The Game is Afoot

ミステリ関連を中心に 海外ドラマ、映画、小説等々思いつくまま書いています。

シャロック・ホームズ 「絹の家」 感想

2015-09-09 | ブックレヴュー&情報
― "The House of Silk" : (2011): Anthony Horowitz ―


シャーロック・ホームズ「絹の家」 アンソニー・ホロヴィッツ著
角川書房 駒月雅子訳

「刑事フォイル」の時に書いたのですが、ホロヴィッツがホームズを書いていた事を知らず、
何という片手落ち! 即入手致しましたです。

”コナン・ドイル財団が初めて公認した、80年振りのホームズ続編” との事でこれを読まずに
何を語れるか!等と力が入ってしまったのですが、事前に書評、レヴューを読む限り賛否は両極端
に分かれていましたが 兎に角読んでみなくては話にならないと思いまして・・・・・

内容詳細はなるべく触れない様にしますが、一部ネタバレになって居るかもしれませんのでその点
お含みおき下さい。

多くの方が 「兎に角暗い」、「陰惨だ」、「楽しくない」等の感想を述べていらっしゃいます。
確かに正典のホームズ作品とは違ったカラーだと思います。
初めに書いてしまいますが、「正典としてのホームズの新作」というよりパスティーシュととらえた
方が良い様な気がしました。

この作品を執筆するにあたってホロヴィッツがコナン・ドイルによるホームズ物語の精神を尊重し
それを作品に息づかせる為 10箇条のルールを自分に課した。 との事で訳者付記にある内容要約を
そのまま引用させて頂きました。


1. 度が過ぎた派手なアクション・シーンはいらない
2. ホームズの恋愛を描いてはならない
3. ホームズとワトソンの関係に同性愛を持ち込んではならない
4. 有名な実在の人物を登場させてはならない。ホームズの依頼人は架空の人物であるべき。
5. 薬物禁止 少なくともホームズが自ら使用するのは不可
6. 調査は徹底的に
7. 19世紀らしい文章表現で
8. 殺人の数は多すぎてはならない
9. ホームズ物語の主な登場人物を積極的に、なるべく意表をつく形でいれる
10 本書の宣伝の為に鹿討帽をかぶったり パイプをくわえたりしている姿を撮影する事は断じてしない

内容概略は :
老いたワトソンが残された時間が少なくなった時 過去に封印されたある事件を書き残して置かなければ
ならないと執筆を決心します。
何故封印されていたかと言うと、この事件はホームズの名声を傷つける恐れがあるからと言う事と、
余りにもおぞましい陰惨な事柄が含まれていると言う事が理由でした。
「シャーロック・ホームズの最後の肖像画としてこれまでとは全く異なる視点で描かれた作品になる筈だ。
そして全部書き終わったらコックス銀行に保管して100年後に開封するように指示するつもりである」と記
しています。

そして「ホームズがダウンズの自宅で倒れて永遠の眠りについて一年」って・・・
ワトソンよりホームズが先に亡くなっていたんですね。 切ないです。
“Mr. Holmes “ では既知の人々が皆先に亡くなり、94歳のホームズが1人残る設定もある意味胸が痛い
のですが、ワトソンが残される設定も寂しいものです。

回想録にある主に二つの事件からなるこの物語の時期は 「瀕死の探偵」事件直後、「最後の挨拶」の
前の頃(1890年)で ワトソンはメアリーと結婚後2年目とされています。
お馴染みのレストレード、ハドソンさん、マイクロフトも登場します。

一見全く異なる事件と思われていた2つの事件(美術商カーステアーズに依頼される事件とHouse of Silk
 ”絹の家”と呼ばれる正体不明の存在)の謎が最後に見事に一つに纏まる点は 散らばっていたパズルが
一つの場所に収まると言う ストーリーテリングとしては見事な展開と感じさせられますが、確かに所謂
心躍る様な探偵活劇とはとても言い難い胸が締め付けられる様な、重苦しい気持ちになる事は間違いない
のです。
それは主にホームズ自身の深い心の闇、悔恨、自責の念、孤独等に重点が置かれているからではないかと
考えられました。

ホームズが扱う事件、探偵業に携わる事によって 如何に心が傷付き、時に平常心を失う状況に陥っても
それを丸ごと飲み込んで平然と行動し、ワトソンと行動を共にしてその存在を頼りに思いながらも結局は
全てを吐き出す事が出来ず1人心の中に仕舞い込む孤独な姿、諦観等がうかがい知れ、そしてそんな状況に
も関わらず情を捨てきれず 個人の判断基準に従って復讐を果たす事になる。
何て書くと益々気持ちが重くなりますが、 それでもワトソンの回想中に挿入される2人のやり取りは思わ
ずニヤっとさせられる部分もあり チョット嬉しいのです。

そしてこの作品には思わぬ形でモリアーティーが登場します。
この作品では対決者としてではなく、むしろホームズに示唆を与える(或はけしかける?)役割であると
感じますが、この作品でもモリアーティーとホームズは 対極にある同じ天才であり 立場が違えばホー
ムズもモリアーティーになっていたかもしれないと。
と言うこれまでも何度も書かれていた点を再認識させられるのです。 その為に2人はいずれ対決しなけれ
ばならない間柄であったからこそ、次のライヘンバッハでの決着が避けられなかったのではないでしょうか。
「最後の事件」でワトソンがモリアーティーの事は知らない と言っていたのですが、この作品でモリアー
ティーから2人の会合に関しては極秘にする様に誓わされているので、この後の話に矛盾無く繋がっています。

そして全体を通して何よりも感じるのは、ワトソンが如何にホームズと過ごした日々を懐かしんでいるか、
ホームズに対する深い友情、愛情(上記項目No.2に抵触する形では無く)を感じているかが
随所に描かれている事に感動すら覚えます。
事件当時メアリーと結婚2年目を迎えているのですが、メアリーからも「あなたは私よりホームズさんの
方が好きなんじゃないか・・・・」とさえ言われています。

この事件に深く傷ついたホームズはベーカーストリート イレギュラーズも解散する事になりました。
そして最後にワトソンにも一言も語らず 1人夜出掛けて行くホームズの姿が哀しいのです。
正典でも何度か気付くのですが、ホームズは結局法に元ずく正義の為に動くのではなく、一歩間違えば
自分が犯罪者ともなりうる 自分の判断基準により裁くという危うさをこの作品でも感じさせられます。

その上、最後の最後には涙腺壊れます。
ワトソンがホームズの引くヴァイオリンの音が聞こえる様な気がする。
自分の為に弾いてくれているんだと思いたい・・・・と。
本当に泣けました。
221Bでの時間は ホームズとワトソンにとって永遠なんでしょうね。

「ミスター・ホームズ」でも泣かされましたが(何度も言っていながら 未だに感想書けません←涙)
この作品でも又泣かされました。
 
今迄のホームズ作品とは一味違う作品で、私の感想は支離滅裂で何を書いているか意味不明と云う
感もありますので、興味がある方はご自身で読んでみて頂きたいと思います。