The Game is Afoot

ミステリ関連を中心に 海外ドラマ、映画、小説等々思いつくまま書いています。

『オスロ警察殺人捜査課 特別版 アイム・トラベリング・アローン』

2017-08-27 | ブックレヴュー&情報

『オスロ警察殺人捜査課 特別班 アイム・トラベリング・アローン』 :”I'm Traveling Alone”
サムエル・ビョルク(著)、中谷 友紀子(翻訳)

ディスカヴァー・トゥエンティワン出版 (2016/12/23)
A六版(512P) ソフトカバー

『北欧発!世界中が震撼!北欧ベストセラーのサスペンス・スリラー、待望の日本上陸。』
(↑ 内容紹介より)

『てんとう虫、てんとう虫
早くお帰り
お家が火事で、
子どもたちは死んじゃった――』
↑ 内容(「BOOK」 データベースより

オスロの山中で見つかった六歳の少女の首吊り遺体。首には「ひとり旅をしています」のタグがか
けられていた。鷲のタトゥーの男、謎の宗教団体、忌まわしい過去―。 それぞれの物語が複雑に
絡み合い、ひとつにつながっていく。 北欧ベストセラーのサスペンス・スリラー。

以前ご紹介しましたが 近年北欧発のドラマ、書籍がかなり増えてきて人気も上昇しているようです。
特に意図していた訳ではないのですが、思い返してみても最近読んだ何冊かも偶然北欧の作家さん
の作品でした。

この作品は 特にレヴュー、抄評、内容も調べず何気なく手に取りました。
そして、この著者の作品も始めて読んだ訳ですが、多彩な才能を持つ方の様で エンタメ性も感
じられます。
500ページを超す分厚さ(二段組)なので 果たして読み切れるだろうかと一瞬不安を感じたので
すが、読み始めた途端一気に引き込まれましたね。 特に後半からは 寝なきゃ!と思いつつ途中
で止められず睡眠時間が足りなくなりましたです。 
英語タイトル”I'm Traveling Alone”「ひとり旅しています」は猟奇的な殺人事件の被害者と
なった少女の首に下げられていた航空会社のタグ。そしてその少女は人形の様なドレスを着せられ
ていた。 果たしてこれらの事が何を意味するのか? これらが事件の特徴であり手掛かりの1つ
になります。

何より主人公達のキャラクターが魅力的で、
元殺人捜査課に所属していた敏腕刑事であったミア・クリューゲル。
彼女はある事件を機に職を離れ心を病み 孤島に1人暮らしをしながら自分の死だけを考えながら
日々を過ごしている。 家族の死、一身同体であった双子の姉の死というトラウマに取りつかれ
自分の自殺する日をカウントダウンしながら酒と薬物のみで日々をすごしていた。
又、彼女の上司であったホールゲル・ムンクは数学オタクでこよなくタバコを愛する初老の優秀な
刑事。 ミアが退職したきっかけになった同じ事件で左遷されていたが、少女の殺人事件が起こり
これが特別な事件と判断した上層部の意向で殺人捜査課を再興、ミアの特殊な腕と判断力が必要と
判断したムンクが彼女を呼び戻し復帰させる。

全てを放棄して生きる希望も失い過去を引きずりながらも ミアは特殊な判断力や推理で事件を
追ううちに次第に仕事に没頭し始める。 そんなミアを全面的に信頼しているボスのムンクも妻
と別れ孫とのふれあいだけを楽しみにしている 介護施設に居る母親との関係等で悩みも多いな
がら 経験豊かなベテラン刑事。 硬軟兼ね備え部下たちを巧みに扱う魅力あるボス像を持って
いる。
ことろで、このミアはキャロル・オコンネル作品のヒロインであるキャシー・マロリーを彷彿と
させるキャラクターの様に感じたし、ミアとムンクの関係もマロリーと相棒のライカ―との関係
を思い起こさせられる。ただ、ミアもマロリー程のクールさには到底届かないかな?
因みに、キャシー・マロリー シリーズの最新版「ルート66」も先日読み終えましたので、これ
に関しても機会があれば残して置きたいと思っています。が・・・どうなりますやら(汗)

チームメンバーも個性豊かで新人ハッカーの参加等もありながらそれぞれがボスに全面的な信頼
を置き捜査に立ち向かっていく。 
猟奇的な少女連続殺人事件が 過去の乳児誘拐事件、新興宗教等と絡み合いながら1つの事件に
結びついて本筋にたどり着く過程が興味を惹き付けていく。

北欧の独特の空気感を漂わせる背景、イメージをくっきり浮かび上がらせる登場人物の丁寧な描
写、台詞と独白は素晴らしく テンポよく一気に最後まで読ませるストーリーテリング、スリリング
な展開は最後まで飽きる事が無く読者を引っ張り込みます。
特にこの作品の場合、訳者の技量によるものも大きい様に感じます。

実は読みながら途中で犯人はこの人では?と想像出来たのですが(ミステリー中毒の弊害か)それ
でありながら簡単には終わらない犯人の動機の複雑さ、心の闇に迫るミアが追い詰める捜査はハラ
ハラさせられます。

周囲に心を閉ざしたミアと彼女が父親の様に信頼するムンクとの親子の様な関係が実に魅力的で
2作目も出ている様なので翻訳を楽しみに待ちたいと思います。