The Game is Afoot

ミステリ関連を中心に 海外ドラマ、映画、小説等々思いつくまま書いています。

『シャーロック・ホームズ アンダーショーの冒険』デヴィッド・マーカム編

2018-12-18 | ブックレヴュー&情報
The MX Book of New Sherlock Holmes Stories

デヴィッド・マーカム(編集)、日暮 雅通(翻訳)原書房 2016/12/15
Completed For The Benefit of the Restiration of Undershaw
Edited by David Marcum

シャーロック・ホームズのパスティーシュです。
パスティーシュも一応何でも手に取るものとして、時にはとても気に入った作品もあり、又時には
腹立たしく思う作品もあるなか、事前に何の情報、レビューも読まずにあまり期待もせず何気なく
読み始めました。 大当たりでした。 パスティーシュとしてはかなりの良作だと感じさせられま
した。

<内容紹介>
英国のMX BOOKシリーズから編んだ日本版オリジナル・アンソロジー。オーソドクスな「語られざ
る事件」からちょっと変わった設定まで、シャーロック・ホームズの面白味、ヴィクトリア朝の味
わいをぐっと凝縮した一冊。

先ず、タイトルにある『アンダーショー』”Undershaw”ですが、これはコナン・ドイルが38歳から
48歳迄住んでいた住居で『バスカヴィル家の犬』を含む14作品以上が執筆された場所です。
そして、その住居を修復、保存するための基金として”アンダーショー保存トラスト、マーク・ゲイ
ティス後援”(BBC版のマーク・ゲイティス氏はやはり筋金入りのシャーロッキアン、コナン・ドイル
への愛に満ち溢れていますね)等の支援で取り壊しを免れ、現在はステッピング・ストーン(学習
障害のある子供たちの為の学校)が買い取り、かつての姿に修復されているとの事。そして、デ
ヴィッド・マーカムが提唱したアンソロジープログラムの筆者達もこの修復作業の為印税を寄付し
たそうです。
↓ こちらがアンダーショー全景


今回のプロジェクトは、世界中のシャーロッキアンに執筆を呼びかけ実現された本で、原書はMX
ブックスの全3巻63編で、4巻以降も続いているそうです。
本作はその63編から抜粋された10編が翻訳されたものです。

編集者であるデヴィッド・マーカムが作品を依頼するに当たって執筆に条件を付けています。
「ホームズとワトソンが敬意をもって誠実に扱われ、シャーロッキアンの伝統である〝ザ・ゲーム"の
精神にのっとっていなければならない。つまり、ホームズとワトソンは実在する歴史上の人物として
扱われなければならないのだ。また、ほかの時代に移されたり、彼らがいた時代では考えられないよ
うなこと、たとえばエイリアンと戦うようなことは、させてはならない。ストーリーの背景となる時
代は1881年から1929年とし、ホームズが吸血鬼と闘ったり、現代に甦ったりするパロディのたぐい
は許されない」というものです。

又、デヴィッド・マーカムが冒頭、「はじめに」という項目の中で パスティーシュを書く際の心得
の様な事を書いています。 内容は省きますが何と言ってもこの項目の最後にある記述、

”2015年8月
ジョン・H・ワトソンの163回目の誕生日に
デヴィッド・マーカム” 
と記されているのをみて、胸がイッパイになりました(意味不明?)

構成は3部に別れています。
※ 第一部1881年~1889年
(ホームズとワトソンが出合い 221Bで暮らす事になる1881年からワトソンがメアリ・モースタンと再
婚した少し後までの事件。因みにワトソンは1880年代の半ば一度結婚し、その妻と1887年後半に死別
したとされています)
 
「質屋の娘の冒険」 : デイヴィッド・マーカム
「沼地の宿屋の冒険」 : デニス・O.スミス
「アーカード屋敷の秘密」 : ウィル・トマス

※ 第二部1890年~1895年
(ワトソンはメアリとの結婚生活を楽しむなか、ホームズはモリアーティーとの戦いが激化し 1891
年ライヘンバッハの滝での決闘、死亡したとみせかけホームズは1891年5月から1894年4月迄世界各地
を巡っていた。その間ワトソンは親友を失った悲しみに加え、妻メアリの死に直面していたが、ホーム
ズ帰還後(「空き家の冒険」)、ワトソンは再び221Bに戻り共同生活を始め、再び忙しく事件に取り
組む)

「死を招く詩」 : マシュー・ブース
「無政府主義者の爆弾」 : ビル・クライダー
「柳細工のかご」 : リンジー・フェイ
「無政府主義者のトリック」 : アンドリュー・レーン

※ 第三部 1896年~1929年
(1902年中頃ワトソンは3度目の結婚をし、別に居を構えるもののホームズの事件捜査には付き合って
いる。 1903年秋 ホームズは49歳で引退し、サセックスのサウスダウンズの農園に移り住み養蜂を
始めながら、一方戦争を回避するマイクロフトを手伝い忙しく働いていた。
大戦中、又1920年代はワトソンも時折ホームズを手伝いながら1929年7月に亡くなるまでその関係は続
いた。 サセックスに住むホームズは1930年代から1940年代迄時折事件を手掛け、その後は養蜂生活に
戻り 1957年の誕生日の朝亡くなる迄研究生活を続けた)

「地下鉄の乗客」 : ポール・ギルバート
「植物学者の手袋」 : ジェイムズ・ラヴグローヴ
「魔笛泥棒」 : ラリー・ミレット

特に最初の作品「質屋の娘の冒険」は編者であるデヴィッド・マーカム自身の作品でもあり、気合が
入った、良く練られた作品だと感じました。

それぞれの物語りの内容詳細は書きませんが、どの作品もホームズ愛に満ち溢れ、又正典由来のエピ
ソード、ホームズ語録、ホームズの言動、ホームズとワトソンの友情等が細かく描かれていて、一番
重要だと思われる正典のカラー、雰囲気を大切に扱っている事を感じさせられて感動します。

中には、トリック明かしに重点を置き過ぎる感がある作品もありますが、個人的には「植物学者の手
袋」が印象的でした。 事件の内容と言うより、この事件でホームズが蜂に興味を持った・・・・と
いうエンディングで、後年の養蜂を手掛けることになるきっかけにさり気なく触れています。、

1つ残念なのが、
日本語タイトル”アンダーショーの冒険”、厳密に言えば”アンダーショー”は事件とは直接関係ないの
では?と思うのですが・・・
それと、翻訳本のカバー。 何となく安っぽい感じ?(暴言) さり気なくアンダーショーをバック
につかっていますけど。
原書は雰囲気のあるカバーです。
 
こちらが原書(Part 1) チョット調べてみたら現時点で既にPart 12迄出ている様です(もしかしたら
もっと出ているのかも・・・?)


この様に原作本はまだまだ沢山ある訳ですから、今後続編の翻訳に期待したいと思います。



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