このブログにも何度か登場してきた、町田樹さん。
元フィギュアスケート選手で、現在は早稲田大学大学院スポーツ科学研究科博士後期課程で研究を行っています。
当時日本のフィギュア界には高橋大輔、織田信成、小塚崇彦の世界的3強がいました。
そんな中、町田選手は表現力も技術も素晴らしいのに、ここぞという時に弱さが出てしまい、なかなか世界選手権に選ばれるチャンスを物にすることができませんでした。
ところがソチオリンピックも近付き、若い羽生選手がめきめき頭角を現しつつある頃、町田選手も刺激を受けたのか、成績が安定してきたのです。
(・・・思い切って髪を刈り、坊主にしたときがありました。私は直接話す機会に、「髪の毛切ってんね、似合ってるよ」と余計なことを言ってしまい、嫌そうな顔をさせてしまって後悔しております。でも、自分に活を入れ、この辺から強い町田選手になった気がします。)
そして、独特の表現が話題になり、「氷上の哲学者」と言われ、トップに躍り出て、たくさんのファンができるようになりました。
ソチオリンピック出場5位入賞・世界選手権銀メダル(SPは羽生選手を抑え1位)という快挙。
しかし翌年、世界選手権代表発表の場で突如、辞退・引退を発表しました。
「ベートーベン第9」の完成形を楽しみにしていた私には、とてもショックでした。
そんな町田樹さんの、後輩に贈る言葉を抜粋してみました。
町田樹がアスリートに伝えたいこと 「フィギュアを凌ぐ学問で得た充実感」
誤解を恐れずに言えば、競技力を磨くことはアスリートにとって本義ではありますが、その能力だけで実社会を生き抜いていくことは難しい。
アスリートが競技者人生の大半を費やして磨き上げるスキル(競技力)と、実社会で求められるスキルとの間に見られる齟齬(そご)が、アスリートのセカンドキャリア問題を難しくする最大の要因だと、私は考えています。
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アスリートは、血のにじむような努力をし、苦難を経験しながらも頑張り続けるという強靭な忍耐力や信念を持っている。そして、そういった芯の強さは学術研究でも不可欠です。
研究者も、なかなか目に見える形で世の中から認められず、信念や信条を強く保てなければすぐに挫折してしまいます。
99%の苦難の先にある1%の光を信じる精神を、私はアスリートとしてのキャリアから学びました。
<略>
まず、スポーツという世界は、アスリートだけが形成しているものではなく、社会という大きな枠組みの中で成立しているということを知ってほしいと思います。
行政機関としては、2015年にスポーツ庁が設置され、スポーツに関する政策を立案していますが、そのためにはスポーツマネジメントやスポーツ法学、スポーツ政策学などの学問による下支えが必要になってきます。
また、とりわけオリンピックやワールドカップなどのメガスポーツイベントは、スポーツを産業化させ、経済と密に結び付いているものですから、経済学、商業学的観点はどうしても不可欠です。
それから選手の競技力を高めるためには、コーチング学領域において集積された指導理論や心理学によるメンタル面でのサポート、バイオメカニクス(人間の身体運動に関する科学的研究)、栄養学などの知見も極めて重要となります。
<略>
このように選手として活動すること以外にも、さまざまなアプローチを通じてスポーツという文化の醸成に寄与することができるのです。
スポーツ界において「アスリートだけが主役である」という考えは、もう古いのかもしれません。つまり「スポーツを支える」人材無しに、スポーツ界は存在しないのです
アスリートとしてのキャリアは、遅かれ早かれいずれ終わります。
スポーツ科学を勉強し、スポーツ文化の広がりを知ることによって、引退後に広がるさまざまなセカンドキャリアの可能性に気づくことができるんです。
実は私自身、引退の2年ほど前から研究者としてのセカンドキャリアを見据えることによって、むしろ自信を持ってアスリートとして競技に打ち込めた。
だからこそ、現役最後の年にはソチオリンピック5位入賞、世界選手権銀メダル獲得といった好成績を残すこともできたと思っています
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フィギュアスケートや他の「アーティスティック・スポーツ(※)」の50年後、100年後を見据えて、責任のある提言をするための研究をしていきたい。
そして、そんな提言をしていくためには、「アーティスティック・スポーツ」の本質を捉えなければならないと考えています。
※フィギュアスケートや新体操、アーティスティックスイミング(旧称シンクロナイズドスイミング)など、音楽を伴う採点スポーツを町田さんが新たに呼称し、定義した言葉
「アーティスティック・スポーツ」の大きな魅力は、人間の身体運動におけるアスレチックな面とアーティスティックな面との融合です。
ジャンプやスピン、回転数を競うだけであれば、音楽、振付、衣装といった要素は必要ないですよね。
フィギュアスケートは、それまで氷上で同じ図形(フィギュア)をなぞっていたスケートに、ジャクソン・ヘインズという男性バレエマスターが踊りを導入したことで進化してきましたし、アーティスティックスイミング(旧称シンクロナイズドスイミング)も、もともとは「アクアティックバレエ」という名前の興行に端を発しています。
それらは競技力を競うためではなく、元は鑑賞されることを意図した身体運動文化だったんです。
そういった本質を踏まえながら、次世代に「アーティスティック・スポーツ」の真の魅力とその発展を支える基盤を継承していけるような研究に取り組んでいきたいと考えています。
<まだまだ続くが、割愛>
TVでは、平昌オリンピックの解説もされていました。
周到に下調べされた、洞察に満ちたコメントの数々はどんな解説者よりも素晴らしいものでした。
アイスショーでも、プロスケーターとして自分で演出・振り付けした独自のプログラムを発表しています。
・・・そして可愛い現役時代の町田選手を投入。