話なのですが、恋愛関係にある人々が体験するだろう普遍的な何かについて深く追究されていたと感じます。端から見ると馬鹿げて見えるかもしれないけれど、当人たちにとってはとても切実な恋愛。相手から受け入れられるまではそれを目標に進むことができたけれど、ある程度受け入れられてしまえば、それ以上行き場を失ってしまう恋愛。そして、もうこれ以上互いになにも得るところがないのではないかという恋愛。そういう恋愛の焦燥感、行き詰まり感、そもそもこんな恋愛とは一体なんなのかと果てしなく疑問が広がっていくさまを、恐るべき勢いで描いてありました。なにしろ分量がたったの2冊しかない。それなのに、この密度! なんだこれは。
男性同士の恋愛を描いてあるからには、これはBLものと言っていいのでしょうか。『窮鼠』の段階ではそう思ってましたが、『俎上の鯉』を読んだ私にはちょっともう分かりませんけれども、とにかく恋愛ものです。それも、とびきり切実な。

私はそもそも何にでも影響を受けやすい性質ではありますが、それにしてもこの2冊の漫画に影響され過ぎて、つい自らの恋愛について結構突っ込んだ文章を書かずにいられないところまで追い込まれてしまいました。
今、この作品と、私が先日書いたものを比べてみると、あらためて私がどのくらい強くこの作品に支配されていたのかがよく分かります。そのくらい力のある作品でした。私は読んでいて、私のことを忘れながらも、私のことしか考えられなかった。ああ、でも色々書いてしまったおかげで、やっと私は冷静にこれに向き合えるというものです。でも、もうあまり書くことないな。おとといの「恋愛について考えた」という記事が、この作品に対する私の解釈であると言ってしまいましょう。

えーと、でも一応もう少し物語について書いてみると、この作品のキモは、主人公の恭一さんが最後までノーマルな男としてあり続けるところにあるかと。あとがきで、作者の水城さんも書いておられましたが、普通に女性を愛してきた男が、同性愛者の男をどう愛せるか。どこまで行けば愛したことになるのか。このへんの苦悩が、見所なんだと思います。
男同士の恋愛というと特殊に思えるけれども、突き詰めていけば、ある人間が別の誰かをどう愛するかというのは、男と女であっても、女と女であっても、どこまで行ってもその場合にしかよらないのではないかというようなことを、私は考えさせられましたね。
それから、もし幸福になるためのルールとか、社会のなかでうまくやっていくためのルールのようなものがあるとして、それがもし今とは違っていたなら、恋愛ももしかすると別の形をとることができるのではないかとも考えます。かなり繊細な問題だと思いますけどね。


とにかくもの凄い作品でした。
恋愛ってなんだっけ…と思い悩んだことがあるという人には、興味深く読める漫画なのではないかと思われます。いや、私は興味深いなんてのどかなレベルでは全然読めなかったんですけど。今ヶ瀬くんの台詞がいちいち私の過去とダブってしまって。いやもう大変ですよ。狂おしい恋情が蘇ってしまって。だからどうということはないですけど。とにかく色々と思い出した。


なにも残らない恋愛にも、どうしてもそれにこだわらずにいられないからには、もしかして何かあるのではないだろうか。何かすごく重要なものがあるのではないだろうか。
そういうことを、私は久しぶりに真剣に考えました。あー、お疲れさまでした!





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