The Game is Afoot

ミステリ関連を中心に 海外ドラマ、映画、小説等々思いつくまま書いています。

『黄昏に眠る秋』ヨハン・テオリン著

2020-01-12 | ブックレヴュー&情報
『黄昏に眠る秋』ハヤカワ・ポケット・ミステリー2011/4/8

ヨハン・テオリン(著)、三角和代(翻訳)

《内容紹介》
霧深いエーランド島で、幼い少年が消えた。母ユリアをはじめ、残された家族は自分を責めなが
ら生きてきたが、二十数年後の秋、すべてが一変する。少年が事件当時に履いていたはずの靴が、
祖父の元船長イェルロフのもとに送られてきたのだ。急遽帰郷したユリアは、疎遠だったイェル
ロフとぶつかりながらも、愛しい子の行方をともに追う。長年の悲しみに正面から向き合おうと決
めた父娘を待つ真実とは?スウェーデン推理作家アカデミー賞最優秀新人賞に加えて英国推理作家
協会賞最優秀新人賞を受賞した傑作ミステリ。

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

スウェーデンの推理作家、ヨハン・テオリンによる≪エーランド島シリーズ≫の第一作目です。
CWA賞新人賞では英語以外の言語で書かれた作品に授与されたのは本作が初めてとの事。

因みに、≪エーランド島シリーズ≫は、
『黄昏に眠る秋』
『冬の灯台が語る時』
『赤く微笑む春』
『夏に凍える船』 
の4作品が出版されています。

最近再び北欧ミステリを読む機会が続いていますが、ヨハン・テリオンは初読みです。

スウェーデンの美しい島エーランド島である霧の深い日に祖父母、母と暮らしていた5歳の少年
が姿を消します。

幼い息子イェンスが行方不明になって以来悲しみに苛まれ、心を閉ざし前向きに生きられなく
なっていた母ユリア。 姉家族、父との間も溝が出来疎遠になっていた。
20年後老人ホームで暮らす元船長である父イェルロフの元にイェンスが掃いていたと思われ
るサンダルが送られて来る。 誰が、何のために・・・。
イェルロフから連絡を受け取ったユリアは久々に父が暮らす故郷に戻る。

80歳になりリューマチの為思う様に身体が動かない苛立ちを抱えながらも、頭脳は明晰である
イェルロフは旧知の仲間の手を借りながら事件の真相を追い始める事になる。

イェルロフとユリアの視点で描かれる現代パートと交互に、1936年から戦争中を経てゼロ時間に
向かって行く 島民には悪魔の権化のように思われていたニルス・カントの人生が挿入されてい
ます。冒頭にイェンスとの出会いが書かれ、ニルスがこの事件とどの様な関わりがあるのか、謎
のピースを散りばめながらじわじわと進んで行きます。
やがて判明した意外な真相。

次第に明らかになる事実を受け入れる事でユリアとイェルロフとの関係に変化も出てきます。
行方不明になった少年の謎を追うというミステリであると共に、ユリアの再生、父と娘、周囲の
人々との関係等を含む深い人間ドラマでもあると感じます。

最後はハッピーエンドではありません。
しかし、喪失を受け入れ、乗り越えた主人公達の再生を感じる深い余韻を感じる感慨深いエンディ
ングになっています。

なにより、戦うおじいちゃんであるイェルロフが斬新で魅力的です。
危険な目に会うのではないかと(実際会うのですが)ハラハラ心配しながらもつい心の中で応援
しながら読み進めていました。
このイェルロフという存在がなければ この作品も生かされなかったのではないかと思う程の
存在感で とても気に入ったキャラクターです。

季節外れの避暑地という美しいけれど寂寥感に溢れた風景描写と共に、北欧ミステリらしい
静かさが漂う、数々の授賞が納得出来る作品でした。

この後、引き続きシリーズ3作品に取り掛かります。
2作目の『冬の灯台が語る時』にもイェルロフおじいちゃんが登場するようです。
機会を見つけて感想を・・・と思いますが、何時になるやら。

又、『黄昏に眠る秋』はスウェーデン語タイトル”Skumtimmen”で2013年映画化されているよう
ですが、日本未公開です。 残念! 何とか観る方法はないかしら?

余談ですが、
同じ北欧ミステリで ユッシ・エーズラ・オールスンの『特捜部Q」シリーズ。
1作目の『檻の中の女』は以前ご紹介しましたが、その後シリーズ7作目『自撮りする女』
まで読み終わりました。
回を追う毎に面白さが加速して、人気の程が窺がわれます。
新作が出ないかと待っているのですが・・・・。
このシリーズも機会があれば再度触れてみようかと思っている所です。


3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
うー――ん (Abi)
2020-01-12 11:02:29
ハッピーエンドではありませんの一言にガーン!能天気お気楽婆さんはハッピーエンド大好き人間なのです。だから、フランダースの犬は大嫌い、あれだけ苦労させて最後はこれ?って。先入観のせいか北欧のは何だか暗い、殺人とかの犯罪を扱うのだから明るい訳が無いのですが、、、意地でもハッピーエンドにしてやるものかと作者が頑張ってるのではと疑います。コーモラン翻訳早くぅ~。
返信する
>うー――ん (Yam Yam)
2020-01-12 19:04:46
Abiさん、
確かにハッピーエンドは心地よいですね。 ただ、この作品で何であればハッピーエンドになり得るのかと
考えた場合、実は行方不明の少年は生きていた・・・となるのかも知れませんが 母親をもとより関係者は
心の中で生存は無いと分っていても、失踪の経緯、犯人も分からず、遺体も出なかった事により事実とし
て納得できず ヘビの生殺しの様な状態で20年苦しんできた状態ですから、それらが明らかにされ辛い
けれとそれを受け入れ区切りをつけられる、そしてその苦しみを乗り越えて新たな道を見つける、という再
生も1つのハッピー(とは言えないかも知れないけど)エンドとも考えられるのかと思います。新たな生き方
を考えるという光が見えるという意味では好ましい余韻を感じる良いエンディングだと感じました。
兎に角、この作品中おじいちゃんの頑張りに励まされますよ。 個人的には気に入った作品です。
返信する
Unknown (キムさんへ)
2020-01-13 10:56:17
はじめまして。
メッセージ有難うございました。 コメント欄から返信させて頂きます。

英国ドラマお好きとの事、仲間が増えて嬉しい事です。
なかなか更新がままなりませんが、出来るだけ情報をお届けしたいと思って居ります。
これからも引き続きお付き合い頂ければ有難いです。
何時でもご意見、ご感想、ご指摘等コメント頂けると嬉しいです。 お待ちしてますッ!
こちらこそどうぞよろしくお願い致します。 
返信する

コメントを投稿